第八話 ゲゲゲの日本軍
1945年7月 連合国は困惑していた。
困惑、それが現在の連合国の状況を表す言葉であろう。
同年7月中盤よりアジア太平洋戦線で日本軍が忽然と姿を消し始めたからである。
はじめは中国戦線で、次に東南アジア、最後に太平洋と日本軍が姿を消し始めた。
中国戦線では、対応していた国民党軍より日本軍内部で大規模な反乱発生の報告が届いたと同時に沿岸部の日本軍までもが消えてしまったのである。
消えてしまった、日本軍はほぼ全ての物資機材を放り出して消えてしまっていた。中国戦線には100万の兵力と軍属、民間人がいたはずである。
国民党からは日本軍は満州方面に撤退しているようだとも報告を受けているがいったいどうやって、追撃にでた部隊も逃げる日本軍を捉えることはできなかった。
接敵したと思しき部隊はそのことごとくが撃破されるに及び、中国戦線は満州中国国境での睨みあいとなっていた。
いや、睨みあいと言うものは相手があってのことである。
国境はがら空きも同然で一切の日本側の兵力は配置されていない。
日本軍が殆どの機材を遺棄して行ったことから、好機と見た国民党側は進行したが、国境深くに侵攻したとの通信を最後に戻ってくる者はいなかった。
その後も何度か威力偵察を試みたが、帰ってくる者がいない為、現在は進出した連合軍機による爆撃を主体とした消極的な攻勢を行うに留まっている。
なお、国民党より、中国全土で立ち塞がるものを尽く弾き飛ばしながら走る巨人の群れに襲われたとの報告も有ったが、連合国上層部では一笑にふされている。
次に東南アジア戦線である、この戦線での主力である英軍より、捕虜収容所が日本軍コマンド部隊の相次ぐ攻撃を受けているとの報告が有ったとほぼ同時にビルマ方面の日本軍が消え始めた。
英軍の一部からはジャングルの中から見えない怪物に襲われた、あいつらは木と木の間を飛び回る、夜間待ち伏せをしかけた豪軍コマンドが闇の中に引きずり込まれて消えていった、アウンサンら旧ビルマ国民軍が木に吊るされた状態で発見されたとの報告が上がっている。
太平洋でも、諸島で孤立している日本軍がその姿を消していた、ラバウルでは10万を超える第8方面軍がその姿を消していた。偵察のため上陸をした米軍による、原住民の代表の長老への聞き取りによると、
「海から迎えが来て彼らは帰った、迎えはバナナではなく石を食べたものだ、かかわってはいけない」
との意味不明な情報しか得られなかった。この事から日本軍が未だ大規模な潜水艦隊を維持しているのではないかと考察され、7月終わりころより日本近海で消息を絶つ潜水艦が増え始めた事との関連が疑われた。
この様な事から困惑の中にある連合国であったが、大日本帝国が降伏の意思を示さない以上、戦争は継続されなければならない。日本に怪しい行動をとられる前に決着を急ぐ必要がある。
7月26日 一隻の巡洋艦がテニアン島へ静かに入港した、
「彼女の運んだ物がけりをつけてくれるはずだ」
連合国上層部はそう考えていた。
7月30日 彼女、重巡洋艦インディアナポリスの乗員はそれは甘い考えであったと身をもって味わう羽目になる。
夜中、迎えに来るんだよ。