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二人の選択

作者: 松松ぼっくり

時間を戻せるなら 幸せは続いていたのだろか?

どこから?いつから?

「私あなたの子供がほしいの。普通の家族の幸せがほしいの」

すべてはそこから始まったのだと思う。

あの時の私は普通がなんであるのか?家族とは?がわかっていなかったのかもしれない。

サムとは仕事先で知り合った職場恋愛的なはじまりだった。穏やかで少しはずかしがり屋な 口数の少ないあなたにどんどん惹かれていった。口先の優しさよりもちょっとした行動に現れる思いやりにこの人と生きていきたいと強く思った。

念願叶って夫婦になってからはお互いを尊重しながら信頼を置いてやってこれたとおもう。

ただ 私達夫婦にはなかなか子供が出来なかった。それがいつの間にか私の精神を歪め歪な感情へと変化していったのかも知れない。

最初は薬師のおすすめの薬をお互いな飲用してみたりしてあまり深刻に感じてはいなかった。そこで 医師に相談してみることにした。何かアドバイス的なものを貰えたらと思ったのだ。

ただ サムはあまり行きたくないようだった。

案の定あまりいい結果はなかった。サムのもともとの生殖能力の低さと私の虚弱体質で飲用してきた薬の副作用もあって難しいとの見解だった。その日から私は何かにとりつかれたように子供が出来やすいときけば何でも試した。食べ物 薬 そして閨の技巧めいたことまで。

当然夫婦の会話は減った。諦めの眼差しで私の願いどうりに振る舞うサムにもっと違う言葉をかけていたら 気遣ってもらうのが当然と思わず 彼にも優しくできていたらこんな未来は来なかったのかもしれない。

「おかえりなさい」上着を脱ぐこともせずに彼が口を開いた、

「話があるんだ」いつになく真っ直ぐ目線をあわせてきた。

「セシルのことはずっと大事に思ってきた。自分でもこんなことが出来る人間とは思わなかった。でもこのままではいられない。別れてくれ」

「えっ」最初は誰かが遠くで話してる会話だと思った。「なにを....。」何を言ってるのだろう?

「君以外の人と愛し合った。そして彼女に赤ちゃんが生まれる。」断腸の思いで語ったであろうことは彼の苦渋の表情でわかった。赤ちゃん?赤ちゃん?あんなに欲しかったサムの赤ちゃん?私ではない女の人のお腹にいるの?なんで?わからない。何が起きたの?思考はもう追い付かず理解は現実を拒否して私は叫んだ「嘘!嘘!嘘!あんなに欲しかったあなたの赤ちゃんこのまま頑張って耐えたらきっと私のお腹に宿ってくれる赤ちゃん!なんで?どーして?」彼はこうなることがわかってたように私を座らせると言った。「言わなければとずっと思っていた。酔って他の人と寝たなんて、言えなかった。僕の子供を欲しがるセシルに言えなくて、結局君を傷つけたごめん。正直君との生活に疲れてた。君の理想の家族から解放されたかった。」

「解放?今解放と言ったわね。そんなに私と居るのは辛かった?子供の話は辛かった?私だけが苦しいと思っていたわけじゃない!あなたには申し訳ないと思ってたわ。優しくなかったのかもしれない、でもね 私と別れてからでは駄目だったの?重荷に思った時に直接私に意見してくれるのでは駄目だったの?あなたもその女も言い訳にしか聞こえない!」

「そもそも私と結婚してるのを知ってて妊娠するって非常識な思考の女を愛してるの?」「...」「彼女の子供に対して責任がある」シーンとしずまりかえる部屋でコトコト煮えるスープの音が聞こえる。喉おくに何か詰まってる様に言葉が出ない。涙は出るが悲しさよりもこれは悔しさに近いのではないだろうか?心が冷えて行く。彼は扉を開けて出ていく。私は立ち上がることも出来ずうつむきながら肩を震わせた。すべての努力は無駄だった?もう恋心と共に消えてしまいたい。何日そうしていただろうか?気づくとベッドに寝ており看護婦がすべてを知っている表情で私を見つめていた。思い出す。辛すぎて辛すぎて食べることもしないであのまま時をとめていた。「ひゅっ」声が出ない!

看護婦は医師を呼びに行く「一時的なものだとは思うが精神的ストレスによって声が出せないのだろう。気持ちが落ち着いてしゃべりたくなったらまた声をきかせて欲しい。」

そうか 私しゃべれなくなったのか。医師は難しい顔をして言った。「セシルには良かったのか悪かったのか?実は君のお腹には赤ちゃんがいる。あまり安定してる状況とは言いがたい」

(赤ちゃん?)身体が温かいもので包まれるように

いや中からじわじわを私を幸せにしてくれるこれは私だけの赤ちゃん。「そのこのためにもセシルは辛いことを忘れてよく食べて眠るんだ」未来がみえた。ずーっと暗いトンネルの向こうに明るい光がみえる。その日から私は希望を手に入れた。


子供の成長は早い あんなに小さく生まれて私を悩ませてきた息子が今年で6歳になる、家のお手伝いもしてくれるし買い物の荷物も手伝ってくれる。私はあのあと診療所で先生に助けてもらい出産をした。仕事は主に診察のてつだいや入院患者のお世話である。あれ以来私は言葉を発っせなかった。声を出すのが怖かった!どーしてもの意志疎通は筆談だった、子供が読み書きを覚えるまではとても難しい環境だった。看護婦のサラさんやジョン先生が語りかけを気をつけてくれたので子供に弊害はない。むしろ私の気持ちを察してくれてこの年頃にしては相手の表情で先回りして行動する子になったと思う。私はこの子にサミュエルと名付けた。この子は似ている。やはり父親に近い名前になってしまった。サミーはいい子に育った。片親で しかも喋れない私はいい環境を与えてやれないけど読み書きを早く習得したサミーは先生所蔵の本を片っ端から読んでは理解を広げていった。

ある日買い物先であの人を見つけた。しばらく足が動かなかった。サミーが「母さん」と呼んだために彼がこちらを見た。と同時に身体を固くした。「セシル」私はサミーを引っ張ると身を翻して駆け出した。なぜ?今頃?彼女と新居を構えるために噂にのぼるこの街ではなくて遠い王都近くに住んでるはずだった。

「母さん?母さん!」ハッとしてサミーをみる。横には追いかけてきたであろうサムが立っている。「セシル、」「...。」

今さらなんだろう?なんでいるのだろう?呼吸が乱れて息が吸い難くなる。「おじさん!母さんから離れろ!」サミーが大きい声で怒鳴る。サムは悲しそうなでも嬉しそうな声で「坊主名前は?」ときいた。言わないで!耳を塞ぎたくなる「サミュエル」知られてしまった。とうとう知られてしまった。私は息子を抱き締めてサムから隠した。「こんな!こんな!つっぅ。許してくれ。許してくれ。」彼は固く握った掌を震わせて言った。

始終無言の私を前にサムは言葉さえも掛けてもらえぬのかと落胆した様子だったが首を振る私をよそに送っていくときかなかった。サミーは状況から母親とその相手の様子をみた。おそらく父であるだろう。サムを見定めるようにじっとみつめていた。

筆談で断りたいがそうすると声を無くしたことがわかってただでさえ責任感で押し潰されそうな彼に同情されたくなかった。

サミーをみると気持ちを汲み取ったようで「おじさん!家に着いてきてほしくないんだよ!もうあいたくないんだ!」とはっきりいってくれた。「話を.....させて欲しい。謝罪を受けなくてもいい。話をきいてくれるだけで」私はため息をつくと近くの食事処を指差した。そしてもう一度サミーをみやる。知ったように「30分買い物してくるよ。迎えにくるからそこで待ってて」と席を外してくれた。子供に聞かせるには向いてない話だろうから

やっと二人になった。7年ぶりだ。お互い小さなシワなど様子が変わっている。ああ 昔好きだった人だ。素直にそんな感想しかなかった。彼は目を潤ませながら語った。「君をひどい目に合わせた。償えない程傷つけた。僕は気の迷いから女を孕ませ君から逃げた。」ゆっくり話す内容は 結局女は妊娠などしていなかったこと、それを知ったときにはいまさら君に戻れなくて後悔したこと二人の生活はすぐに破綻したことだった。夫婦生活がいかに君からの愛であふれて満たされてか初めて知ったこと

あとは正直子供の父親になってみたかった自分がいたこと。

血を流すように言葉を選びながら語った。あんな別れかたをして戻れなかったこと。私が他の誰かと家族を持っていたらと思うとこの町にも来れなかったこと。やりきれないまま取引先の遠方でがむしゃらに働いていたこと。誰とも もう恋をしてないこと

口数の少ない彼が一所懸命話すのを聞いて彼が後悔してることはわかったがそれがどーだというのだろう?今私は息子がいる。家族の形は理想とちがっても幸せだ。幸せなのだ。それこそがすべてだ。謝罪は受け止めよう。大きくうなづくと席を立つ。一緒許されたことに喜ぶ彼が慌てて引き留める「母さん!」サミーが横に立つ。「おじさん。たぶんお父さんなんだろうけど今の僕にはあなたはおじさんだ。毎日朝ごはんを作って起こしにきてくれる母さん。お日様の香りのする洗濯物。仕事をしながら僕を育ててくれた。母さんが幸せならそれでよかったんだ。母さんがいらないなら僕は父さんはいらない。母さんだけでいい。」サムは黙ってサミーの元に近寄ると言った。「ずーっとセシルを守ってくれてたんだな。俺の息子が俺の代わりに」泣き笑いそしてわたしをゆっくり抱き締めた。「あっ。うぅぅ。」意識しないまま涙が溢れる。泣き声が音を作る。うまく喋れない。「あああ。あああー。」ちが!ちがう!望んでない。もうこれ以上の愛は!無くして苦しむならいらないと思っていた。私を置いて出ていったサムが憎かった。でも恨んでいたらサミーを育てるなんて出来なかった。愛してるの。愛してたからもう心からサムを閉め出した。何も感じない振りしていた。サムはサムは サミーとして私を守ってくれてたのかもしれない。「母さん!声!」私は大人げなくわんわんないた、久しぶりに出す声は自分の耳には誰の声かわからないくらい馴染み薄になってたけど何かが溢れてる 感情が声に乗って溢れてる。「さみー」ゆっくり声にだす。初めて口にする息子の名前。サミーが抱きついて私の服にシミをつくる、「もっと呼んで!名前呼んでよ」「さみー あ あい してる」ぎゅっとスカートが握られる。親子3人がやっと繋がった瞬間だった。

その後 サムはお世話になった診療所に挨拶に行きジョン先生とサラに今までの苦労話をこんこんと聞かされていた。時に涙で詰まり時に感謝の表情を浮かべていた。

今まで一緒にいられなかったからと仕事をこの町に移して時を惜しむように家族との時間を楽しんだ。私は少しずつ言葉を取り戻し、時にはサムに笑顔を向けることがある。サムは本当に嬉しそうだ。しょっちゅうお土産を買ってきてくれる。二人は言葉が足りない。過去が二人を臆病にしていて、愛を簡単には口出来ない。サミーの7歳の誕生日私は歌を歌った。かくれて練習してた子守唄は息子に歌うには幼なすぎたかもしれないがとても喜んでくれた。サムの誕生日には二人が結婚した時に交わした指輪。別れてからこっそり首に下げていたのを知っていた。「サムかがんで?」訝しげにしつつもゆっくりかがんでくれる。鎖を引っ張ると指輪が出てきた。はっとするサム。鎖を外すと久しぶりに指に通す。そして私の指にもあの時のお揃いの指輪。「サムがいてくれて幸せだわ。もしサミーが大きくなって巣立ってあなたと私の二人きりになっても、ずーっと一緒にいましょう。」

昔のことはないことにはならないし、愛しすぎるために苦しむことも承知の上でやはり一緒にいたいと思うの。

彼はポケットから写真を取り出す。ずーっと持っていた。捨てられなかった。それは二人の結婚式の写真だった。過ちは二人をこの先も苦しめるだろう。それでも諦めないで手を離さないで済む選択をしていこう。何より離れることの方が二人には辛い結果になることを身をもって知っているのだから。

サム愛してる。彼女の声をきけることがどれだけ幸せなのか

セシル愛してる。もう一度側で暮らせるのがどれだけ幸せなのか



拙い内容ですみません。

あたりまえな毎日が続くなんてなくて。

あたりまえが続くように努力することを忘れないのが幸せになるってことなのかなぁと

ふと思い起こして書いた作品です。

よくある話でしょうが積み重ねていく日々は何にも代えがたい貴重なものでそれを愛と呼べたら幸せなのかもしれません。

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