|英傑《ヒーロー》に成るために?!
二十六
うさぎは、さきがけの天真爛漫に触れて、心にしまい込んでいる、思いの丈を打ち出すことを決めた。
「前に言いましたが、心を解放する理由は、何だ? と想いますか」
「色々と考えられますが、魁の想いを解き放て、ってことなんじゃない? ですか」
「その理由は? って訊いてるつもりなんですがね」
「??」
「赤瞳が聴きたいのは、心が、宇宙そのものということに、気付いたかどうか? なんですけどね」
「宇宙? だったんですか」
「想像する空間は、限りない、と教えましたよね」
「そう言えば?って、なりませんよ。だって、身体という器の中にある心が、無限大の質量を上回る宇宙とは、考えられないもん」
「ならば、感性という無機質でも、同じように考えなくてはなりません」
「感性?って、無機質だったんですか」
「赤瞳はよく、人それぞれって言いますからね」
「だったら、紛らわしくないように、小宇宙にしましょう。それならば、類似の括りで、想定内になるはずだからね」
「別に構いませんが、気の持ちよう、ですよ」
「だって、赤瞳さんが云う世界観は、赤瞳さんのもの。魁の世界観は、赤瞳さんには解らない? はずだからね!、?、・・・」
「今、気付きました? よね」
「解き放つのは、自由ってことかなぁ~?って、閃きました」
「だから、赤瞳は、想いから始まった世界って綴って要るのです」
「宇宙の倣わしを、循環の法則っていうのは、そういうことだったんですね」
「宇宙に漂いながら、掬われることを待ち望んで要る理由にも繋げられますからね」
「だから、掬われた者を、賢者って想い定めるのかぁ~」
「偉人に成れなくても、掬われる為に、徳を積むのです。いつか? という希望を持てば、努力を続けられますからね。それに、淋しい時は、最寄の仲間との連結も可能ですからね」
「それで、自分を点にして、仲間との線で繋ぐ為に、神々様を利用する訳なんだね」
「それが、感性を育むのに、一番手っ取り早いです」
「その認識を持てない魂が、悪霊と云われ悪さをしでかすんだね」
「本人は、悪意を持っていなくても、道理に反すると惜しめられます。それを傍迷惑と感じられれば、呵責に苛まれません」
「お節介は傍迷惑と承知して欲しいけど、一応、善意なんですよね。呵責という認識は、まず持たないですよ」
「そこに謙虚さがあれば、迷惑に気付けます」
「謙虚さ、っていうけれど、なかなか難しい? んじゃないかなぁ」
「傲慢が蔓延った理由は、謙虚さを持ち合わせなくなったからです」
「それは、赤瞳さんが出した結論なんでしょうが、結論の先をみれば、違う何かが見える? んですか」
「正対すれば、非が解ります。反省できれば、可能性という器も育ちますよ」
「それって、器量のことだよね。育ちには、限界はないの」
「限界を作れば、駄々漏れするだけです。だから、先がまだあると、自身に言い聞かせれば、方法を模索できます」
「それって、表面誇張みたいなこと? なのかなぁ」
「何故、水を例にしたんですか」
「閃いた、だけだよ」
「土にしても、砂にしても、山にすれば、量を増すことはできます。単細胞生物が誕生したのは、嵩ましとは考えられませんかね」
「嵩まし?」
「宇宙の絶対零度は、引っ張られ作用の限界点ですが、宇宙の一員の地球の絶対零度は約四分の一です。赤瞳は、層に護られる理由を、嵩まし分を保持する為、と考えているんですよ」
「でも今は、オゾンホールが空いて、護りが弱くなってる? よね」
「その為に重力があります」
「ならば、引力? は」
「月のこと? ですよね。地球の質量と、月の質量を比べれば、力関係は明白なはずです。因みに、月が、地球の層の中に入ることはないですよ」
「手が届きそうなほどの十五夜でも、層の外なの?」
「層の中の湿度が下がり、層が虫眼鏡の役割を果たし、光の屈折を大きく見せているようです。或いは、想い入れが、錯覚の原因かも知れません? がね」
「どうして錯覚? するのさ」
「満月自体が錯覚なんです。天体の光の反射は、限りなく円に近いという錯覚です。放射の反射光が、影を消す作用をします。正確にいうと、月食時に、地球がスケルトンならば、自身の位置(点)と、月の頂点が、太陽の対面頂点と線で繋がる時だけが満月になります」
「それって、理論上? ってことだよね」
「まぁ、それが、赤瞳のいう世界観です」
「魁は、獣人だから、錯覚でも、お月見ができれば好い。四季の織り成す風情を楽しみたいし、感性が研ぎ澄まされる世上に感謝したいなぁ」
うさぎは遠回しに言い、さきがけに生きる意味を教えていた。一重に、純真な心を保つ秘結は、面倒臭い柵を、根気よく解してゆくことだからであった。
二十七
うさぎは、さきがけの成長を確認して、
「信長公の残した遺伝子は、秀吉や家康の悪しき呪いで、世の中に出ないための曰くと為りました。代々重ねた遺伝子を解放するのが、魁に託された、使命です」
「曰くを灌ぐんじゃ? なかったの」
「天命家の曰くを灌いで、徳を積める者のひとりに、大門家があります」
「どういうこと? なの」
「大門家は、乙女を割った姉妹の末裔です」
「姉妹ってことは、親戚ってこと? だよね」
「織田信長の妻は、斉藤家の娘の胡蝶さんです」
「斎藤道三の嫁の血筋に、大門家の血が流れて要るのかなぁ」
「正解です」
「だとしたら、曰くと曰くが重なって、魁に白羽の矢が立ったってこと? だったんですか」
「だから、やり直しが降ったのです」
「だとしたら、それを教えるために、赤瞳さんに導かれたことになる。それって、卑弥呼様の策略ってこと? なの」
「かも知れないですし、三妹さんの意を汲んだ結果でしかないはずです」
「魁に、三妹様の血が流れて要る? の」
「神々は、心に宿る虫ですから、遺伝子の継承はできません。考えられるのは、想いが込められて要るからでしょうね」
「想い? だから願いが叶ったの」
「でしょうね」
「だとしたら、赤瞳さんは、それを承知で、手を貸した訳? だよね」
「そうなりますね」
「そうなりますねって、それが、赤瞳さんの徳に繋がるの? 魁には、徳を積むことが、ただのお節介に想えるなぁ」
「傍迷惑? ですか」
「じゃないけど、徳=得するイメージが、今の世界観? なんだよね」
「個性は、なくて七癖あって四十八癖ですから、知識で上書きして、訂正していくしかないですよ」
「魁はそれで、儲けものだけど、赤瞳さんはそれで良いの」
「赤瞳は、疑問という柵を解き解したいだけです。それで、世知辛い世の中が和むなら、住み良くなるはずですからね」
「?、赤瞳さんには、欲はないの」
「ないこともないですが、お他人様の、満面の笑顔に代わるものはない、というのが赤瞳の持論なんです。つられて笑う世の中ならば、愉しいとは想えませんか」
「想うけど、骨が折れること間違いない? よね」
うさぎはそれを、笑って誤魔化した。さきがけもそれで、つられて笑っていた。




