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世界観  作者: うさぎ赤瞳
22/25

引き換えにするもの

    二十三


 うさぎは心許無げに

「先般、空気にまみれた祈祷(くろ)呪文(のろい)を、光の下に晒してみます。三妹さんの思念を変換して、無限大(カオス)を造り出してもらえませんかね」

「その真意は、なにかしら?」

「パラレルワールドじゃないかなぁ」

「魂の値踏みをするつもりなの?」

「三元主にしかできない還元に、活路を見出だせないですかね」

「やってみましょうよ、三妹様」

「失敗は嵩増(たか)くつくわよ?」

「引き換えにするものはなんなんですか? 三妹様」

「三元主の領分を侵す行為は、勾玉の放棄に繋がりかねないわ。粛正の先は、消滅しかないですからね」

「それでも誰かが遣らなくては、希望は産まれません」

(ぼく)の勾玉も取りあげられても構わない。赤瞳さんの力になれるならば、なりたいんだよ」

赤瞳(わたし)のことなら心配要りません。もとより消滅去れる生命体なんて、ないんですからね」

「ひとつだけ、心して! 再生できたとしても、其れまでの記憶はなくなるわ。リセットの意味は、(ゼロ)に戻すこと。甘ったれた感傷で、やり直すつもりなら、引き返せないことだけは自覚しておきなさい」

赤瞳(わたし)は自覚しています。それでも、魁君は未来を担う若者ですから、もしもの時は、三妹さんが無理矢理にでも、連れて逃げて下さい」

(かれ)が其れで良いのなら、三妹(わたし)に異存はないわよ」

 三妹は言い、さきがけを見やった。

 さきがけは慟哭(どうこく)に駆られ俯いてしまう。圧し殺した声色と裏腹に、肩が上下していた。

 うさぎは、三妹と(あい)相互(コンタクト)を交わし、思念を千里眼にのせ、放出し始めた。それに合わせる形で、三妹が思念を電磁波に絡める。

 互いに構築した絆は、七色に変化しながら、絡み重なり無限大(カオス)を造り出してゆく。人の耳は轟音と聴き錯覚(まが)い、視界に(やみ)を引き込み始める。

 計り知れない無限大(カオス)は、背中合わせの明暗を白日の(もと)に晒し、回転力で三竦みを確立する。

 輪廻が浮き彫りになると、その奥行きは量子の境目すら狂わし、物理は無いに等しくなる。


「あった!」

 さきがけが見つけた黒点は、正円から淀み出し、息吹きで存在を現した。うさぎは左手で、電磁籠を造り出し、その黒点を捕獲するべく投げ放った。その電磁籠は、刻の流れに阻まれ、バチバチとしのぎを削る。

 三妹も左手で思念を造り出し、電磁籠を圧すべく解き放つ。

 その時、三妹の思念に重なる思念が顕れた。

「手こずって要るようですね?」

 聴こえた声は、次妹のものだった。姿は視えないが、想いの丈を重ねてくれている。それでも均衡は変わらない。

 

 電磁籠の色合いが、玉虫色に変化した。

女神様(おねえさま)?」

「有り難うございます、四弟さんに、五弟さん!」

 うさぎが(いう)

「困った時はお互い様じゃろうが、赤瞳」と、五弟が光陰の如く現れる。

 うさぎはそれで、感謝を込めて、会釈した。同調した思念が、少しずつ光沢を増してゆく。

「六弟さんも? ですか」

六弟(おれ)は、気骨のある(やつ)が好きだからな」

「単なる、天の邪鬼? なだけでしょう」

「卑弥呼さんも、ですか」

姉妹兄弟(かぞく)? だからな」

「一気に押し込むわよ」

 三妹は後方支援を受け、強気になった。

 電磁籠は其れで、活気付く。ジリジリと摩擦を発しながら、勢力を上げていった。しかし、刻はギヤをあげ押し返す。


 うさぎと三妹が憂慮で顔を歪めた。

 その刹那に、宇宙で煌々(こうこう)と光るレンズ星が、光陰矢の如く降り注いできた。

「何をするつもりなの? 疾風(はやて)

「疾風? さん」

 さきがけが初聴(ききおぼえ)のない名に、口を挟んできた。

「赤瞳の心を開眼させた神よ」

 三妹が、その問いに応える。

「レンズで増量(かくだい)させ、主導権を取りましょう」

「∞の循環ね? 疾風」

「電磁波を循環させて造り出したのが電磁籠です」

 うさぎは淡々と講釈を交えた。


「ならば、主素も引き寄せて、エネルギーに転換させましょう」

「流石だな、頭領神(あねご)。知恵の神は健在ということだな!」

「疾風の登場で、見識の回路が、復活したようだな」

 無口の四弟も、気心を披露する。

「知恵の神は、プロメテウスさんじゃなかったっけ?」

 さきがけにとって記憶していることは、ギリシャ神話でしかない。

「疾風を切り離した時に、叔父(プロメテウス)から引き継いだんでしょうね」

「次妹さん!」

「赤瞳には云われたくないわ」

「どういうことだ? 次妹」

六弟(あんた)が天狗になっている時のことよ。次妹(あたし)理性(あのこ)を切り離したのは。女神様(おねえさま)に習っただけです! がね」

卑弥呼(わたし)は、創世主(かんせいさま)に習っただけ。その責務は、分割するのが、宇宙(てん)運命(さだめ)だからよ」

「もしや、我を目の敵にするのは、叔父を排除したから? なのか」

「それが、母なる創世主(おかあさま)の意識だからよ」

「井戸端会議は後にしましょう。先ずは黒呪文を捕縛して、因縁を消すことですからね」

 疾風に云われ、神々が、現実(うつつ)を取り戻した。

 すると、宇宙(そら)燦然(さんぜん)と輝く一等星以上の星等(ほしぼし)が、レンズ星を経由して、光の焦点を合わせ始める。

「有り難うございます、感性母さん」

 うさぎは謙虚に、礼を放った。それで、一気に捕縛に成功した。

「どうやって還元するの? よ、赤瞳」

「折角、光が集められているのですから、万華鏡にしましょう」

「万華鏡?って、回帰に至るの?」

「毒を以て毒を制す、ってこと」

「その真意は?」

「還元よ」

「赤瞳は、必要のないものはない。って、信念を持ち続けているからね」

「だが其れじゃあ、再び呪いに使用(もちいられる)わい」

「その時はまた、還元すれば良いでしょっ」

「お気楽になったものだな、三妹よ」

「繰り返されるのが、今生の妙です。神々(みな)さんが、必要とされるなら、其れもまた、乙な計画(はか)らいになりますからね」

「何処までも、小癪な赤瞳(やつ)だな」

赤瞳(わたし)が切り離された理由(わけ)は、プロメテウスさんの復活を模索したからなんですよ、六弟さん」

頭領(あねご)が気に入った理由? か」

愛息子(キリスト)にしても、命を狙われ続けてしまいました。同じ十字架(しゅくめい)を背負わせてしまったようですね」

「それが母の愛情(ほんい)なら、男神(いげん)にうつつを抜かす傲慢も知れるはず? よね」

「だと良いんです? がね」

 うさぎは言い、電磁籠を微小化させる。還元されたことで、元素となった分子は、悪意を萎ませる。そして電磁籠の隙間から、大気中へ帰ってゆく。人はそれを視ることはできないが、第六感で感じることはできる。ーはずである。

 引き換えにしたものは時間で、心と経験値を増殖(ふや)す。

 いつの日か、役立つことを希望にして、日々成長するのは、そういうことであった。


 


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