代理人テラスティーネ
私の名はテラスティーネ。行方不明になった魔王カミュスヤーナの代わりを務めている。
目の前には一人の魔人が立ち、こちらを見上げていた。
深緑の髪を後ろで緩く結び、黒い瞳をこちらに向けている。
全身は、多分海の魔獣の甲殻類の殻を利用した鎧で覆われている。表に出ている腕などは程よく筋肉がついており、手の甲から腕にかけて、青緑色のうろこが見える。
その見かけからも、彼は隣の地ジリンダの出身であることが見てとれる。
「もういい加減に分かってほしいのだが。テラスティーネ。」
「それはこちらのセリフです。ブラウリオ。」
「もう、魔王カミュスヤーナはいないのだ。俺に魔王の座を明け渡せ。」
「私はカミュスヤーナ様不在の間、この地を代わりに守っている身。それにカミュスヤーナ様は生きている。貴方が倒したというのは幻です。」
私の言葉に彼は不機嫌そうな顔をした。
何度来られてもこちらの返事は変わらない。
彼―ブラウリオは、ここ最近この館に何度も訪ねてきている魔人だ。
カミュスヤーナが海に落ちるきっかけ、彼の身体に短剣を差したのは自分だと言い出した。
魔王カミュスヤーナを打ち取ったのは自分であり、この地ルグレイティは討伐により魔王となった自分のものであると。
捕縛者から聞き出した内容を、魔王ミルカトープ様に確認したところ、カミュスヤーナが海に落ちる前、左脇腹辺りを抑えているようだったこと。そこから血が流れだしていたことは分かったらしいが、その後すぐ本人が海に落下していったこと、霧が晴れたばかりで、あまりカミュスヤーナ本人を見ている者が少なかったこともあり、カミュスヤーナに怪我を負わせたのが、誰かは分からないままだった。
それに、私はカミュスヤーナが生きている確かな証拠を持っている。
「俺は、君から無理やり魔王の座を奪うことも可能なのだが?」
「だから、私は魔王ではありません!カミュスヤーナ様を倒したというのであれば、その証拠でも持ってきてください。そうすれば、この地の理に沿って、貴方に魔王の座をお渡しします。」
私の言葉にブラウリオは悔しそうに口を噤んだ。
彼が死んだというのならば、私の前に死体でも持ってきて見せろ。
「センシンティア。お客様がお帰りです。門の外までお見送りを。」
センシンティアが扉のドアを開け、ブラウリオに部屋の外に出るよう促す。
ブラウリオは私に強い視線を向けながら、部屋の外に出て行った。
私は大きく息を吐いて、背後の椅子に倒れこんだ。
胸元にある首飾りの宝石を握りしめ、魔力を流す。
しばらくしてから、首飾りを引きだす。
首飾りの宝石が光っている。掌で包み込むと熱を持っていた。
「カミュス・・。」
私の視界がにじんで、頬に涙が流れるのを感じる。
カミュスヤーナが行方不明になってから、毎日首飾りの宝石に魔力を流していた。2週間くらいたったころ、やっと応答が返ってきた。こちらが魔力を流すと、首飾りの宝石が光って、熱を帯びるようになったのだ。
応答が返ってくるということは、カミュスヤーナは生きているということだ。それからも毎日魔力を流し、カミュスヤーナの生存を確認している。今のところ、確実に返答が返ってきている。
どうか、カミュスヤーナをお守りください。
私は泣きながら、愛する人の無事を祈った。




