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33年目の同窓会「消える想い」

作者: 流音多喜有

年号が変わったばかりの真新しい年に、小振りだが強烈な台風15号が関東を直撃した。各地で様々な被害がメディアにより告げられる。台風一過で体温を凌駕する気温となり残暑というよりは夏最盛期かと錯覚するほどだ。

そんな日に中学の同窓会が開催された。本来であれば月を愛でながら夜長を楽しむ時期だというのに、夏の終わりを告げる哀愁すら感じられない。ただし、今の僕には丁度良かったのかもしれない。異常気象のせいにできるから。


今33年分の想いを胸に秘め、彼女の真正面に座るっている。挨拶もろくにせず、目を合わせる事もできないままの状態が続く。

昨日までに何度も練習した笑顔で気軽にいこうとするも身体が固く強ばって上手く行かない。ああ、僕は緊張しているんだと気づいた。話題に困っているときは天候の話をするのが差し障りがない。しかし、現実はそう甘くはなく、既に極めて自然に他の同級生が話題にしてしまっていたから二度は使えない。うだうだしている間に二時間が経過していた。

頭は真っ白で、強か飲んでいたのに酔えず、他に集った同級生達と話した内容すら分からない有様だった。ただ、時折彼女の話題だけが断片的に耳に入っては抜けこぼれていった。

十代の3年間を同じ学校で過ごした、その1年間同じクラスだっただけの彼女はどうやらあまり僕には関心がなかったみたいだと言うことは痛いほど、刺さるほどに分かった。何のためにずっと探して探し続けて今日の再会に至ったのか。これが求めていた結末なのか。

更なる目眩が襲ったのは集合写真を撮るタイミングだった。奇しくもしゃがんだ彼女の真上という位置。身体は近いのに心は永遠ほど、いや決して交差しない位置にある事が僕の存在を消し去ろうとしていた。そのまま帰るのが筋だと思い立ち何度か帰ろうとしたが流れに飲み込まれてカラオケスナックにたどり着いた。


薄暗い中で今度は彼女と対角線上に座る。意識していないのに。白く今でもキレイな彼女がスナックの安い光りに照らされ浮かび上がって見えた。その右手の人差し指と中指の間には細く見慣れないタバコが挟まれ、暗闇に紫煙を舞いあげている。ごく当たり前の行為でもあるかのように古びたスナックの天井に当たって横に広がって部屋に拡散された。酒もタバコも当時からやっていた彼女だが、見るのは初めてだったために、ついマジマジと見入ってしまう。

やがて当時から目立っていた彼女の遍歴が披露される。黙って聞くしかない。聞きたくもない話を酒で避けようとしてピッチが上がる。

遂に僕の口が滑った。


「僕もずっと好きだったんだよ」と。


酒の勢いで言う事ではないはずだった。からかう同級生達の中で彼女だけは冷静に煙草を吸い続けていた。それが答えなのか‥

30数年の重く狂おしい想いは、彼女の吸って吐いた煙より先に天井に届き、どことなく、いや、最初から存在していなかったかのように呆気なく綺麗に消えた。

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