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 突然だが、自己紹介をしようと思う。

 俺の名前は小椎八重 涼真(こしばえ りょうま)。歳は二十歳。性別は男。大学に通う学生だ。今は親元を離れ、ボロアパートで一人暮らしをしながら学校に通っている。

 さて、どうして急に自己紹介をしようと思ったのかというと、俺のご近所さんとの『日常』を徒然なるままに語ろうと思ったからである。

 とは言っても、そこまで大したものではないし、面白いものでもない、と思う。まぁ、ただ暇だったので語りたかっただけ。それだけなのだ。

 そんな前書きをつらつらと並べていると、いつものトラブルメーカーがやってくる時間になる。時計を見ると午後八時を回ったところだ。その瞬間、家の扉が勢いよく開け放たれる音が聞こえてきた。それと同時に泣き叫ぶような声も聞こえてくる。その声はどんどん俺の方へと向かってくる。

 今度は一体、どんな面倒事を頼まれるのだろうか。そんな憂鬱なことが頭の中を駆け巡った。

 「りょ~ま~さ~ん。助けてくだざいぃ~」

 俺は面倒臭そうな素振りを隠そうともせず、声の主の方へと体を向けた。

 そこにいたのは十六歳ぐらいの少女。隣の部屋に一人で住んでいる子だ。名前は狐坂 莉子(きつねざか りこ)。まぁ、このご近所付き合いの中で九割を占めているトラブルメーカーだ。

 十六歳の女の子が一人で住んでいても問題ないのかという質問が飛んできそうだが、その点は問題ない。何故なら彼女は『人間ではない』。

 俺自身も半信半疑なのだが、彼女曰く、『妖狐』という狐の妖怪らしく、五百年は生きている()()()。まぁ、言う所の合法ロリババアということになる。彼女の話が本当ならね。ん? 十六歳はロリではないか。まぁ、そんなことはどうでもいい。

 「それで、今日はどうしたの」

 既に貸した覚えのない胸に飛び込んで泣きついている狐坂に今回の事情を聞いた。

 狐坂は顔を上げ、目に涙を溜めている。上目遣いというやつだ。流石の俺もこんなに可愛い女のこんな顔を見て冷静でいられるほど大人ではないが、自分の人生に前科を付けれるほどの度胸はない。

 そんなことを頭の中で思われていると知らない狐坂は今回、俺の部屋に入って来た事情を説明し始めた。

 「じ、実は夕飯を作ろうと思って準備をしていたのですが、その途中におぞましいものを目にしてしまって」

 「なんだ。そのおぞましいものって」

 狐坂はそのおぞましいものを思い出しているのか、顔がどんどん青ざめてきた。

 「な、名前を出すのも嫌です…。あんなに恐ろしくて俊敏性のある黒光りする物体の名前など口にしたくありません!」

 「あぁ、ゴキ―「ダメです! それ以上、口に出してはいけません!」

 狐坂に言葉を遮られた。それも凄い剣幕で。

 まぁ、大体は予想していたことなのだが、こうも毎日違う理由で面倒事を押し付けられる方の身にもなって欲しい。解決したからと言って別に何か『お礼』的なものがあるわけでもないし。いや、今の『お礼』にはアダルティな意味は含まれていない。断じて含まれていない。信じてほしい。

 まぁ、それは置いといて、とりあえず今回の問題を解決しなければならない。

 「それで、俺はその黒光り丸をどうすればいいわけ?」

 「黒光り丸って一体何ですか…」

 「そりゃ、今回の君が持ってきた面倒事だよ。昨日はお湯が出なくなった。一昨日は電球を交換してくれ。その前はチャリがパンクした。

 毎度のことじゃないか」

 俺が意地悪っぽくそういうと狐坂は申し訳なさそうな顔をした。

 「す、すみません…。ちゃんと自分で解決しようと試みてはいるのですが、どうしても失敗してしまうので、ついつい頼んじゃうというか…、なんと言うか…」

 狐坂は反省しているのか、下を向いて手をもじもじさせている。なんだか、その姿を見ていると更に意地悪をしたくなった。

 「いや、別にそれはいいわ。俺も頼りにされているのは嬉しいから。だけどさぁ、流石に『お礼』として何かあってもいいんじゃないか?

 そりゃ、最初はお礼の一言や二言あれば満足したけど、毎日毎日、鳩時計のように決まった時間に面倒事を持ってこられる身としては、何か見返り的なものを要求してしまいたい立場になってくるよね」

 「わ、私にできることなら何でもします!」

 狐坂は躊躇(ためら)うことなく宣言した。

 やべぇ、前言撤回します。『お礼』にアダルティな意味ありました。

 「ほー、なんでもね。例えば?」

 ここはあえて自分から口にしてはいけない。相手に言わせなければならないのだ。

 「た、例えばですか?

 え、えっとー、肩もみをするとか?」

 は? 俺はお爺ちゃんか何かですか? そんなに肩が凝っているように見えますか? という言葉が喉元まで出かかっているが、それを必死に飲み込み冷静を装って質問を続けた。

 「他には?」

 狐坂はまだ要求するのかと言わんばかりの表情を見せたが日頃、迷惑をかけてしまっている罪悪感から次のお礼を考える仕草を見せた。

 「あっ、明日、手料理を振る舞いに参ります!」

 うん、それは凄く嬉しい。最近はコンビニのお弁当ばかりだったから。たまには誰かが作った物も食べたいなと思っていた時期ではある。それに、こんな可愛い十六歳の女の子が作ってくれると言うのなら尚更食べたいに決まっている。

 しかし、そうじゃない。俺が要求したいことは肩もみや手料理じゃなくて、なんかあるでしょ!

 だが、これ以上聞くことは諦めた。一つは時間がもったいない。これ以上聞いたところで絶対先の展開に行くはずがない。ゲームで言う所の好感度が足りていないのだ。もう一つは先程も言ったように前科を背負えるほどの度胸がない。俺ももう二十歳だ。罪を犯せば新聞やテレビに『小椎八重容疑者』と大々的に実名が報道されるのだ。それだけは勘弁してほしい。どうせ報道された日には同級生とかにインタビューで「いつかやると思っていました」とか言われるに違いない。

 そんな未来を勝手に想像して一人で鬱な気分になった。

 いやいや、待て。問題はそこじゃない。

 「ま、まぁ、狐坂がそう言うなら手伝ってやるか」

 俺は自分の本心に嘘をついて狐坂を助けることにした。

 俺がそう言うと狐坂の顔は明るくなった。

 「本当ですかぁ~! ありがとうございます!」

 俺は狐坂に礼を言われると、黒光り丸を退治するべく重い腰を上げた

 

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