第十七話 クジラお楽しみに!
上陸部隊の苦境は即座に海上の大艦隊にも察知されていた。
緊急出撃した艦載機が地上支援と上空援護の為。即座に飛び立ち、大量のピケット艦は空を睨む、恐らく雲霞の如き特攻機が艦隊を襲うであろうが、この堅陣を突破出来るものは存在し得ないだろう。
アメリカ艦隊とてこの戦いに易々と勝てるとは考えては居ない、太平洋で跳梁していた謎の部隊も、悔しいかな撃破したとの情報は無いのだ、秘匿されていたこの部隊が、全滅覚悟で突撃してくる可能性もある。
艦隊はその機械の目と耳を全開にし攻撃に備えた。 「「来るなら来い、今度こそ連合艦隊に止めを刺してやる」」艦隊要員一同の心は一致している。
しかし、艦隊を襲ったのは特攻機でも潜水艦でもなかったのである。
日本軍の攻撃に備える艦隊の盾、ギアリング級駆逐艦シャイアットのソナー手がその耳に捉えたのクジラの声であった。
これだけの艦隊が海上狭しと動き回る中にクジラ?念のために報告を入れるべく、口を開こうとした時、艦底から突き上げるような衝撃と共にシャイアットは空中に舞い上がった。
吹き飛ばされるシャイアットの姿を見ていたのは僚艦のウィリアム・M・ウッドであった。
ウィリアム・M・ウッドの乗員が目にしたの天付くばかりの巨大な怪物の姿だった。
クジラ?そう化け物はクジラに見える、だが戦艦より大きいクジラなど存在するはずがない。
なんというこだ!シャイアットを一撃で無力化した怪物はあっけにとられるウィリアム・M・ウッドの乗員の目の前で、横倒しになったシャイアットを飲み込んだではないか。
シャイアットを飲み込んだクジラはその目をウィリアム・M・ウッドを向けた。その目を見よ、人間だ、人間の目をしている。歓喜と嘲りに満ちた人間の目がウィリアム・M・ウッドを睨め付けている。
その目は明日、食卓に並ぶ豚を見るものではないか?
正気を取り戻し、回避運動とあらん限りの兵装を叩きつけるウィリアム・M・ウッド、彼らの最後に見たものは冥府の門が猛スピードで迫って来る姿であった。
二隻の駆逐艦を飲み込んだ怪物これこそ大日本帝国が作り出した究極の対艦兵器である。
これまで個々の変異兵による襲撃では、時間がかかると最早これまでとキングストン弁を抜く船や、「化け物め道ずれにしてやる」と弾薬庫に火を入れる船など問題が出ていた。
ヤンキー魂恐るべしである。
大日本帝国にとって欲しいのは家族になるべき人間である、いくら死にたては再生できるとしても、再生できない程死体が損壊するのは困るのだ、そこで生まれたがこの兵器である。
いっそ丸呑みにして腹の中で統合する、それが大日本帝国の答えである。
「消化器官一周の旅をさせられた身にもなれ」「なんで尻の穴から出す必要がある吐き戻せ」など食われた側から苦情が飛んでいるのはご愛敬である。
「俺は何時から白鯨の世界に迷い込んだんだ?」
第3艦隊司令官ウィリアム・ハルゼー・ジュニア大将の思考は、化けクジラの襲撃に占有されていた。
艦隊前方に展開していたピケット艦群がやられたことは仕方がないことだ、ピケット艦は特攻機の攻撃を吸収するのが役目なのだ。
だが間を置かず、海底深くから艦隊を襲った化けクジラの群れにはそう言葉を漏らすのが精一杯だった。
考えても見よ、目の前で巡洋艦が横倒しにされる、体当たりで艦載機が吹っ飛ばされる。あろうことか戦艦がブリーチングで下敷きになる、その上奴らは艦を丸呑みにしている。頭がどうにかなりそうだ。
彼にできる事と言えば怖気ずく部下を叱咤し、攻撃を指示する事だけである。
話は飛ぶがクジラの狩りを見たことがあるだろうか?クジラは獲物である魚の周りをグルグル回転し獲物を一纏めにしてから一気に食べるのである。
いま第三艦隊が置かれている状態はその獲物と同じである。クジラは艦隊の周りを攻撃しながら回転している、では中心には何がいるのか?
忘れては困るが日本人は統合された一つの生命である、一人の日本人の二つの目に見つかれば、内外合わせて二億超の目に発見されたのと同じである。
血の匂いに誘われるサメの如く、集まってきた日本海軍の半魚人たち、彼らが待ち受ける海域に艦隊は追い込まれようとしている。
結論から言おう、ウィリアム・ハルゼー・ジュニア大将がアメリカ人として最後に見たのは座乗艦ミッドウェイに群がる怪物達と、己に満面の笑みを浮かべて迫る永野修身海軍大将に似た巨人の姿であった。
ここにアメリカ海軍第三艦隊は壊滅した。ほぼ同じ時間、第五艦隊、第七艦隊も後を追うように壊滅している。
アメリカ軍は海上兵力を完全に喪失したのである。
あのキメ顔かっこよかったよね。




