狐 其の五
晩飯も済ませ、少しゆっくりした後、俺らは寝る準備を始めた。歯を磨いて、布団を敷いて、そこに寝転ぶだけだ。だが、一つ問題が生じる。
そう、布団は一枚しかないのだ。それもシングル。そこでお約束のやり取りをすることになる。
「残念ながら布団はこの一枚しかない。そこで、この布団はお前が使ってくれ。俺はどっか適当に床で寝るから」
「はい、分かりました!」
狐坂は迷うことなく即答した。
「うん、気持ちの良いぐらいの即答だ。って違う! そこは俺に使ってくださいって遠慮するべきところだろ!」
俺がそう言うと狐坂は不思議そうな顔をして首を傾げた。
「でも、レディーファーストって言葉がありますよ?」
「あのな、レディーファーストには女性が先に準備を済ませて男性を迎え入れるって意味もあるんだぞ。
それに今は男女平等の世の中だろ」
「それなら初めから「布団使っていいぞ」、なんて言わないで「一緒に寝るか?」とか言ってくださいよ」
狐坂は俺の言った言葉に似てないモノマネをしながら反論してきた。
「いや、それこそ問題になるだろ… 後、似てないモノマネやめろ。
もし、万が一、一夜の間違いが起きたらお互い困るだろ?」
「一夜の間違いって、もしかして私を襲う気ですか? 初めからそれが目的で私を泊めたんですか?」
狐坂はそう言って自分の手で体を覆い隠すような仕草を見せた。
「…いい加減にしてくれよ。泊めてくださいって言いだしたのはお前の方だろ。それにお前を襲う気なんて元から無い」
「それじゃあ、一緒に寝ましょうよ。一緒に寝れば恐ろしく俊敏な黒光りなものが襲ってきても一安心です」
「…お前、最初からそれが目的だったろ」
俺がそう言うと狐坂はバツが悪そうに舌を出した。今どき、そんな顔をする奴はいないと思うが。
「しかし、この布団を二人で寝るのは流石に狭すぎやしないか?」
「じゃあ、こうしましょう。ここから、ここまでが私の領地です。残りは涼真さんの領地というのはいかがですか?」
狐坂はそう言って布団の三分の二を自分の領地だと言った。もちろん納得がいくはずがない。
「そこは半分ずつ分けるのが常識だろ。俺の部屋で俺の布団だぞ。半分くれるだけでも有り難いと思えよ」
「ぐぬぬ…、分かりました。それじゃ、半分にしましょう」
いや、なんでこっちが駄々をこねたみたいになってんだ? まぁ、半分使っていいと言われたことだし素直に使わせてもらうことにしよう・それに、これ以上不毛な争いを続けるのは時間の無駄だ。
「それじゃ、俺は朝から大学行くからもう寝るぞ。お休み」
「学校があるのは涼真さんだけじゃないですよ。私も学校なので寝ますね。あっ、隣失礼します」
狐坂はそう言うと俺の隣に入って来た。
いやいや、こいつ学校行ってんのかよ。妖怪も学校に行く時代なのか? あれか、妖怪学校みたいなところか。
「なぁ、狐坂。お前どこの学校に行ってんの?」
「近くの女子高ですよ。それがどうかしましたか?」
いやいや、こいつ、普通の人間で、ただの女子高生じゃねぇか。ちょっと中二病が抜けないまま高校生になっちゃった可哀想なやつじゃん。あれだな、一人暮らしをしているのも親が重度な中二病に手が負えなくなって、このアパートに住まわせているんだろうな。
「涼真さん?」
不意に狐坂から呼びかけられた。
「ん? どうした?」
「いや、こっちのセリフですよ。急に学校のことを聞いてきてどうしたんですか?」
「いや、深い意味はないんだ。ほら、こういう話をしたことなかったからお前がどういう奴なのかなってさ」
「あー、確かにそんなにお話ししたことありませんね。
それじゃ、私の名前の由来をお話ししましょうか?」
「いや、やめてくれ。その話は何十回と聞かされた。
お前が悪い妖怪だった時に姉妹の神様に出会った話だろ?」
「はい、そうですよ。
でも、この話題を出したら最後まで話さないとこっちの消化不良になってしまうのでお話しさせてください」
いや、どういう理由だよ。
狐坂は話をする気満々だ。まぁ、女の子が同じ布団にいることで少し緊張して眠れそうにないので、母親が子どもを寝かしつけるために読み聞かせをすると思えばいいか。
そう思った俺は狐坂に話をしてくれと頼んだ。すると、狐坂は驚いたようだった。
「涼真さんからそう言ってくれるなんて珍しいですね。それじゃあ、ご期待にお応えしてお話しますね」
狐坂はそう言うと優しい声で語り始めた。
友人から、「お前、この小説、更新遅いけど書き溜めしてないん?」と言われたのですが、狐坂の分は去年、一昨年ぐらいから書き溜めは終わっています。
はい、そうです。やる気が起きないだけなんです。まぁ、行き詰っているわけではないのでボチボチ更新はしていきます。優先順位はそこまで高くないので悪しからず。
これからもよろしくお願いします。