帰還
十四
置き去り感満載のさきがけをよそになんちゃって科学者が、時空の扉をこじ開けて舞い降りた。
「どうしました」
気づいたさきがけは、寝室とリビングを交互に見て動揺する。しばしの押し問答の末、「どっちなの」と、頭を傾げた。この時のなんちゃって科学者と、この時に連れてきたなんちゃって科学者を識別できないからであった。
「生前の私は、時空間移動などできませんでした。生身の身体にのし掛かる重力は、圧力ですからね」
「そんなこと言われても、当たり前過ぎて考えたことなんてないよ。それよりも、ふたりをどこへ連れて行ったの」
「元の時空です。試験は終わりです」
「試験は終わりでも、教養のための視察が残ってたんだよ」
「お二人は視察団ではありません」
「未来のための礎なんでしょ。想像できないんじゃ、導けないんじゃない」
「おふたりの役割ではありません。雑踏が持つ紛らわしさを考えて下さい」
「はた迷惑、ってことなの」
「時代背景が変われば、矯正力は兵器並みになります。自然災害とはそういうものです」
「気候変動もそうなるの」
「元素比率が急速に変わったからです。能ある科学者が唱えたから、二酸化炭素排出量の削減に至ったのです」
「エルニーニョ現象などを理由にして、信憑性にしたって言うの」
「考えれば解ることです。そこに欲が絡むから、一気に進まないのです」
「人間が欲に振り回されているのは解るけど、僕の思惑を潰さないで欲しいなぁ」
「今回の試験の意図がそこなんです。善悪何てものは目に見えない自己満足なんです。やってみて駄目なところを修正できればよいですが、欲に惑わされた感情は、喧騒に惑わされるのと同じです」
「惑わされない意志を見せることが、今回の試験だったのか」
「強い意志を持ち、喧騒に惑わされずに立ち向かえるか、でした。義経さんは、疑心暗鬼を乗り越える。野口さんは、たったひとつの身体であることに気付かせる。貴方は、意志を貫くための身体を培うこと、でした」
「だから、怪我に寄り添ったのかぁ」
「刻まれる時間で癒すこともできますが、荒療法もあります」
「その選択肢を視れなければ、強靭な身体を持っていても意味がなくなるもんね」
「数ある選択肢の中の二極を選択するのは経験です」
「その経験が、なんちゃって科学者さんにはあった訳なんだね」
「足りなければ補うつもりでした。神さんがいれば、悪魔もいます。悪魔が指を咥えて視ているとは思えません」
「それは解るけど、牽制するための野次馬さんだったんじゃないかなぁ」
「円満の秘訣は、三竦みです。善悪の審判をするのが時間ということです。時計回りもあれば、逆回りもありますから」と言ったなんちゃって科学者が、指を鳴らして気を可視化した。淵を回しながら大きくなっている。それが時計回りであった。
「分身の居るこの世界は居心地が悪いです」
笑顔で言って、時空の扉に飛び込んだ。
さきがけもまた後に追いていた。




