表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界観  作者: うさぎ赤瞳
7/25

試験

    八


『そろそろですね』卑弥呼の想いに打たれたなんちゃって科学者が現れて、思念を送っていた。結界内にいる御霊たちに言葉は必要ない。思念を送りやり取りができる。内緒話しをする時に、言葉を使用する。人の世の常識は、通用しない、ということだ。悪意を持っていないことは、隠す必要がないのである。


 卑弥呼はなんちゃって科学者に見向き、『試してみて下さい』と送り返した。なんちゃって科学者はそれで、三名を集める。


「試験してみませんか?」

 (たず)ねたのは形式であり、本人の知らない成長分を教えるためである。

「試す意味は、落第を見定めるためか」

 野口が、さきがけを心配して代弁していた。

「試験とは、身に付けたものを試す機会なのですか」

 乙女の時代には試験などなかった。成長を測るために、やらせることはある。可愛い子には旅をさせろ、という格言が生まれる前の時代の生存者だからだ。そういう誤解から、目に見えないずれが生じる。錯覚と同じで、人が気付かなければ波乱をもたらす。経験は感じながらできるから、知識よりも役に立つ。懲りないのが人でも、忘れない記憶にできるのである。その変わりに色褪せるのが、玉に(きず)だった。

 争いの起源は、ずれが心を蹂躙して産み出したものだろう。親の心、子知らずは、子の心、親知らずとなる。

 言葉が足りないや、無造作に使われる言葉に、悪印象を持つのが人なのだ。?、と思うことは生きる上で必要不可欠だし、それに気付かないために心に持つ自尊心を蔑ろにされたように感じるはず。

 性根が解らないお他人様ゆえに、敏感に察することが必要になるのだ。心配りをされてそれを悪意に受け取る方を除けばだが。自分のことを棚にあげて、と言うのが身に染みるはずだ。


 三名の葛藤を見届けたなんちゃって科学者は、「私の生きた時代に行きましょう」といい、気を張った。

 気は小さな点として現れた。

 眼に映らない元素を動かし、眼に映る歪みを造り出した。

 歪みを取り込んだ点は次第に大きくなり終には、人が通れるほどの大きさになった。その穴の淵は時計と反対に回転している。回転でできた摩擦熱が淵を焦がし、火の気を帯びた。


「行きましょう」言ったなんちゃって科学者が、その穴に飛び込んだ。三名は興味本位からそれに続いていた。

 四名が飛び込んだ穴は、廻りながら萎んで行った。


 堕ちるような錯覚に襲われながら、四名が過去にやって来た。

 西暦1999年の日本である。ミレニアムに沸く人々が造り出したその時代を色に例えると、灰色に映っていた。芸術を志した方なら知っていると想うが、すべての色の絵の具を混ぜ合わせると、出きるのは灰色である。

 是非の間にある色をグレーと呼ぶその時代は、乱雑に入り乱れていた。

 

 人それぞれが造り出した歪みは、心を失くした理由です。三名の心に届いた思念は、虚しいような切なさに襲われていた。


「何をやっていた。このうすのろめが!」

 恰幅の良い男性が、女性を叱りつけていた。

 

 なんちゃって科学者の造り出した電磁籠に包まれた三名に、見えないはずの女性から発する逸物が見えた。(さげす)まされ叱咤された女性が抱いた悪意は、『殺してやる』という、物々しい逸物であった。

 三名の心に届いた思念は、『あの女性が次に行うのは、なんでしょうかね』だった。


「殺人事件でしょうね」

 さきがけは淡々と発しながら、『踏み留まらせる方法は』と、己のするべき行動を模索していた。

「説法で止められたとしても元を絶たないと、第二第三のあの女性が出るな」野口は口にした分析を、哀れみに包んでいた。

「傲慢を排除できません。いつの時代でも人は、自己中心的意識に駈られるようですからね」

『格差を産み出したのは、人です。絶滅危惧種という自覚が失くなりましたから』

 なんちゃって科学者から届いた思念で、三名の希望にとどめが打たれていた。


「復讐や仇討ちでなければ良いだけですよね」言ったさきがけは思い余って、電磁籠から飛び出していた。

 ふたりが後を追うように出た。


 女性の元に行き、「会社を()めて(しま)いなさい。貴女の殺意を治めるためには、住む世界を変える必要がありますから」と、さきがけは言った。

「貴女が罰を与えなくとも、罰は必ず下ります。理念に包まれたこの世に縋ることは、悪行ではないはずですから」乙女が補足していた。


 女性を納得させて、三名がなんちゃって科学者の元に戻ってきた。

「終わりですか?」

 電磁籠を解いたなんちゃって科学者が、(したた)かに言ってのけた。

 三名がその言葉で固まっていた。


 いち早く我に返った野口が、「あの方が路を踏み外さないために出きることは、想いを寄せることのはず。帰る前にみて措きたい」と発した。

「右に同じです」乙女が賛同した。

「寄り添うなら帰れない。悪魔の囁きは束の間の油断に巣くうはずだからね」さきがけがふたりに向かって説いた。

 なんちゃって科学者が嬉しそうに笑顔を向けた。

 それに気付いたふたりが、落胆をみせていた。


「私はこの時代に生存して居たので姿を隠しますが、分身の世話になって下さい」

「草葉の陰から監視するつもりなの?。同一人物なんだから乗り移っちゃえば良くない」

「同化しても、変わらないです。卑弥呼さんと疎通を交わしていますからね」

「だとすると、貴方も命を狙われていることになりますね」

 乙女は身を置き換える理由の経験者だ。

「既に境界線は踏み越えています」

 なんちゃって科学者は照れ臭そうに応えていた。


 命を亡くした経緯は解らないが、過去の意思と同化するご法度を、乙女は心得ていた。

 未来を想像する自由はあれど、体験した事実を持ち込むことは赦されない。未来を変えてしまう試みは、原点回帰の処罰に見舞われる。それが今世の仕来りだ。

 たどり着かないことを恐れた神々様が、時空を歪ませ交わりを目論むことが極々稀にある。所謂それは、過去・現在・未来を一本に繋ぐ理由だ。突然変異は予知できないから、超法規的処置ということだった。イレギュラーへの想定は、神々様でも無理だからである。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ