猫人
イレギュラーで亡くなった魂に、更なる追い打ちがかかりました。未来を変えるために奔走する猫人に愛の手を!
一
「死んじゃった~」
天明 魁は事故に遭い、命を落とした。
『初めてだからどうしたら良いか解らないよ~』
誰もが経験することだが、その記憶はない。それでも天道を全うした謂われもなく、この期に及んで開き直っていた。
「ぬしには、やり直しを命ずる」
天界より届きし命はその記憶に従い、何人たりとも逆らえない。お告げには、絶対服従である。この世の仕来りはある種、傲慢だった。
「ならせめて、猫に転生させて下さい。それくらいの配慮があっても、罰は当たりませんよね」さきがけはダメ元で願っていた。
イレギュラーが憑きものの現世に、思いの丈をぶつけている。とは言っても、自らの怠け癖には触れようとしなかった。
そもそもが曰く付きなのだから、言った者勝ちは否めない。願うことは容易いが、前例はない。担当判事神はあっさりと「よかろう。ぬしのやる気次第だが、奢り高い人間を手懐けてみよ」含み笑いしながら説いた。神は悪戯好きだが、その魂胆は見抜けなかった。
猫人間が誕生した。一重に猫人間と言っても、ただの合の子であった。人間という括りである以上、努力を課せられる。可能性を除けば、獣人でしかないのだ。
これはそんな運命に翻弄されたもののけの物語である。
起こることは概念を覆し、まやかしの現実は想像を絶していた。
二
『どうしたもんかなぁ?』
さきがけは初めて、未来を想像していた。
出不精を極めた前世の記憶だけは残っている。
『やる気をみせて、友達でも造ろうかな?』いや、『ない知恵を補うために、偉人を勧誘しよう』いささか安直だが、人間を手懐けるには、人間を取り込まないと埒が明かない。怠け者特有の自己中心的思考では先が見えていた。
「神様、お願いがありま~す。タイムスリップしたいから、落とし穴を宛がって欲しいで~す」勝手に願ったが、神頼みが叶うなら70億人以上の願いを効かなくてはならなくなる。ダメ元で外出して、近所に落とし穴がないか探してみた。
「?」
それは落とし穴というよりも、段差であった。万民に与える訳にはいかず、苦肉の策だったのだろう。さきがけは「ラッキー。願いは叶うものだもんね。あっざっす」とほざき、過去に堕ちて行った。
「ひでちゃん見っけ」
さきがけが堕ちた先は明治時代であった。福島から上京した野口英世は北里柴三郎に師事していた。
「御初御座候」片言の漢文で『掴みはオーケー』とばかりに
「渡米まで御借りします」と連れ去った。そして、再び堕ちて行った。
移動の最中のことである。
「お主は俺のことを知っているようだが、なんのことやら解らん。説明してくれぬか?」
「僕の名は、天明 魁。訳あって力を貸して欲しいんだ」
「訳とは?」
「大明神より賜りし天命は、人間を改心させること。細菌学に優れている理由は知っているけど、足りない防備を身に染みさせる為に同行してよ。無茶苦茶かも知れないけど後学のためと割り切ってくれないかなぁ」
「後学?。はてさて何をとち狂っておるのか」
「足りないものに気付いた時じゃあ遅いんだよ」
「足りないのか、俺は?」
「身体はひとつしかないからね」
野口英世が自身の身体をまじまじと確認した。
さきがけにとって、知っている歴史を語るつもりはない。矯正力が働くことを知っていただけのこと。言葉だけでなく、記述にも注意する必要性を弁えたのだろう。寡黙は比較的好きだった。怠け者=無精者、上手く立ち回る為に必要なことは、無関心を決め込むこと。までがセットになっていた。ただそれを教えることが紛らわしいだけだった。
発想が爆発して、概念も観念も吹き飛びました。
被害妄想に駆られる物語を目指します。




