お姉ちゃんを追放しないでください
20年前……
魔王復活の予言が、世界各地の1000を越える教会へ神託として下された。
各地に同時に下された神託。
イタズラや事故ではあり得ない出来事に、世界中の人間が湧き立った。
それから、魔王復活による影響とその根拠について、まず研究がなされた。
結果、魔王が2000年前にも猛威をふるっていた事、当時の人間がそれにどう対抗したか、魔王を封印する方法、今回の魔王復活がどのように起こるのかまでが判明した。
20年の間に、国家間での話し合いの末、さまざまな研究がなされ、並行して魔王に対抗する”兵器”も開発された。
その“兵器“は、勇者と呼ばれる5人の子供だった。
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「アリス=フォスター。あなたは勇者パーティーから離脱してください」
私を執務室に呼び出した、勇者パーティーを管理する共闘団のリーダーは深々としたお辞儀をした。
どこの国のトップが相手でも毅然とした態度で交渉をしていたあのバトラーさんが、私個人に深々と頭を下げている。
アリスはバトラーの言った事が本気なのかと問うように、部屋に集まった勇者達に目をやった。
「全ての連合国から了解は得ている」
と、爆殺の勇者。
「今までお疲れ様でした」
と、生命の勇者。
「ごめんね!お姉ちゃんがいらないって訳じゃないからね!」
と、千里眼の勇者。
「こんな戦いやめて結婚でもしなよ」
と、堅牢の勇者。
「アリスの承認さえあれば、すぐにでも脱退出来る様になってる」
と、封印の勇者。
アリスを引き止める者は存在しなかった。
ペラッとした紙切れ1枚。
これに署名してしまえば、アリスは勇者パーティーとは無関係な一般人になってしまう。
弟妹と思って大切に過ごして来た勇者達に縁を切られかけ、アリスの目からは涙が出そうになった。
それをお姉ちゃんの矜持で我慢して、上を向きながら目をパチパチさせた。
この中で決定権を持つのは、バトラーさんかアーサー。
アーサーが気まずそうに目線を逸らしたので、私はバトラーさんに詰め寄った。
「私が姉殺しの呪術師だから解雇するんですか……?」
「いいえ」
「右手が使えない役立たずだからですか?」
「いいえ!」
「スタッフさんの休み時間を邪魔するからですか?」
「違います」
「支給された機械を使いこなせないからですか?」
「ち、違います!」
「じゃあ、ご飯6杯おかわりするからですか?」
「…………違いますよ」
これまで彼が「改善を要求する」と言っていたものを挙げたのに、解雇理由はそれではないらしい。
高度な人工知能は、人間らしい困り顔でため息を吐いた。
「繋がりの勇者アリス。あなたがいなくても、魔王は封印出来るからです」
バトラーさんの言葉で、アーサーが私の前に立った。
そのまま2人で見つめ合って、謎の時間が過ぎる。
言いたい事があるなら教えて欲しいのに、アーサーは私の目を見たまま微動だにしない。
「アーサーの思ってる事、お姉ちゃんに教えて欲しいの。みんなと一緒にいる為なら、どんな事でも聞くわ」
「……俺は」
「何も言わないんかーい」
と言って、ディアナがアーサーの頭をブッ叩いた。
「ぇぼっ」
ディアナに叩かれたアーサーは、ひと口サイズのゲロを吐いてぶっ倒れる。
すかさずフレディが叫んだ。
「うわっ!汚ねー!アーサーがゲロった!!」
「ごめんね!手加減したのに!ごめんね!」
「私の能力で治しますね」
「おやめなさい!救急スタッフの方が安い!」
「バトラーのケチ!」
勇者パーティーがこんななので、お姉ちゃんは心配です。