第十一話 巣作り帝国
ここは皇居大深度地下、そこに広がっているのは巨大な地底湖だった。
日本帝国は来るべき家族計画(本土決戦)に向け、この様な拠点を各地に築き始めていた。
見ればそこかしこに、アリと人を掛け合わせた様な生き物たちが作業しているのが見える。
目を移せば湖の中から、鱗に包まれた半魚人や巨大な蝙蝠に似た何かが這い出して来るではないか、悪夢のような光景が広がる其処は、来訪者たち曰く 遺伝子の揺り籠だという。
ここで遺伝子をなんやかんやする事で、既存の進化の枠に囚われない変身を遂げることができるのだと来訪者は説明した。
ちなみに、なんやかんやに付いて詳しく聞こうとしたところ、遺伝子に組み込んであるから大丈夫との返答を受けている。
ともかくも外地に散った日本人達、朝鮮、満州の帝国臣民を統合した大日本帝国は生命体としてさらなる進化を遂げていた。
当初は自らのさらなる進化に嫌悪感さえ感じていた日本人たちであったが、家族が増えるにつれ広がっていく精神の拡大、人間の身では味わえない感覚に文句をひっこめた。
なにより贈り物についてうれしそうに語る来訪者に文句を言う事は出来なかった。相手は銀河規模、地球の片隅に過ぎない自分たちとは格が違い過ぎる。
さて、この様な状態にある大日本帝国がなぜ一気呵成に世界を制圧してしまわないのかという、当然の疑問が出てくるだろう。
それには理由がある、誤解により日本人を徹底改造した来訪者達であるが、彼らは一つの課題を日本人たちに与えている。
それは自力で自分たちの元に来ることである。
つまり銀河中に広がる統合精神生命の中心に会いに来てほしいとのことであった。
原型を留めない程人の事を改造しておいて、今更自力で会いに来いもないものだ。日本人達はそう思うがぐっとこらえた。
会いに来いと言っても簡単ではない、相手は宇宙の彼方、こちらは重力井戸の底、ともかくも宇宙に出なければ。
怪力無双の巨人となってしまった日本人は科学的な研究を行う事が不可能だ、なにせ鉛筆一つ握れない、もとの姿であったとしても1945年の大日本帝国に大質量を宇宙に上げるほどのロケット技術はない。
ではどうするか、来訪者曰く、集合意識が広がっていくにつれ選択肢は増えていくのだと言う。
だが、それを組み合わせて、宇宙に手を伸ばすにはアイディアが自分たちにはない、研究もできない、ではどうするか、有る所から持って来るしかない。
世界最高の科学力を持つ国、科学者たちの避難所、つまりは米国である。丁度いいことに新たに統合した元米国人からペーパークリップ作戦なる計画の情報を手に入れている。
米国は今後、ドイツから接収した科学者や技術により長足の発展を遂げるであろう。
今、米国を飲み込み米国民全てを統合してしまえばそこで研究は止まってしまう、豚は太らせてから食うに限る。
先ずは本土に上陸してくる連合国を撃滅する、そして真綿で首を締めように米国本土に迫っていけば、彼らは全てを戦争に振り向け、我々では想像もできない何かを作るだろう、あの新型爆弾の様な何かを。
彼らは強い、それは1941年から嫌と言うほど思い知らされた。
だが今は祈ってさえいる彼らがもっと強く豊かになることを、、、かつては呪っていたが。
大日本帝国は待っている、地下深くで、海の底で、闇の中で、新たな家族が増えることを。




