第十三話 葬列なんかくだらねぇ 俺の筋肉を食らえ
はるか上空から焼夷弾の雨を降らせる爆撃機と低空より機銃掃射を仕掛けてくる艦載機、どちらが恐ろしいだろうか?
被害と言う意味では爆撃機だろう、だが、逃げ惑う自分たち目掛けて襲ってくる艦載機は形を持った死の恐怖その物といえるのではないだろうか。
あの日あの時、必死に逃げ込んだ草むらで少年は罪を犯した、わが身可愛さのあまり一緒に逃げていた友達を敵機の前に差し出したのである。
差し出したは語弊がある、しかし、恐怖のあまり突き飛ばした初恋のあの子は F4U コルセアの餌食となった。
それは少年の消えない罪だ。
だからこそ、今、少年は満身の力を込めて、獲物を探すコルセアに圧縮された鉛の塊を投擲した。
狙いたがわず鉛はコルセアのエンジン部分を貫通し機体は失速していく、あの様子では村の方に落ちていくだろう、目を閉じて繋がった意識の糸を辿れば後を追う大人たちの姿が見える。
少年は隠れていた草むらより身を起こすと、次の獲物を探すため走り始めようとした。
その筋肉に覆われた肩にフワリと降り立つ影がある、猛禽類の羽を持つそれは、先ほど少年が撃墜したコルセアを上空より追跡していた人物であった。
大日本帝国は、比較的小型の女性で構成される上空警戒班と、地上で攻撃を行う大型の男性班で構成される警戒網を全土に配備し始めていた。
集合意識によりタイムラグなく管制されるこの警戒網は大きな戦果をあげ始めている。
肩に乗る人物を見上げ、少年は再びあの日を思い出していた。
少女を殺してしまった恐怖に逃げ出した自分。
布団を被り罪悪感に震えていた通夜の晩。
もしや自分の罪を見たものがいないであろうかと、怯えながら参列した野辺の送り。
突如乱入してくる全裸の巨人、次々と統合される逃げ惑う人々。
棺桶の蓋を跳ねのけてこの世に舞い戻ってきたあの子(どうやら新鮮な死体も統合と変異は問題ないらしい)
そこまで思い出し、なにか思い出を汚された気がして少年は追想を取りやめた。
肩に乗る少女はいつまでもうじうじする少年にあきれながら口を開いた
「許すって言ってるんだから、いつまでうじうじしない!それとも初恋のお姉さんの言葉は聞けないの?」
日本人全員の意識が繋がっている以上、彼の淡い恋心は彼女も承知している。
瞬間、少年の意識には「若いな」「自分もそのようなときがあった」「朕は二人の仲を祝福するぞ」などの言葉が亜空間リンクを通して届けられた。
溢れる家族の声に少年は赤面した。
少年の肩に乗る少女、大日本帝国女子挺身航空隊所属の彼女は、笑いながら空に飛び立った。
この異常なる戦争の中にも青春はあるのだ。
その時全裸中年が現れ筋肉で解決しました。めでたしめでたし。




