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世界観  作者: うさぎ赤瞳
23/25

刻が絡ませた英雄達

    二十四


「ねぇ、赤瞳」

「なんですか? 三妹さん」

「何故、魁君を連れて来たのよ」

「皆さんに引き会わせる為です」

「それは本心じゃないわよね。白状しなさい」

「どういうこと?」

「赤瞳の先読みは違うっていうの?・・・」

「信長さんが我慢した理由は、源氏の謂われに群がる者たちを卑下したからでしょう」

「それって、天下人を目指す野望を蔑んだから? なんでしょ」

「解っていたんですね」

「神々様を亡ぼしたのが人間って云ったからね」

「その者たちが平家で、仇をとったのが、源氏。日の本の國に伝わった男尊女卑は、男神の傲慢が象徴として残ったものだからね」

「炉の神である、卑弥呼さんが教えたかったこととは、守ることの責任のはずです? よね」

「もしかして、託したのが人間だったから? ってことなの」

「六弟が好色で、手を出してたからってこと? じゃあないの」

「違うわよ。女神様(おねえさま)が守りたかったことは、子を産めるのが女子だったから。女神は子を産まずに、分裂するからよ」

「そうなんですか」

 さきがけは云って、卑弥呼を注視した。

 卑弥呼は照れ隠しでそっぽを向いた。

 其れで

「遺伝子で繋がることで、より良い未来、という希望を託せるからです。可能性に繋がるものは権利ではなく、責任なんです」と、うさぎが代弁した。

「それじゃあ、自由は存在しない、ってことになっちゃうよ」

「勘違いしちゃダメよ。責任を放棄することは、生命体に許されてないの。だから、魁君は、やり直しになったのよ」

「僕の責任? それが、信長さんの意志を、だったの」

「織田家を利用した者たちの悪意を露見させなければ、信長さんの魂は、成仏できませんからね」

「どういうこと?」

「三妹さんが残した曰くが、総てのもとなんです。ずる賢いさるにしても、人質として心の芯棒をねじ曲げた者も、源氏の家督を後ろ楯に、平和を装っていたに過ぎません」

「平和を名目に、成り上がったってことなのかぁ」

「ヤーヌスが鏡を視なかった理由は、そこなんです」

「ヤーヌス?」

「初めに切り離された、女神様(おねえさま)のことよね? 赤瞳」

「ヤーヌスは感性様(そうせいぬしさま)よ。善悪の両極の持ち主だからね」

「両極を持つが故に、善意の女神(ヘスティア)さんを切り離したんです。しかしそれを慢心したから、次妹(デメテール)さんから、六弟(ゼウス)さんまで続けて切り離してしまいました」

「その慢心が、傲慢に繋がったの。だから、遺伝子を闇に隠したの」

女神達(わたしたち)鬼神力(おにがみのちから)が備わっているのは、そういうことなのよ」

「互いに反対方向を向くヤーヌスは、善意と悪意の両極を持ち合わせた神なんです。だから昔から、鏡に映る姿を見る習慣があるんです」

「それって、天使と悪魔を確認するためだったのかぁ」

「漢の皇帝が送った銅鏡は、人間に試練を与える卑弥呼さんに、その姿を見ろという、暗示だったようです」

女神様(おねえさま)の姿が、鬼の形相に映った? っていうの」

「矯正を、強制に感じたんでしょうね」

「こんなに心優しい女神様(ひみこさま)が、鬼に見えたのかぁ」

「人間の眼が万能でないこと証明しています。偏見で見たものを、錯覚として捉えられない幼さも、同時に立証しました」

「哲学のようだね、赤瞳さん」

「象形文字から文字に至る段階で、疎通が歪んだからでしょ」

「簡単に謂うな? 三妹」

「だってそうでしょ、四弟」

「神々を亡き者にしたからか?」

「挙げ句の果てに、神頼みまでしてるんだからね? 五弟」

「卑弥呼さんを、鬼の形相に映したのは、十戒を蔑ろにした、罰の悪さからでしょう。人間に戦慄が走ることで、其れを証明しています」

「ヤーヌスの悪意と、鬼を一緒件(いっしょくた)にしたってことなんだね」

「志を高めるためには、強靭な意志を必要とするからね」

「赤瞳が云う、自分に厳しく、他人に優しく、は、そういうことだろう。神々にしても、自分に甘い者ばかりだからな」

「そういう気骨のある人間が好き? なんでしょ、六弟は」

「立ち向かうことが、男としての本文だからな、次妹」

「それでも、赤瞳の出現で、六弟も随分、温厚になったわよね」

「違う。我が丸くなったのは、宇宙(てん)の思し召しだ」

「刻まれる時間で、いがいがが削られたんだよな? 六弟」

「そういうことだ」

「どういう経緯で知るか解りませんが、本当の自由は、責任逃れをしない大人にならないと解らないはずです」

「時代背景に左右される人間には、解らないはずよね」

「それが、言葉の重さに繋がって欲しいわね」

「そこにも、神々の仕組みを取り入れたいわね」

「どういうこと? なの、次妹さん」

「誓約書は、交わした段階で消滅するのよ。言い逃れはできないわ」

「消滅しちゃうなら、反故にされることはみえみえじゃん」

「其れを防ぐために、心に刻むんです。反故にした段階で、死神に命を執られるんです」

「誓約書って、デスノートなの?」

「役割は同じもの。戦慄は、其れを教えるために発動します」

「其れをすり抜ける者は、地獄で浄化され、回帰に至るわよ」

「経に護られて、黄泉の國にやって来ても、直ぐ様、堕とされるからね」

「そうなると、仏教の信教者が減るんじゃないの?」

「世知辛い理由が、そこにも蠢いているわ。元々の悪人が改心しても、其れだけでは足りないの。徳を積む理由は、=で帳尻を合わせられないのよ」

「其れを教えるために、(ぼく)を連れてきたのかぁ」

 さきがけは勝手に納得していた。



     二十五



 帳が降り切り、人々が寝息を奏でている頃である。

 宇宙(てん)が騒がしくなっていた。無重力空間の均衡が歪み、流れ星が多発する。人はそれを、流星群と認識するが、統制が効かなくなった状態は、未曾有なのだった。

 結界ではそれを、悪しき兆候と知っているから、慌ただしくなっている。さきがけが、うさぎの(もと)にやって来た。不安を打ち消す為に、その理由(わけ)を訊きに来た、ということだった。

 ただならね不安は闇を取り込み、異光に変えて、身体から発せられていた。うさぎは千里眼で、その(もと)を特定して、

「感性母さんの嘆きが、天の邪鬼になっている、だけですよ」と、結論付けた。いきなりそんなことを言われた、さきがけの心は動揺して、心の芯棒を揺らす始末で、

「発端は、(ぼく)の無知さ? じゃないの」と、被害妄想を募らせていた。うさぎは内々に熟考して、現実(こたえ)に導く為の語句(ひょうげん)を模索していた。

 其所に現れた三妹が、

「人に見えないもののひとつに、臍の緒があるの。人はそれを、運命の赤い糸、と呼んでいるわ」

「生命体の全てが、その糸で、繋がれています」

「ということは、(ぼく)も例外ではないってこと? だよね」

「そういうこと。人に認識できない『息吹き』があるからね。その息吹きで異変を感じた感性様が、引いただけのことよ」

「引く? って、籤引き? みたいに」

「?」

「ご免なさい、三妹さん。世知辛い世の中を、あみだくじと、教えました」

「そういうことだったのね。(あなが)ち間違いではないから、別に構わないわよ」

 うさぎは照れ隠しで笑顔を諂い、三妹はそれを、許容範囲に納めていた。だが、人騒がせな偉人たちが、それに尾ひれを付け、結界内が慌ただしくなって終っていた。


「赤瞳様、流星群は、天変地異の序章です。先読みで、変更される未来を教えて下さい」

「特に変更されるものはありません。早とちりで騒ぎにしないで下さい」

「そんなことはないはずです。古代(いにしえ)からの(なら)わしは、人知の結晶です」

「時代背景が落とす陰なだけですよ」

「ならばせめて、老いぼれの冷や水の理由だけでも教えて戴きたい」

「十五夜の鮮やかさが発する魅惑が、人の心を錯覚に落とし込みます。その理由は、湿度が下がる秋の快適さに、観ている(もの)と、亡者(もの)の想いが、(あわさ)るからです。人間が錯覚に捕らわれると、(うつつ)(まぼろし)の境界線を歪ませますからね」

「哀愁というやつ? ですか」

「秋の心は、乙女心と秋の空、と言いますからね」

「夏の忌まわしいほどの暑さから解放されたことで、内なる被害が表面に現れるのよ」

「三妹様が云うのなら、そうなんでしょうね」

「熱で機能を補う回路(しくみ)は、人間の内なる機能(バランス)を崩します。自律神経に調整される回路も、通常の回路に戻されますが、自律神経の疲れを弁えて下さい」

「己を知りなさい、って、赤瞳がよく云ってるでしょう。人は人のことを、知らなすぎなんですよ」

「無理が生じている? と」

「休めないなら、回帰してしまえ。感性様の天の邪鬼が、そう結論付けたに過ぎません」

赤瞳(わたし)はよく、女神の休息、と言いますが、休むことを希望するのは、それこそが、自由の象徴です。女神に見倣って、休息を取るように、心掛けて下さい。ひとつしかないものは、取り替えが効かないんですからね」

「希代の名伯楽(いじんたち)が、本当の英傑(ヒーロー)なんですからね」

 うさぎと、三妹が顔を見合せて、意味深に吹き出していた。さきがけだけでなく、遣ってきた結界の住民たちも、ハトマメ状況に陥っていた。帳が手薬煉を引き、秋の夜が更けていった。







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