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051 飛び込めカジノ

 ここはかっこよく、カジノの上階にある窓をバリーンと破って登場……と行きたいんだけど。


「そうはいかないよなあ」


「何がそうはいかないんですか?」


 俺の独り言を聞いて、セシリアが興味を示す。

 うん、彼女に話す訳にはいかないな。絶対実行するもん。

 セシリアの背中では、背負われたマナが、ムニャムニャ言いながら目覚めかけている。

 結構揺らしたし、よく寝た方だろう。

 ただの女の子を、ここまであちこち連れ回して申し訳ないなあ。


「カイルくん、見たことある奴が二人いるなあ」


 窓から中を覗き込むエノア。

 彼女の観察眼が、早速、標的を見つけ出したらしい。


「ダンタリオン、それからアンドロマリウス。二人ともいるね。

ここってカジノの偉い人が来るような所なの?

お金持ちっぽい人ばっかりなんだけど」


「だと思う。賭け金も凄い額で動いてると思うよ」


「うちには縁のない話だねえ。

生まれは狩人、育ちは聖王国、果てはアスタロトの迷宮で一巻の終わり、だったもの」


 視線はカジノの中を見つめたまま、大仰な仕草で嘆いてみせるエノア。


「それがまさか、二度目の人生をもらえるとは思ってもいなかったよー。

しかも、他の英雄姫に規格外の勇者も一緒でしょ?

面白いったらないわ」


 楽しんでくれているようで何よりだなあ。


「どうします? 蹴破ります?」


「それも分かりやすくていいんだけど、そもそもさ。

この街も、温泉都市もそうだったけど、悪魔が運営してるって割にはそれなりに上手く行ってなかった?」


「急にどうしたんですか。

悪魔は即滅殺! これが英雄姫のいる意味ですよ!」


 脳筋セシリア、本当にぶれないなあ。


「それは分かるよ。最終的にはそうしたいけど、セシリアはさ、最前線で悪魔と戦ってたわけだろ?

そこで相手をしていた奴と、ダンタリオンやアンドロマリウスはどう違うんだ?」


「会話できるのがそもそも驚きですよね。

戦場で出会う悪魔は、ただただ単純に敵、ですから。

それが名前のある悪魔と、兵士でしかない悪魔の差かもしれませんけど。

唯一話ができたのは、黒貴族のアスモデウスだけです」


 ああ、俺がこの世界に降り立った、セシリア危機一髪のあの時か。

 あれは危なかった。

 本当に、彼女を助けられて良かったと思っている。

 あそこでの、アスモデウスとの邂逅で、俺の中で悪魔のイメージは固まった気がする。

 倒すべき敵だ。

 なので、今もちょっと悪魔の定義について考えてはいるんだけど……。


「基本的にやっつけちゃう方向性でいいんじゃない?

アスタロトも最低のやつだったでしょ?」


「その通りだ!」


 ハッとする俺。

 よく考えなくても、悪魔は悪い奴だな。

 よし、やっつけよう。


『思考はシンプルに。それで良いと思いますわよ。わたくしは勇者を呼ばないまま終わりましたけれども、未だ、最後まで未知を駆け抜けられた勇者は存在しないと言われていますわ。カイルさんが向かう先に、勇者というものが呼ばれた答えがあるのかも知れませんわね』


 ナディアが意味深なことを言う。

 考え込むと、思考の堂々巡りになりそうな気がするぞ。

 今はまず、やるべきことを見据えよう。


「ええと、カジノの中にいるのは……」


 見下ろしているのは、多分VIPルーム。

 主催者のアンドロマリウスと、賓客って感じのダンタリオン。

 そして、お金持ちそうな人々がたくさん。

 みんなギャンブルで楽しんでいる。

 カードゲームとか、スロットとか、ルーレットとか。

 一ゲームが終わるごとに、大きな歓声が上がるな。テーブル上に積み上げられたコインが、大きく動く。


「自分が遊んでいるカジノが、悪魔に主催されていると分かってるんでしょうか、あの人たち!

嘆かわしいです!」


 ぷんぷん怒るセシリア。

 そろそろ、彼女の我慢も限界っぽい。

 飛び込むとするか。

 マナは……部屋の隅っこに置いておこう。


「よし、二人とも、突撃するぞ!」


「はい!! 行きまーす!」


「待ってましたぁ!」


 英雄姫たちが快哉をあげる。

 俺が二人の装備を、アイテムボックスアプリから取り出す。

 素早く二人のアイコンへと、アイテムをドラッグすると、彼女たちは一瞬でフル装備になった。


「うーん、うーん、硬い……」


 マナがうなされている。

 セシリアが鎧姿になったからなあ。


「セシリア、マナは俺が引き受ける」


 一瞬、マナをアイテムボックスにしまえないかな、なんて発想をしてしまった。

 いかんいかん。


「カイル様、お願いします!」


「ああ。この子を後ろに置いたら、戦線に加わるから!」


 ……そんなわけで。

 甲高い音を立てて、窓ガラスが砕け散る。


 カジノ天井の特大シャンデリアの光を受けて、白銀と真紅、二人の英雄姫が降り立つ。

 あと、俺。

 飛行魔法でふんわり降り立った俺は、後ろの方の椅子にマナを乗せた。


「に、兄ちゃん! 何、何が起こってるの!?

おれ、まだ寝てる……?」


 目覚めてしまったか……。

 気持ちは分かる。


 そして俺たちの前では、パニックに陥る客と、立ち上がる悪魔二人の姿。


「覚悟なさい、悪魔!」


「引導を渡しに来たよー」


「ここまで追ってくるとは……。アンドロマリウス、追手を放ったのでは無かったのか?」


「先読みされていただと!?」


 悪魔たちの顔には、焦りの色があるな。

 二人ともまだ、人間の姿をしている。

 いや、アンドロマリウスが手をかざすと、そこに何匹もの蛇が現れて巻き付いた。

 姿は人間にとても近いが、これがあいつの悪魔としての姿らしい。

 対するダンタリオンは、背後に人間の顔が無数についた曼荼羅みたいなものが浮かんだ。

 手には書物を抱えている。

 どちらも、人間に酷似した悪魔なのだ。


『人と変わらない姿をしているからこそ、彼らは人の中に入り込み、力を伸ばすことができたという訳ですわね』


 ナディアの親切な説明。


「ど、どういうことだ!?」


「まさか、悪魔だったのか!」


「ひいー」


 客のパニックがひどくなった。

 必死に、壁にすがりついたり、扉に殺到したり。


「カイルくん、この人たち外に出しちゃっていい?」


「ああ、頼む」


 エノアは頷くと、一歩後ろに下がり、矢をつがえた。


「絶技、追撃の矢(サイドワインダー)!」


 放たれたのは、三本の矢。

 それは地を這うように超低空飛行で走ると、人々の足の間を抜け、壁に炸裂した。

 エノアの矢は、まるでミサイルみたいな威力を発揮する。

 壁が砕け散り、通路や夜の街があらわになった。


「うわーっ」


「何人か落ちていったなあ……」


 悪魔を前にしている今、そこまで面倒は見きれない。

 それに、カジノの周囲はぐるりと、堀や珍しい植物が埋め尽くしている。

 地面に激突、なんてことにはならないだろう。


「マナ、ここで待っててくれ。上手いこと隠れて、だな……」


「ええー。めちゃくちゃこええよう」


 マナが俺の手をしっかり握って離さない。

 泣きそうな顔をしている。

 そうだよなー。

 怖いよなー。


「うーん」


『お任せですわよ。カイルさん、ちょっとだけ、わたくしに魔力を分けて下さいませんこと?』


 ここでナディアの申し出だ。

 何を考えているんだろう?

 だが、いい考えがあるようなら、藁にもすがりたい。

 俺はブレイブグラムを展開すると、ナディアのアイコンをタップした。


 これで、スマホの電力が彼女に注ぎ込まれる。

 画面が輝くと、そこから小さな者が飛び出してきた。

 それは……かつてアニメなんかでよく見た、魔法少女の隣によくいる、マスコットみたいな何かだ。

 少女を象った人形みたいな姿で、英雄姫ナディアはこの世界に再び降り立ったのだ。


『わたくしはナディア! マナちゃん、あなたを守って差し上げますわ』


 マスコット・ナディアは、そう言ってニッコリ微笑むのだが……。

 いやな予感がするなあ。

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