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デートとは







デート【date】

[名] (スル)

①日付。

②恋い慕う相手と日時を定めて会うこと。「遊園地でデートする」

③時計の文字盤に付属するカレンダーで、日付だけを表示するもの。


goo国語辞典より







インターネットで検索したそれを目で追いかけて最後まで読んでから、ベッドの上で仰向きに掲げていたスマホを腕ごとマットレスに落とした。


でーとってなんだっけ?


①と③は今回は該当しないとしても、②も…違うと思う。恋い慕うなんて、恐らくお互いに。男女が2人で出掛けたらそれがデートでしょ、なんて乱暴な意味合いも聞くけれど、言葉の定義としては私たちには当てはまらない単語だ。

よってこれはデートじゃない、単なるお出掛け!


よし!と弾みをつけて上体を起こし、勢いのままに前のめりに膝を抱えた。


「…………何着ていけばいいんだろ…」









私も新堂さんも休みが不定期なので、お互いの日を合わせた結果平日のど真ん中の水曜日になった。

自分の準備は一向に整わないまま、その日は2日後に迫っていた。今日は神田さんのレッスンだ。珍しく昼間の時間に行うことになったので、午前中にフラフラとショッピングモールを巡ってみたけれど、何を着るのが正解なのか分からず結局収穫は何もなかった。いや別に悩む必要はない筈なのだ。普段友達と過ごすように多少お出掛け仕様にすればそれで問題ないのだから。あの人の隣に並ぶのだって初めてな訳じゃない。と言うか既に何度もしている。なのに、どうして。


悶々としながら目的地の自動ドアをくぐったら、その先に救世主がいた。




「───はー、なるほど…あのあとそんなことになってたんですか」


なんて面白い展開…と呟いたのはあの制作発表の日、メンバーと私にメイクを施してくれた飯塚さんだ。あの場にいた面子の中で私と新堂さんの会話の着地点を知らない唯一の人。

なんでもこのスタジオでとある声優さんのラジオ収録に雑誌の取材が入るらしく、そのメイクを担当していたとのこと。渡りに船とはこの事か。今日も今日とて動きやすいながらもとても非常に見目麗しい格好に隙のないご尊顔をしていらっしゃる。職業柄、流行やスタイリングに詳しい飯塚さんなら素敵なアドバイスをくれるんじゃないかと再会するなり泣きついてしまった。


「それでデートの服装、ですか」


「デートと言うか、お出掛けと言うか…とにかく、仕事関係なく新堂さんと二人でいることなんてなかったので、あの格好良い人の横に並ぶとなると多少着飾っていかないと駄目な気がして、でも何を着たらいいのかわからなくて」


「なるほど」


「は…っ、でも人気の集まってる方ですし私が悪目立ちしてファンの方々に勘違いされたらもっと駄目でしょうか!?むしろ地味にしていってほうが差し障りなく滞りなく一日を終えられて…」


「うーん、とりあえず一旦落ち着きましょう?」


どうどう、と肩を叩かれて、言い募っていた声を止めて詰めた息を落とした。自覚のないままにわだかまっていたものを吐き出して少し冷静になる。


「すみません、いきなりこんな…」


「それはいいんですけど…面白いし」


確かに他人の恋愛沙汰なんて第三者的には面白い以外の何ものでもないだろうけれど、ひとまず最後の一言は聞かなかったことにしておこう。経験値の低さを露呈しているだけの、しかもたった一回会っただけの私の話を真面目に考えてくれるのはとてもありがたい。


「どこに行くのかはわからないんですよね?」


当日の時間は打ち合わせ済みで、同じ敷地内に住んでいるのだから待ち合わせ場所はいつも帰りに別れるエントランス前だ。「じゃあこの時間で。いつもの場所に迎えにいきますね」と、さくさく決まってしまったものだから、私からその話題をわざわざ連絡する勇気もなく肝心の出掛ける先を聞けていないのだ。

もしもお互いにノープランのまま迎えることになったらどうしよう。私も何か提案を持っていくべきなのだろうか?でもそれこそどこに行けばいいのかなんで分かる筈もない。


「まあ、新堂さんが誘ったんですし予定は立ててるとは思いますけど…行き先が分からないとなると、ある程度無難な格好にしておいた方がいいかもしれませんね」


「無難な…」


「もしテーマパークなんかだったらスカートじゃ長くても短くてもアトラクションで気を配らなきゃならないでしょうし、でもちょっと良いところで食事なんてことになったら少しは綺麗目な服装がいいでしょうし」


具体的な例を挙げての説明に感謝を通り越して感心のため息を吐いた。そうか、どんなところに行くのかも考慮しないといけないのか。


「こんな感じでどうですか?これとか結構可愛いと思いますし、手持ちの服で似たのがあれば充分お出掛けコーディネートとして使えますよ!」


わざわざ検索してくれたらしいスマホの画面を見せてくれて、目の前の女神を崇めたくなった。


「すごい…飯塚さん本っ当にありがとうございます…!」


「いえいえ、楽しかったです!あ…如月さん、よかったら連絡先交換しません?デートの結果とかめっちゃ聞きたいです!」


私にメイクをしてくれていた時と同じ、心底楽しそうなその笑顔に少し苦笑するものの、こんなに頼れる方とお近づきになれるなら願ったり叶ったりだ。


「如月くんと双子なら私同い年なんです。仕事のために上京して何年も経つけどなかなか友達って作れないし、これからも仲良くしてくれたら嬉しいです」


えへへ、と笑うその顔がとても可愛くて抱き締めそうになった。むしろこちらこそ!とお互いの通信アプリのIDを交換して、友達一覧に飯塚友梨の名前が増えたことが嬉しい。緩んだ頬を抑えられないでいると、彼女が、あ…、と声を上げた。


「…あの、こんなこと言っていいのか分からないんですけど…」


「え?はい」


「その、如月くんのことも、色々教えて貰えたら嬉しいな…なんて……好み、とか…」


一瞬どういう意味なのか図りかねたけれど。にわかに染まっていく飯塚さんの頬を目の当たりにして目を見開いた。

それは、つまり。


「え…っ!」


「違うんです!そのために如月さんに近付こうとかそんなこと考えてたわけじゃなくてっ、そういえばご姉弟なんだなって思ったら欲望が湧いてきたと言いますか!如月さんと仲良くなりたいのはホントでだからその」


顔を真っ赤にして慌てて言い募る彼女を見て沸き上がったのは、弟に春が来た!だった。

もちろん私が声を掛けたのだから初めからそんな企みがあるわけがない。先程の私のように口に出してしまったことで一気に煩悶としていたものが溢れてしまったようだ。


「私これから神田さんのレッスンで二時間後くらいには空くんですけど、飯塚さんのお時間があるなら私とデートしませんか?」


こんな可愛らしい女の子を応援しないと言う選択肢が存在する訳がない。頬を押さえながら小さく「いいんですか…?」と問われたそれに満面の笑みで返す。


「どっちも如月じゃ紛らわしいですし、よかったら風歌って呼んでください!」



こうしてこの日私は、素晴らしい情報と素敵なお友達を手に入れたのだった。








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