写身館
お久しぶりです。
気ままな投稿です。
古びた木製のドアをくぐると、写真館の中に俺の影が入っていった。
写真や水や鏡みたいに、人をうつす物には魂が宿るんだって父親がよく言っていた。だから、就活の証明写真くらいは機械のより人の撮ってくれる写真の方がげんかつぎという意味も込めてなんとなく良い気がしていた。
「いらっしゃいませ。お写真ですか?」
奥から落ち着きのある中年の男性が現れた。着ている服は古い型だったが、全身には清潔感があった。どうやらこの写真館のご主人のようだ。
証明写真を撮りたい旨を伝えるとスタジオに案内された。特に代わり映えのないスタジオだが、洋館の一室という点はどことなくお洒落さが滲んでいた。
「緊張なさらずに、背筋を伸ばしてぇ。はい、その表情です」
優しいご主人の声のおかげで、パリパリのスーツから緊張が溶けだしていくようだった。
パシャリ
パシャリ
1枚1枚丁寧に、俺の表情が切り取られていく。無限に続く千歳飴の柄になった気分だ。
「はい、お疲れ様です」
よく分からない達成感とともに無事、撮影は終わった
「ありがとうございます」
「良いですねぇ。お若い方はこれからの活力や若々しいと言う意味でも青さがある」
しみじみとご主人は語る。
「いえいえ、ご主人もまだそんなお年じゃ無いでしょう?」
口下手な俺は社交辞令の言葉を投げかける。
「いえいえ、今年でもう80年を過ぎですから」
どういうことだろうか?
目の前にいる中年男性は40そこそこ、仮に若く見えたとしても50代だ。それなのに80?
「あの、それって...」
突然、目の前がぐにゃりと歪んだ。
「あぁ、私の『鍵』になってくれたのはお客さんでしたか」
訳の分からない言葉を残し、俺の後ろへご主人は歩いていく。すれ違ったまま、どこかへ行くように。いつの間にか俺の後ろから光が差してきた。振り向けないまま、かすかに温かい光を背に感じる。光が水が落ちるように消えていくと俺の体は崩れ落ちた。なぜか、全身が強ばっている。
膝を動かし、振り返ると今まで無かった砂が小さな山を作っている。
そしてその上には黒い筒状の物。手に取ると軽く、ツルツルとした感触。
どうやらカメラのフィルムらしい。
中身は...調べなくてもわかるか...