事の真相
二十二
三妹が向かった先は、桃山となった時代であった。
「どうしたんですか? 三妹様」
さきがけは着いた先で、三妹に問い掛けた。
「汚名ばかりではなく、呪いまで掛けていたとは」
「サルと言われた所以は、三妹さんも御存知だったはずです。明智に組した松平を封じるために、呪いが封印となり、天命家に注がれた、ということでしかありませんよ」
うさぎは得意の先読みで、顛末を見据えて語っている。
「そもそもが、欲にまみれた物語だったのですね」
三妹も、うさぎの先読みを念い入れられた。
「三猿に組み入れられた念いは、織田家の誉れに縋るためだったようです。乙女さんが曰くにした、源氏の家督がもたらす厄でしかありません」
「目先を撹乱されてしまったとは、一生の不覚」
「いえ、世を捨てた矯正力でしょう。お二人ともその業から、未練を残す羽目に至っています。最早斯うなると神掛かっているとしか、言い様がありません」
「六弟が絡んでいるってことなの?」
「影を踏まないやり方ですからね」
「六弟様って、ゼウスのことですよね」
「征夷大将軍を通り越し、関白まで登り詰めています。一介の百姓が持ち合わせる運命の範囲を越えています」
「そんなこと言ったって、教わってないよ? そこまでは」
「視えないものに振り回されるのが人間だからよ」
「確かにそうです。ですが六弟さんは、悪戯を超えて、悪意を蔓延させています。卑弥呼さんが立ち上がった理由ですから、魁君にも理解できますよね」
「ならば、卑弥呼様も連れてくれば良かったよね」
「それが志の妙なんです」
「妙って、言い掛かり? なの」
「この時代だと、武士の心ですが、百姓に武士の心なんて、持ち合わせているはずがありませんからね」
「ならなんで? なのさ」
「垂らし込まれたのが武士だからよ。魁に信長公の血が流れているなら? 解るわよね」
「そこなんです。血に宿らせる仕組みに、六弟さんの知恵が持ち入れられたんでしょう」
「血に宿らせる事ってできるのかなぁ?」
「この時代ならば、村八分しかないわね」
「村八分?」
「イジメの大元です。狡猾で真似な神の六弟さんならではの、芸当です」
「村八分と真似とをどうやって繋げるのさ」
「人は権力に靡くもの。虎の威を借る狐で解るように、権力者に逆らうものは処断される、意識にそう刷り込むだけなんですよ」
「視ない振り、視ないから聴かない。聴かないから知らない、知らないから言わない。三猿になるわよね」
「だから、情が育まれたのかぁ」
「袖すり合うも多生の縁、って言いますもんね」
「そう繋げるのかぁ」
「格差にまみれた時代が生み出した知恵よ」
「そこにも、三妹さんの知恵が垣間見得ます。女神さんたちは時を惜しんで暗躍していますからね」
「女神様たちが本当の水戸黄門だったんだね」
一同が、念いを重ねていた。
「それで、呪いはどうやって灌ぐの?」
「先ずは、儀式の選定でしょうね」
「かったるいわ。目星を付けて、冥界に引き摺り堕としちゃわない?」
「目には目を歯には歯を、を率先しちゃうの?」
「三妹さんの気性は、六弟さんを凌ぎますからね」
「激しい方? なの」
「だから、赤瞳と相性が良いみたいです」
「赤瞳さんも激しいってことなの?」
「赤瞳の場合、妄想の中で、激しいだけよ」
「妄想?」
「両極を想定しているだけです。最悪を回避できるなら、想像の中で激しいことも、ありですからね」
「それで、先の先に眼を向けられるのよ。三妹は面倒臭くてしないわよ」
「帳尻が合うから、相性が良いのかも知れません。波長は、総てが合わなくても、同じ角度を共有するだけで、折り返しますからね」
「其れって、どういうことなのさ」
「ひとつのキーワードで、瞬間湯沸かし器になりますし、違うひとつのキーワードで、急速冷凍にもなります」
「其れって、個人の感情を変える語句ってこと?」
「やる気スイッチみたいなもの。高揚や冷静は、キーワードを知るだけで、抑制できるってことなのよ」
「人だけでなく、神も思考回路が単純なのかも知れません」
「なんでさ?」
「この世の仕組みを造り出した元素が、たった三つの行動しかできないから。それを自然科学と、赤瞳が言うから、聴いたことがあるはずよ」
「それが赤瞳さんの理念だったのかぁ」
「そもそもが、見えないものから始まっています。肉体が終り、魂が分離される。其れを知るだけで、総てを知ったつもりになっているだけなんです」
「魂は死なないって言ったよね?」
「釈迦如来が、魂を黄泉の國に送るために、経を唱えることを教えました。その実は、光の道標を造り出すものです。しかし魂は、黄泉の國に行っても、侵入を拒絶されます」
「どうしてさ?」
「徳を持ち合わせていない魂が行ける場所は、冥界だけなんです」
「そんなことを云ったら、地獄ばかりが大盛況になっちゃうよ」
「だから、勾玉があるのです」
「もしかして勾玉って、通行証なの?」
「その判定神が、女神様なのよ」
「三元主が、徳を見極めます」
「どうやって見極めるのさ?」
「ブラックホールで元素還元させれば、善悪を判定できます。判定神が、徳に対して使わすものが勾玉で、持っていない魂の総てが、ブラックホールに向かいます。赤瞳が前に、宇宙の中心を玉手箱と云ったのは、ブラックホールに守られているからなんですよ」
「そういうことだったのかぁ」
さきがけは言い、納得できたのか、頷いていた。
「まってよ」
「何よ?」
「そうなると、冥界に堕ちたくない魂はどこへ行くのさ?」
「それが地縛霊と呼ばれる霊魂なんです」
「地縛霊? なの」
「眼に映らなく、大気中に漂うように彷徨っているんですよ」
「魂は死なないって云ったけど、どうやって活きながら得ているのさ」
「電磁波が流れるのは、主素が散らばっているからよ。光の進行で散りばめられる主素は知っているわよね?」
「宇宙のエネルギーって教わったけど・・・?」
「放射性物質の中にあるエネルギーと教えましたが、人の眼で視ることは無理と教えましたよね」
「そういうことか」
「どういうことよ?」
「地球上では、重力に圧され量子の境目に宛がわれるって代物。宇宙は無重力だから、エネルギーに変換するって代物のことだよね」
「知ってるじゃない」
「そういう代物だから、発光するんだよね、赤瞳さん」
「同調できた場合です。総ての霊魂が発光する訳ではありません」
「経験値が足りないならば、知識として持っておくことなんでしょ。魁は、赤瞳さんみたいな努力家じゃないけど、興味が湧くように教えられたのさ。実際に体験すれば糧になるはずだよ」
「疑似体験させたらどう? 赤瞳」
「無茶を云わないで下さい、三妹さん。そもそも同調する色合いなんて、何億通りもあるんですよ」
「珍しいわね、赤瞳が弱音を吐くなんて!」
うさぎは、ぼやいて見せた。
因みに、人は錯覚という第六感に騙され易い。そもそもが正しく見えているのかも定かではない。概念に惑わされ、意識を構成しているからだ。そう考えると、記憶の重要性も疑わしく想えてくる。其れなのに、疑問を抱かなくなる習性は、幼い生命体と云われても、それを間違えとは思わない。
今が過去になる速度は、一秒後からだが、その一秒を確実に刻める人はかなり少ないはず。訓練という努力をしない限り、惑わされるのが人なのである。
簡単なことを持続できないのは、自分に甘く、他人に厳しいから。どなた様も、自分へのご褒美は行き届いていますよね?。明日のあなた様が、今のあなた様よりも成長しているのは、経験値を重ねているからです。その経験値が、悪を善にし、善を悪にしてしまうのは、錯覚かも知れません、よね。




