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魔王らしくない魔王様  作者: 説那


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忘失者リシア

 私の名はリシア。ヴァレール領の直営地ミシャはとても賑やかだった。疫病の影響は感じられなかった。


 ここまでの旅を共にしてきた旅商人と、一緒にミシャの役場に来た。

 旅商人は、ここミシャでの営業申請をしに来ている。私は境界転移陣を使うために通行手形を発行してもらうこと、そして、先ほど旅商人から聞いたエステンダッシュ領の元領主の行方不明の件を聞きたくて、この場に来ている。

 ここヴァレール領も海に面している。何らかの話が聞けるはずだ。

 旅商人とは役場の前で報酬をもらって別れた。

 どこに行けば聞けるのだろう?


「・・・あの。」

 私の後ろから声がかかった。振り返ると、一人の女性が立っている。

「はい。」

「・・・カミュスヤーナ様ですよね?」

「いえ、人違いです。私の名はリシアです。」

 女性は私の言葉を聞くと、頬に手を当てて首をかしげる。


「その容貌は一度見たら忘れられません。確かに色は違いますが、貴方はカミュスヤーナ様だと思います。」

「と言われても。。」

 私はカミュスヤーナという名前に覚えはないのだ。とはいえ、私は以前の記憶がないので、実はそうだったということがあるのを否定できないが。


「あぁ、申し遅れました。私はここヴァレール領の摂政役をしておりますディオーナと申します。・・・リシアさんはミシャには何用でおいでになったのでしょう?」

 私の訝しげな眼差しを見て、女性は名と役職を名乗り、話題を別のことに切り替えてきた。

「実は隣のエステンダッシュ領に向かいたいのですが。」

「境界転移陣をご使用されるのですね。なぜエステンダッシュ領へ?エステンダッシュ領へは姫様が嫁いでおられますので、何かお手伝いできることがあればいたしますよ。」

「私は・・ただの傭兵なのだが?」

「私はそうは思っておりません。」

 ディオーナは私にそう言うと、少しお話ししたいので、場所を変えましょうか。と告げた。


 ディオーナに連れていかれたのは、役場にある応接室だった。

 なぜかお茶まで出してくれる。ただの傭兵に対する態度ではない。しかも相手は摂政役、摂政役は領主の補佐を務める領の重鎮だ。

 ディオーナは、私に出したお茶を勧めると、私の前にあるソファーに座って、口を開いた。


「まず、私がリシアさんを人違いした経緯をお話ししましょう。先ほど口にしたカミュスヤーナ様は、隣のエステンダッシュ領の摂政役です。ですが、事故に巻き込まれて行方不明だと伺っています。」

「摂政役が?元領主も行方不明だと聞いたが。。」

 私は旅商人から聞いた元領主が行方不明である話を、ディオーナにした。


「その元領主はカミュスヤーナ様です。カミュスヤーナ様は、3年前に弟君に領主の座を譲り、自分は摂政役に就いたのです。隣り合った領の摂政役同士ですし、その間に姫様の婚姻があったので、私は何度もカミュスヤーナ様にお目にかかっています。」

 ディオーナは私の顔をひたと見つめる。


「髪と瞳の色は違いますが、その容貌はリシアさん、貴方にそっくりです。そもそもカミュスヤーナ様はとても整った容貌で有名でした。カミュスヤーナ様が行方不明になられた後、海に面したいくつかの領に対し、カミュスヤーナ様を見つけた場合、すぐにエステンダッシュ領に連絡をするようお願いの文書が回ってきました。」


「なぜ海に面した領なんだ?」

「・・姫様つながりで特別に話を聞いております。カミュスヤーナ様は海に落ちて行方不明になったと。」

 顔が若干引きつるのを感じる。私が彼に助けられたのは、家近くの岸に流れ着いていたから。私はカミュスヤーナなのか?

 無意識に胸元に手を伸ばし、その下の首飾りの宝石を握っていた。


「私が貴方をカミュスヤーナ様だと思ったのはそういう経緯からです。否定はされましたが、私は今も貴方はカミュスヤーナ様だと思っています。ですから、私は貴方にエステンダッシュ領に行っていただきたい。」

 ディオーナは流れるような手つきで、お茶を口に運んだ。

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