父アルフォンス
私の名はアルフォンス。よく立ち寄る海岸に、珍しく人の姿を確認した。
手前にいるのは、プラチナブロンドの髪を持った青年だ。黒の上下服の上に簡易鎧を当てている。腰には長剣が刺さっていた。奥には水色の長い髪を持った女性がいる。髪は後ろで緩く一本に編まれているようだ。着ているのは青年と同じく黒の上下服だ。女性のズボン姿はここらではあまり見ない。
二人は海の方を見て、楽しそうに会話をしている。話している内容は分からないが、声が弾んでいた。
私がいることに気づき、奥にいた女性がこちらに視線を向けた。青い瞳を瞬かせる。
彼女は隣にいた青年の気を引き、後ろにいる私の存在を知らせた。
青年がこちらを振り返り、赤い瞳を細めて破顔した。
「アルフォンス様!」
「リシア?」
振り返った青年の顔はリシアのものだった。でも、髪と瞳の色が違った。私が訝しげに問いかけたのも仕方のないことだろう。そして、私は、その髪と瞳の色を見て、彼が何者であるか気づいた。私は、彼がまだ幼かった頃に会っている。
彼は私の様子は気にせず、隣にいた女性を伴って、私の方に近づいてくる。
「会いに来ましたよ。家族に。」
彼は左側の手の甲をこちらに向けた。左手の薬指に私が渡した装身具のうち、青色の宝石がついた方が嵌められていた。
「家に伺ったのですが、留守でしたので、棋獣だけ近くに止めて、この辺りを巡っていたのです。彼女と一緒に。」
彼は隣にいる女性の腰に手を添えた。
「アルフォンス様。貴方の娘のテラスティーネです。」
「!」
私は顔をこわばらせる。テラスティーネは、私を涙がにじんだ瞳で見つめている。
「全て話しました。私は妻に隠し事はできないたちでして。」
「妻?」
「ええ、私の正体は、エステンダッシュ領摂政役のカミュスヤーナでした。そして、3年前にテラスティーネと婚姻していました。」
「カミュスヤーナ。」
私は目の前のプラチナブロンドの髪、赤い瞳の青年を見つめた。やはりと思った。私はその名を知っていた。
だから、彼には姉の面影があったのか。しかも、私の娘と婚姻するなど。何の因果なのか。
・・そういえば、以前そのようなことを聞いていたな。彼から。小さい頃の話だから、忘れていると思ったが、結局婚姻したのか。
「アルフォンス様は、私、カミュスヤーナのことを覚えていらっしゃいますか?」
「・・覚えている。私は以前君に会っている。」
「私は貴方が死んだとばかり思っていましたが、生きていらしたのですね。」
「そうしなければならなかった理由は、君がリシアだった時に説明した通りだ。」
「貴方に助けていただいたおかげで、私はテオファーヌ様の子となり、エルキュール様の養子になり、その後エステンダッシュ領の領主になり、弟のアルスカインに領主の座を譲り、摂政役となりました。今の私があるのは、貴方のおかげです。」
「いや、君の命を助けたのは・・。」
彼は、私の言うことを止めるように、自分の唇の前に人差し指を当てた。
「君はどこまで知っている?」
「今回記憶を取り戻した時に、全て思い出しました。そして、全てを知る必要はないそうですよ。マックスが言っていました。」
彼はニコリと笑う。その名前を出されてしまっては、私もこれ以上追及ができない。
「わかった。深くは聞かないでおこう。」
「そうしてください。」
彼はクスクスと笑った。
「アルフォンス様。」
彼は急に真面目な顔になって私の前に跪いた。そして私の手を取って額に押し当てた。
「遅くなってしまいましたが、私はテラスティーネを愛しています。私が夫となることをお許しいただきたいと存じます。彼女は私が幸せにします。」
「私は、テラスティーネと、そして君が幸せであればそれでいい。」
「ありがとうございます。」
彼は立ち上がって、私の隣に身を引いた。
「お父様。」
テラスティーネが私の手を取る。テラスティーネの左の薬指には、私が渡したお守りである装身具のうち、赤色の宝石がついたものが嵌っている。
「お父様にいただいた守護石のおかげで、カミュスヤーナ様も私も命が助かりました。ありがとうございます。」
私の手に温かいぬくもりが広がる。
「だが、私は君とフェリシアを、側で守ることができなかった。」
テラスティーネが首を横に振った。
「お母様は、お父様に会えて、自分は幸せだとおっしゃっていました。私もカミュスヤーナと婚姻して、一緒にいる今分かるのです。お母様は本当に幸せだったと。」
「テラスティーネ。」
「カミュスヤーナに全て聞いた後、私はお父様に会いたいと願うかどうか尋ねられました。私は自分の意志でお父様にお会いしたいと願ったのです。今日はお母様のお話を色々聞かせてくださいませ。」
テラスティーネはニッコリと笑った。とてもフェリシアに似た笑みで、私は口を手で覆って視線を逸らす。そのまま見ていたら泣いてしまいそうだった。
そんな私の様子をカミュスヤーナとテラスティーネは、温かいまなざしで見つめていた。




