観察者ミルカトープ
私の名はミルカトープ。今は、隣の地の魔王カミュスヤーナと会食をしている。
広間に現れたカミュスヤーナは、先ほどとは違い、シンプルな黒の上下の服で現れた。だがその黒の布地は、薄く光沢のある生地で、袖や裾などに施された赤や銀の刺繍が、彼の瞳や髪の色とあっており、彼の容姿の美しさを際立たせている。
「この度は、会食の場にお誘いいただきありがとうございます。」
「堅苦しい挨拶はよい。是非、我が地の特産物を使った食事を楽しんでくれ。」
食事はジリンダの海でとれた海産物が中心だ。大型の魚の蒸し物や、複数の甲殻類をあわせて煮込んだスープなど。カミュスヤーナの手の動きも止まることはなかったので、気に入ってもらえたのだろう。
食事後のお茶を飲みながら、私はカミュスヤーナに声をかけた。
「食事はいかがであっただろうか?」
「大変すばらしいものでした。」
カミュスヤーナは満足したように微笑んだ。
「そなたは、酒はたしなむのか?」
「ええ、人並みには。」
「ジリンダで作った酒があるのだが、一緒に味わうか?」
「ええ、ではお言葉に甘えまして、頂戴いたします。」
私とカミュスヤーナの前に、円筒形のグラスが置かれる。中には薄い青に色づいた液体が入っており、グラスの縁には透明な結晶がついていて、キラキラと光を反射している。
一口飲むと、清涼感のある風味とともに喉を焼くような熱さ、そしてグラスの縁についていた塩が、いいアクセントとなって、喉を滑り降りた。
カミュスヤーナにも飲むように勧める。彼もグラスを取って、その酒を一口含む。
「アクアテーゼという酒だ。だいぶ度数は強いが、飲めそうか?」
「ええ、このくらいであれば、問題ありません。とても清涼感のある酒ですね。塩もいい塩梅です。」
しばらく普通にグラスを傾けていたが、1杯飲み切るかという時になって、カミュスヤーナの様子がおかしくなった。
眼のふちが赤くなり、若干息が荒くなっているようだ。
「どうした?酔ったのか?」
「・・・ええ、珍しく酔ったようです。」
カミュスヤーナが目を伏せる。
「申し訳ありません。この一杯で失礼させていただきますが、よろしいでしょうか?」
こちらを見つめる赤い瞳は潤んでいる。ただ酒に酔っただけではないような様子に、私は目を細める。
「・・かまわない。どうやらネズミが入り込んで悪さをしたようだ。こちらで始末しておく故、本日はゆっくりと休まれるがよい。」
「申し訳ありません。一晩寝ればよくなるでしょう。」
私は侍女に、カミュスヤーナが下がる旨と連れの魔人を呼ぶようにと、命を出す。
魔人が食事を取っている部屋に侍女が姿を消すと、小声でカミュスヤーナに向かって呟いた。
「処理が大変であれば、花を用意するが。」
「・・寛大なお申し出感謝しますが、大丈夫です。」
カミュスヤーナが自分のこめかみに手を当て、軽く頭を横に振った。
私はその様子をグラス片手に静かに見つめていた。