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第二十一話 イェーイ、アメリカ君みてるー、私、もう貴方の知ってる日本じゃないの

 ダウンフォール作戦失敗の報告が届いて後、主力たるアメリカは情報の確認に追われていた。

 

 牛島大将を名乗る人物の一方的な宣言の通り、太平洋では続発していた艦船や航空機の行方不明事件がパタリと止み、サイパン島からの日本本土偵察が可能になったからである。


 「本当にこれが日本なのかね?」


 ハリー・S・トルーマン大統領は辛うじて声を絞り出した。それもそうだろう、今彼が目にしている偵察映像は生命への冒涜としか言えない何かが写っていたからである。

 

 肉だ肉が全てを覆っている、山も川も農地も都市も全てを肉が覆い隠している。

 

 肉のカリカチュア。映像に写る風景に題名を付けるとしたらそれ以外ないだろう。肉は自然物と人工物の一切を模倣しようとし、その全てが歪んでいた。


 よく見ればその姿は嘗ての日本によく似ている事が分かる、それはアメリカによる空襲で失われた日本の姿を再現しているのだ。肉と血と血管で。


 「はい大統領、1週間前サイパンから偵察に出たB29がとらえた映像です。日本列島全域が映像の肉塊に覆われています」

 

 ロバート・ポーター・パターソン陸軍長官は充血した目で映像を睨みながら答えた。ここ数週間満足に寝られていないのだ。軍人、軍属併せて150万以上の行方不明者は彼に休む暇を与えていない。


 「日本全土がこの有様だと言うのかね?では我が軍はどこにいるんだ、敗北したとしても捕虜収容所位はあるだろう、150万だぞ、それだけの兵員や機材消えるわけがない!」


 分かりたくない、真実を知りたくない、知ってしまったら自分はどうしたら良いというのだ。大統領の言葉にはそんな思いが込められていた。


 「次の映像をご覧ください、それが答えです」

 

 ジェームズ・V・フォレスタル海軍長官は、死刑を告げる裁判官の様な声色で残酷な真実を告げた。

 

 彼もまた充血した目をしている。幽鬼の様な顔色でいまにも倒れてしまいそうだ。


 

 ジェームズ・V・フォレスタル海軍長官が示した映像。

 

 そこに映っていたのは地上に空いた口であった。

 

 口としか形容できなのだ。無数の乱杭歯と巨大な舌を持つ大地に開かれた口。

 

 そこから巨大な触手が二本伸びている。

 

 触手の伸びる先そこにあったのは空母だ!エセックス級空母エセックスが触手につかまれ肉の大地を引きずられている。

 

 口は空母を一飲みにすると満足そうに閉じていく。

 

 映像が引いてくとそこは海岸の様であった。そこには先ほどの口と同じものがいくつも大地に顔を覗かせており、次々に海より引き上げられた戦艦やら空母を飲み込んでいくではないか!悪夢めいた光景は映像が途切れるまで続いていた。


「食われたと言いたいのかね?皆あの口に食われてしまったと」

 

 へなへなと席にへたり込む大統領は力ない言葉を発した


 「今もって、ダウンフォール作戦に参加した艦艇への連絡は一切付いておりません、映像を見ましても壊滅したと考えるのが妥当かと思われます」


 答える海軍長官の言葉にも力はない。


「陸軍としましても、1週間前の沖縄を最後に上陸軍との連絡はとれておりません、繰り返しになりますが沖縄を含む日本列島全体があの肉塊に覆われております。残念ですが状況は絶望的と言わざるを得ません」

 

 続く陸軍長官の言葉が空虚に響く。

 

 「大統領、会議中失礼します!至急お耳に入れなければならない事態です」

 

 そこに飛びこんできたのは大統領補佐官であった。


 「なんだね、私はこれ以上は驚かないぞ!構わん要件を言いたまえ!」

 

 なかばヤケクソじみた心持で答える大統領。その耳にさらなる凶報が襲い掛かる。


 「モスクワが陥落しました。スターリン書記長以下共産党幹部は行方不明です」


 ハリー・S・トルーマン大統領は意識を手放すことを己に許した。


 

 



 

 

 

 

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