視察者カミュスヤーナ
私の名はカミュスヤーナ。これからジリンダの地を回る予定の魔王である。
私の目の前には、ここにはいるはずのない者が立っている。
「あの・・案内はセンシンティアにお願いするので、魔王自ら案内していただかなくてもかまいませんが。」
「この土地のことを一番よく知っているのは私だ。そなたは大切な客人である。他の者には任せられん。」
目の前に立っているのは魔王ミルカトープその人であった。
紺色の髪は後ろで束ねられ、身体に沿う形のジャケットとズボンを履いている。私が着ている服も似たような上下の服だ。
「最初は妹のミルクレインテにお願いしようかと思っていたが、本人から恐れ多いと固辞されたので、私が案内することにした。」
ミルカトープはそう言って、私のことを訝しげに見つめる。きっと、何かしたのか?と問いたいのだろう。その内直接聞かれるだろうと、彼女の視線はスルーして、私は社交的な笑みを浮かべる。
「では、お願いいたします。」
「ここからは遠いので、棋獣に乗っていく。乗ったことはあるか?」
「あります。」
「今回はジリンダの地に利のあるセンシンティアが操縦し、そなたはそれに同乗する形でよいか。連れの者には別の棋獣を出す。棋獣はこちらにいるので、ついてまいれ。」
ミルカトープに案内されたのは、棋獣が集まっている獣舎だった。
「これは・・飛竜か?」
「ジリンダの地は割と広いので、空を飛べる棋獣でないと、回り切れないのだ。飛竜はスピードも出るし。だが個体数が少ないので、ジリンダで使っているのは私だけだな。」
ルグレイティの地にも棋獣はいる。確か人が乗れるくらい大型の銀狼だ。私はあまり使っていないが。
「始めは港町カイヤに向かう。棋獣は近くの空き地に止めよ。」
飛竜の肩の位置辺りに鞍が設置されている。一応手綱らしきものが付けられている。
「カミュスヤーナ様。」
先に棋獣に乗ったセンシンティアが私に手を差し出した。その手を取り、センシンティアの後ろにまたがる。
「この帯を握っていてください。飛んでいる間は離さないように。」
センシンティアの腰に革製の太めの帯が巻き付けられており、それをつかむよう指示される。帯をつかむと、飛竜が浮遊し始める。
ミルカトープ、私とセンシンティア、アシンメトリコ、ミルカトープの護衛騎士エルネスティの順で飛び立つ。
飛竜は割とスピードが出て、顔に当たる風は強めだが、それでも気持ちがいい。しばらくすると、眼下に海岸線が見えてきた。前方に視線を向けると、土地が大きく湾曲しており、海岸線が斜め左上方向に向かっている。このまま進むと、私たちは海の上を飛ぶことになる。海は若干荒れていて波が立っているようだった。
「!」
左の大陸側から複数の影が上がってくるのが分かった。手元の帯を引き、センシンティアに声をかける。
「左側から何かが上がってくる!」
センシンティアは、腰から警告弾を出して左側上空に投げた。上がってくるものの上で大きな音と光が上がる。




