第十八話 斑鳩何だか知らんが凄いかっこよさだ
ああ烏賊が空を行く。
気が狂ったと思わないでほしい。本当に烏賊が空を飛んでいるのだ。群れで。具体的には高度3000メートルあたりを、尻から火を噴きながら音速で、いや頭足類だから頭からだ。
トビイカというそのままな名前の烏賊がいる。こいつは外敵を避けるため頭から水を噴出して空中を滑空する珍しい生き物だ。
今空を飛んでいるのはその烏賊の巨大版と言える・地上行動用に人間の足は付いているが。
もちろんこの空飛ぶ烏賊は自然界のものではない、大日本帝国の新兵器だ。
水の代わりにヒドラジンを吹き出し空飛ぶ烏賊、桜花改それがこの兵器の名前だ。
先頭を飛ぶは憐れなる実験体カーチスルメイ氏、続いて大西滝次郎中将、宇垣纒中将、牟田口廉也中将、石原莞爾氏、花谷正中将、辻正信大佐他、陸大、赤レンガ出身のお歴々が飛んでいる。
なぜ将官佐官が飛んでる?指揮官先頭である。辻参謀などはいの一番に志願した勇者なのだ。
「最早この戦争に将官も佐官もない意識を共有する以上全ての日本人が兵士なのだ。今こそ其の先駆けとならん!」辻参謀はそう獅子吼している。
ルメイ氏などは、「元アメリカ人であるから実戦投入するのは可哀そうでは」と言う思いも一部であったが、統合の遅かったB29搭乗員達の
「いいからルメイも飛ばせ、俺たちの気持ちを理解させろ、俺たちも化け物だらけの空を飛んだんだぞ」
との思いもあり今回の出撃と相成った。
目指す連合国支配下の南部九州、ここは連合国の一大策源地となっている。
目的は核爆弾の奪取である。あれだけポンポン落とされて、いまさら核兵器を恐れるのか?
威力を恐れているのではない。上陸軍が全滅したと考えた連合国が味方もろとも無差別に核を乱打するのを止める為である。
同時多発的な奇襲攻撃とは言え、一瞬で上陸軍や海上の艦隊を殲滅出来たわけではない。
中には九州、沖縄に向け「化け物に襲われている」だの、「皆食われた」だの報告を上げている部隊もあるであろう。化け物の腹に収まるよりはと介錯されてはたまらない。
できる限り早く、連合軍の核運用能力を本土から取り除く必要がある。この様なわけで桜花改、正式名称 航空挺身降下兵は投入された。
かつては鹿屋航空基地と呼ばれた場所は地獄と化していた。突如レーダーに映った光点の群れ、すわ日本軍の航空攻撃と備えた守備隊の見たものは、音を置き去りに大地に突き刺さる円錐の物体であった。
「「不発か?」」
守備兵がそう思ったとたん、そいつは尻から火を撒き散らした、辺り一面に広がる火炎の海、その中から現れたのは。
「おい、マイク、俺は正気だよな?バカでかい烏賊が歩いてるのが見えるんだが」
掩体に飛び込んでいた米兵の一人が相棒に声を掛けた。その顔はピンクの像を見たと言わんばかりに呆けている。
「安心しろ、俺にも見える。烏賊が火を噴いてる」
こちらも呆けた顔をの米兵が答えた。
二人の目の前で次々と立ち上がる焼き烏賊の群れ。
「ジャップはいつの間に火星人と手を組んだんだ!」
気を取り直し反撃に移った米兵が叫ぶ。
「俺が知るかよ!撃てとにかく撃て!」
そう言い返すと相棒の米兵も撃ちまくり始めた。
烏賊の群れは、あたり構わず触手を振り回し、駐機している航空機に火を吹きかけ暴れまわる。鹿屋航空基地はパルプフィクションの舞台となった。
題名は恐怖 空より来る火炎火星人だ。
巨大烏賊の大逆襲は南部九州中の航空基地で暴れまわり、破壊の限りを尽くしていく。
この蹂躙劇は北部より進撃してきた日本軍が到着し、九州全体が日本軍の手に奪還されるまで続いたのである。
これでダウンフォール作戦は陸海空そして切り札の核兵器、すべての戦力を失ったことになる。大日本帝国は、次に烏賊なる手をうってくるのであろうか?
5セントぐらいかな?




