逡巡者リシア
私の名はリシア。
ヴァレール領の直営地ミシャの役場で、摂政役のディオーナに声をかけられた。「カミュスヤーナ」と。今は、応接室で、彼女の追及を受けているところだ。
ディオーナはこちらを見つめて、姿勢を正した後、問いかけた。
「次は貴方のことをお聞かせください。エステンダッシュ領に行く目的はなんですか?」
「・・エステンダッシュ領に会いたい人がいる。面識はないが。」
「よろしければ、その方のお名前を伺っても?」
「・・テラスティーネと。」
私の言葉に、ディオーナはやっぱりというかのように顔をしかめた。
「知っているのか?」
「知ってるも何も・・テラスティーネ様は、先ほどお話ししたカミュスヤーナ様の奥方様です。」
「・・・。」
彼の娘であるテラスティーネが、カミュスヤーナと婚姻している?
私はアルフォンスと話したことを思い返した。
『それは、婚姻の証かもしれない、ということだ。』
私は自分の手元を見つめる。その下には、あの首飾りがある。これは婚姻の証。ならば、私は、彼の娘のテラスティーネと結婚した行方不明のカミュスヤーナ、なのか。
でも、そう考えると、今までの件の全ての辻褄が合う。まったく、私はそのことを覚えていない。そう簡単には思い切れないのだが。
私は大きく息を吐いた。
それにしても、テラスティーネは、てっきり子どもと思っていたのに、婚姻できる歳だったのか? 一体、彼はいつ子どもを作ったのだろう。思っていたより年上だったのか?
ディオーナは言葉をなくした私を見て、大きく息を吐いた。
「いいでしょう。エステンダッシュ領に連絡を取ります。領主様の判断を仰ぎたいので、一緒に来ていただけますか?」
「しかし・・。」
「テラスティーネ様は、エステンダッシュ領摂政役の奥方様です。エステンダッシュ領に行っても、一介の傭兵がお会いになることはできません。ですが、カミュスヤーナ様かもしれないと連絡を取れば、お会いになることが可能でしょう。エステンダッシュ領はカミュスヤーナ様を探しておられるのですから。」
「だが、私はカミュスヤーナではない。」
「本当にそう言い切れるのですか?貴方の顔には迷いがあります。何か思い当たる節があるのでは?カミュスヤーナ様本人でなくても身内の可能性だってあるでしょう。それだけ容貌が似ているのですから。たとえカミュスヤーナ様でなくとも、可能性があるとして引き渡すのですから、嘘はついていません。」
「・・・。」
「貴方はテラスティーネ様に会わなくてはならないのでしょう?」
「会わなければ、彼女は笑ってくれない。」
「彼女・・?まぁ、いいです。来てくださいますね。」
私は彼女の言葉を受けて立ち上がった。
水色の髪、青い瞳。彼女はただただ泣いて私を見つめる。
私は彼女を泣き止ませたい。笑顔が見たい。
記憶を取り戻せば、彼女が呼ぶ私の名前もわかる。
そしてきっと彼女の名前も。




