余りにも馬鹿すぎた勇者(私)の元にリア充勇者(仮)がやって来た
魔界ジュディアーリに立ってる魔王城に居候して早2ヶ月の夕凪茉火です。早いなぁ、時間が過ぎるのって。
そう思いながら私は魔王さんから貰ったモンブランモドキにかぶり付く。今日はいつ見ても麗しい顔立ちで紅色の髪に紫色の切れ長の瞳のラウディンさんと勉強してる。
我らが姐さんのアルスーラさんは今日は軍の警備強化の為に不在なのだ。えぇ、ちょ、アルスーラさんと2人っきりも嫌だけどそれよりラウディンさんとかもっとヤダよ。
私この人と2人っきりとか冷や汗止まんないだけどっ!
「ら…ラウディンさん、ちょ、ちょっとだけ休憩しませんか?」
「モント食べながら言うことではありませんよね」
あ、これモントって言うんだ。もうどう味わっても、見てもモンブランだよ。
そう思いながらモソモソ食べていたらラウディンさんに本の角で頭を殴られた。
ぶっふ!!
「ちょっと、吹き飛ばさないでください。ああ本に汚いのが着いてしまった」
「ラウディンさんって私のこと絶対嫌いだよね」
「おや何を今更なことを」
グハァッ!ユウナギ マコは心に100のダメージを負った。
まがコイツ真顔で言ってきたぞ!
ぐ、だめだ、このままでは私の心殺られてしまう。
「ラウディン、勉強の調子はどうだ。マコお前が好きだと言っていたティネーの茶を淹れてきたぞ」
お、おかぁさぁああん!!
「おおか、魔王さん!待ってましたとも!」
「魔王陛下あまりこの娘を甘やかさないで下さい。仮にも勇者ですよ?慣れ親しんでから隙を突かれたらどうするんですか」
「大丈夫すでに魔王さんによって餌付けされたから!」
「ラウディン、これが本当に吾の宿敵か?」
「陛下これは只の馬鹿でございます」
いやいや知らない人にお菓子あげるから着いて来てって言われても私行かないからね!?むしろ魔王さんにガッチリ胃袋捕まれたからこうなってんだよ!
しかも頭から角生やしてるけどそこそこイケメンな上に主婦力高いって凄いよね。
私的にはその紺色っぽいマントよりエプロンを装備してほしいんだけど。
魔王さん淹れたてのティネーのお茶を口に含む。ふんわりっ甘く優しい味が広がる。うん今日も美味い。ティネーって簡単に言えばミルクティだよね。
ミルクティはいいんだけど、なんで魔界の砂糖って蠢く黒い毛玉なんだろう。
怖いので1回も自分では入れたことないし、触ったことがないから感想とか言えない。
一言で表すなら丸まった毛虫だよ?毛虫入れるとか無理だから。
「あ、いたわぁ魔王様、あのねぇちょーっと厄介なお客様が来たんだけど」
「アルスーラ…さうぉぉおお!?ムッチリ豊満ボディなアルスーラさんがガチムチの傷だらけなおっさんにぃぃい!?」
顔とか長いオレンジの髪とか綺麗な黄色の瞳とか声に喋り方はそのままなのに体がガチムチで傷だらけなおっさんにアルスーラさんがなってるとは何事じゃあぁあ!!
「なんだ本性晒したかアルスーラ」
「さすがバハムート、見るからに屈強ですね」
「ばはっ!?アルスーラさんってあのバハムート!?」
まさかの正体に私びっくり。そりゃ本当は男のアルスーラさん強いわけだ。
勝てねぇよあんなガチムチボディなおっさん一目見たら戦意喪失するって。
私だったらこの人目にした瞬間回れ右で即座逃げるわ。
「それよりもアルスーラよ、厄介な客人とは誰ぞ」
「いやねぇ、なんでも俺は勇者だーって玉座で叫んじゃう可愛い女の子達とか引き連れたイタイ子なのぉ」
「んん?はいはい一応私も勇者なんですけど!」
「だよねぇ、どうします魔王様ぁ?」
「……、よし1度会いに行こう、マコ」
「イエス、マザー!」
魔王さんとガチムチアルスーラさん、ラウディンさんの後ろに着いていく一応勇者の私。勇者(私)ここにいるのになぜ勇者(仮)来たし。
いやそれより勇者(仮)、お前なに可愛い子をパーティーとか引き連れちゃってんの!?私なんか我が身と薄口醤油1つでラスボスの目の前に放り出されたんですけど!!
私だって可愛い子を仲間にしたいんだ!野郎なんかいらねぇよ、萌えをくれ萌えを!
まだ見ぬ勇者(仮)が可愛い女の子を連れているということに怒りを感じながら玉座の間に着く。
余談だが、この玉座の間は私と魔王さんが出会った場所なのである。正直玉座とかあれ座れるデザインじゃないよね?どう見たって座れない。明らかに横幅が狭すぎて魔王さんはケツを玉座に据えられないよね。
まあ、それもその筈だ。初代魔王は女の人だったから仕方ないって言うけど……2代目なんで作り直さなかった、勉強したから歴史のことなんとなく分かるけどおいおい初代勇者で魔王2代目よ、お前マザコンだったんじゃないの?
て、そうじゃないそうじゃない。今はなんかギャンギャン喚いてる勇者(仮)一行をなんとかしないと。
「人間、貴様が勇者と名乗る者か」
「お前が魔王か、俺はインディヴィーナに無理矢理勇者にされた市谷 怜だ。お前には悪いが元の世界に帰るために俺はお前を殺す」
インディヴィーナって確か魔界から1番近い人間の住む国だったよね。そういやぁ前に魔王さんが私を召喚した国もインディヴィーナとか言ってたな。
シュランっ、軽やかな音をさせて市ヶ谷怜とか言う少年は腰にささっていた聖剣っぽい剣を抜刀する。あ、いいな武器とか持ってら、おっ、待てや本当に可愛い女の子3人とか格好いい青年1人も連れて………って、ちょっと待て待て待て
「そこのローブ!おまっあのとき変な格好をしたジジイと一緒にいた青年だろ!?」
「ああ、この前の勇者選定の時の。まだ生きてたのか渋といな」
「生きてたのか渋といなって、人とは思えない酷いセリフ」
「見たところ魔王や悪魔に身を売ったか、……はっ、売女が」
「私まだ花も恥じらう清らかな乙女、そうまだ処女だからビッチなのではないだぶ!」
あの最初にみた真っ白な空間にいた、今は青いローブを着た青年の失礼な言葉に反論しただけなのに頭、背中、横腹を叩かれる。それもかなり力が込められて、いや、あの頭とかはいいとして、ラウディンさん?肘で横腹はないわ。
「お前は淑女としてたしなみを持て!」
「未成年の女の子がそんなお下品なこと口にしちゃダメよぉ?」
「いっそのこと人として一からやり直しをさせましょうか」
魔王さんまじオカン。アルスーラさんは存在自体がげ…いやなんでもないですよ?ラウディンさんが一から悪魔やり直せよ。
って、うお魔王さんがなんか怖いぞ…!?
「返事は」
「いっイエス、マザー!!」
「よし、罰として今日の菓子はなしだ」
「んなっ!そ、そんな後生な!!休憩の菓子なしにこの悪魔のような奴等の勉強なんか無理無理無理!」
「悪魔ですよ」
「正真正銘のよねぇ」
そうだったぁあ!コイツら悪魔のようなじゃなくて悪魔だった!
「……魔王、」
「ん?嗚呼すまない人間よ忘れておったわ」
「…え?あ、いやそれよりその人は……」
「こ奴か、そこの神官達によってお前と同じ異世界より召喚されし勇者だ。現在は我が魔王城にて元に戻る手掛かりを探しつつ居候している身だがな」
「……………はっ?」
「吾は現魔王であるギルクライシャス・ギッシュ・メューイク5世だ」
「そしてこの異世界での私の保護者様。マザーだよこの人主婦力高すぎてもうお母さん以外の何者にも見えないよ!本当に魔王さんって何者?」
「だから5代目魔王だってば」
「勇者ちゃんがよく口にする『まざー』ってお母さんって意味だったのねぇ」
「確かに父親というより母親の方が似合いますね」
その言葉に同意したかのか隅っこで控えていたメイドさんとか執事さんとかがうんうんと頷いていた。
良かったね魔王さん、皆の公認貰えたよ!
「公認マザー!」
「……せめて父親にしてくれまいか」
「ファザー?……えぇ、しっくりこないからやっぱりマザー」
「ちょ、ちょっといい加減にしなさいよ!!」
「…無視しな、…いでください……!」
「勇者様とわたくし達を無視してただで済むと思わないでいただきたいですわ!」
前から凄く可愛い声が聞こえてきて前を向くと、そこには桃色のツインテールのつり目のいかにもツンデレ美少女、ふんわりした雰囲気のタンポポ色の髪とおっとりしたような目に涙を溜めた美少女、金髪ポニーテールで碧眼のこちらもいかにもお嬢様な美少女がいた。
「……つ、ツンデレに清楚とお嬢様…だと…、テンプレ過ぎてヤバい王道中の王道だ」
「勇者ちゃんそれ何語?」
「いいな、いいなあんな可愛い子がパーティーってズルい!ツンデレ美少女に清楚系ふんわりガール、そしてこれは外せない我儘勝ち気お嬢様!ちょ、誰か1人でもいいんで私と友達になってください!!」
「……どうしましょラウディン、勇者ちゃん壊れちゃったわぁ」
「壊れたと言うよりはアルスーラの様に彼女なりの本性が出たのではないでしょうか」
は、いけない少し壊れてしまった。これでは魔王さんの話が進まないじゃないか。
と言うわけで私は大人しく魔王さん達から離れてそこらへんの床に座って見学する。ん?戦わないのかっていう視線で前の奴等から言われてるような気がするが残念なことに私は戦えないよ。戦ったことすらありませんとも。RPGでの戦闘はよくしたけどね。
「魔王さん魔王さん、私ここで大人しくしてるから」
「それより床に直に座るな冷えたらどうする。玉座にでも座っていろ」
「あれ魔王さんの椅子」
「いや、あの椅子初代以外座れていないからな。たまには使ってやってくれ」
イケメン過ぎでは?そんなことを言われたら座りたくなるのが人間の性。いざ!尻を座席につけた途端即座に離れる。な、なんだ今の感触は!?
「………うそ…だろ……めちゃくちゃ座り心地が悪い!?」
「え、うそぉ…あらやだ、布の下これ石じゃない。床よりも物凄く冷たいわ」
「所謂大理石、というものですね」
「なんだと?仕方あるまい、マコ、吾のマントを敷いておけ。ちゃんと二重三重に折るのだぞ」
やだママン…!溢れ出る母性とマントを受け取り言われた通りにいそいそと畳む。見ろよそこのフード野郎、これが紳士の対応だ。これがあたしの保護者様なのだ。あ、めっちゃふかふかですマント。
「まこ…?やっぱり、せんぱい…夕凪先輩かよ!?」
「如何にもあたしは夕凪ですがなにか?ストップ、先輩と言ったな勇者?」
まじまじと勇者(仮)の顔を眺める。しかし残念無念誰やねん。いやほんと、自軍敵軍からの視線痛いけど、本当に記憶にない。先輩と口にしたのだから後輩なのは間違いない。間違いないのだが、
「…ごめん、マジで誰?」
「1年前にあんたの友達のアミ先輩と付き合ってた市谷だ!」
「………1年前………あみちゃんと……付き合ってた……」
確かに友達にあみちゃんという女の子がいる。彼女はとても可愛らしい子で惚れやすく、コロコロ変わる彼氏もいたのを覚えているが…その時あたしの脳内に特徴ある雑誌の表紙が横切った。
「……はっ!……まさかあの、巨乳団地妻寝取り100人切り劇物本事件の…!?」
「マコ、下がっていろ」
察した魔王さん。まるで汚物を見る目を勇者(仮)に向け、素早くあたしを自身の背に隠してくれた。察した上で疑問を感じたラウディンさん、アルスーラさんそしてフードの野郎は痛々しいものを見る目をしているのがチラリと見えた。
「あれは、悲しい事件でした」
「あれが原因でフラれたんだからな!?お陰でクラスの女子から白い目で見られてんだよ!」
「自業自得だろ、惚れっぽいあの子でも引いた事件じゃん。なんでエロ本の登場人物全員にあみちゃんの顔写真貼るかな、さては変態だな?」
「ああああああ!?やめろ!喋るな!しゃべらないでください!ほんの出来心だったんです!!」
「出来心であの盗撮が許されるのなら警察はいらないよね」
あの時はお世話になりましたお巡りさん。事案がまた発生しそうです。
「…え、むり、キモい」
「……ひっ、気持ち……悪い…ですっ」
「おっ、お待ちなさい、先日スマホというもので、写真を撮るのが趣味と仰って……」
「してないしてない!!今は普通に撮ってる!」
いや、だがあの反応は明らかに気にしている。懐に入っているであろうスマホを気にしているように見える。
「…ちょーっと気になることがあるのでスマホ見せてくれる?」
「え、そ、それだけは──!」
結論。盗撮に盗聴が加わっていた。
──これは酷い。
「、うわ、あみちゃんとあたしの会話まである」
「ねえこれ…前の宿でのお風呂、の会話、じゃないです…?」
「こっちはまだ城にいたときのメイドの世間話」
「うっ、うえ…」
あまりのショックに泣き出した清楚系のお嬢さんをよしよしと頭を撫でながら、憔悴仕切った市谷に向けあたしは口を開く。正直憔悴したのはこっちだ。
「やっぱりあの時警察に付きだしておくべきだった」
「悪いがそこの神官、少し小僧のことで話がしたいのだが。ラウディン、アルスーラ、マコを頼むぞ」
「不本意だが…王族に連なるご令嬢を預かる身として──謹んでお受けします」
「ひいっ」
首根っこを捕まれ何処かに連れていかれる市谷。何故あんな奴を勇者に選んだインディヴィーナのお偉いさん。
「じゃあマコちゃんとお嬢さんたちはあたしと一緒にお茶しましょうねぇ、ティネー用の良い茶葉が手に入ったのよぉ!」
「ではそれに合うお茶菓子を持ってきましょう。その後はあちらにお邪魔してきましょうか」
仮にも悪のラスボスであるが保護者な魔王さんと、ああ見えて神に仕える良心的な心を持っていると信じているぞ聖職者のフード。彼には世の中の常識というか社会的抹殺というものを心底味わって頂きたい。
「あぁら、足が滑っちゃったわぁ─お゛お゛らっよ!!」
高いピンヒールを履いたゴツい御御足でスマホを一転集中で見事踏み砕いたアルスーラさんに、あたし含む女性陣の歓声が上がったのだった。
本当に久し振りに投稿します。
誤字脱字ありましたらごめんなさい。
あと長くて2話で完結する予定です。