被害者カミュスヤーナ
私の名はカミュスヤーナ。伴侶テラスティーネとの通信を終え、就寝しようとしていたところだ。
部屋の扉をノックする音が響いた。
取り次いでくれる護衛騎士のセンシンティアも、従者のキュリエも自室に割り当てられた部屋に下がっている。
こんな遅くに何用だ?
通信機を布で覆い、壊さないように鞄の中にしまった。
念のため魔法が発動できるよう右手を前に掲げながら、左手で扉を開く。
そこに立っていたのは、紺色の髪に金色の瞳の女性だった。魔王ミルカトープと同じ色だが、彼女より若く感じられる。何より魔王ミルカトープが供もつれず、こんな夜中に訪ねてくるわけがない。
「はじめまして。私、魔王ミルカトープの妹でミルクレインテと申します。入ってもいいかしら?」
「・・・。」
あまりの行動に言葉が出ない。
近々接触してくるだろうとは思っていたが、まさか薬を盛ったその日のうちにとは思っていなかった。媚薬を盛られたのだから、その効き目が続いているうちにと思ったのか。どちらにせよ、年頃の女性が、異性が一人でいる部屋に、一人でやってくるのがおかしいのだ。明らかに面倒なことになりそうなので、媚薬のために体調が悪い様子を装いながら、ミルクレインテに対して告げる。
「大変申し訳ございません。ミルクレインテ嬢。体調がすぐれないので、休ませていただきたいのですが。」
「あら?私がカミュスヤーナ様を癒して差し上げますから、大丈夫です。早く部屋に入れてくださいませ。」
ミルクレインテが艶やかに笑って告げる。
どうやら機会を改めてはくれないらしい。
私は部屋の扉を大きく開けた。ミルクレインテは部屋の中に入ると、そのまま寝台の方に歩いて行って、その縁に腰を下ろした。
「カミュスヤーナ様。ひどくお辛いのではないですか?私が慰めて差し上げますから、ここに横になってくださいませ。」
寝台の上をポンポンと手でたたく。
・・これはひどく面倒なことになっていないか?
ミルクレインテに目をやると、なぜか頬を赤くして目を伏せた。
ミルクレインテが着ている服は、だいぶ薄い生地で、その下の女性としての体形を隠しきれておらず、下着も普通に見えてしまっている状態だ。
媚薬を盛った相手と寝て既成事実を作るのか。媚薬が効いていたら危なかったかもな。
まぁ、私はテラスティーネとしか寝る気はないが。
そんなことを考えながら、ミルクレインテが言うとおりに寝台の上に身を横たえた。
ミルクレインテが私の上に覆いかぶさって、頬に手を当ててくる。
「カミュスヤーナ様。」
「そなたの瞳は美しい。」
私の言葉にミルクレインテの身体がピクリと震えた。
「口づけてくれるなら、その瞳を見たまましたい。」
ミルクレインテが私の言葉通りにその金色の瞳を開いたまま、顔を下ろしてくる。私は金色の瞳を見つめた。
私の唇とミルクレインテの唇が重なる前に、ミルクレインテの表情がほころぶような笑みに変わった。まぁ、想定通りだ。口づけを交わしてしまう前に素早くミルクレインテに対して命を出す。
「口づけはするな。私から離れて、そこの長椅子に座れ。」
ミルクレインテは私の上から身を起こし、指定した長椅子の上に座る。
私も寝ていた寝台から身を起こし、ミルクレインテの向かいの椅子に腰を下ろした。
「ミルクレインテ。もう私には干渉するな。他の相手を探せ。あと他の者に薬を盛るのはやめろ。今日は自室に帰って寝るように。いいな。」
ミルクレインテは、私の言葉に従順に頷くと、立ち上がり部屋を出て行った。
私は扉が閉まったのを見て、大きく息を吐いた。
ミルクレインテにかけた魅了の術は切っていないが、滞在中何があるかわからないから保険だ。これで滞在中付き纏われることはない。ミルカトープに怪しまれるかもしれないな。聞かれたら考えよう。
せっかくテラスティーネに元気をもらったのに、ミルクレインテに奪われてしまった。
私は軽くため息をつくと、寝台の中に再度身を横たえ、目を閉じた。




