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047 残留思念

 なんだか、宿にばかり泊まっている気がする……!

 しかも、女子の数が一人増えたぞ。


「マナを放っておけないじゃないですか」


 とは、セシリアの言葉だ。

 確かになあ。

 彼女を一人放っておくのは気が引ける。

 今まで一人で生きてきたのだとしても、彼女と知り合ってしまったら、また外に放り出すなんてできやしない。


 ということで……。


「うわーい! ふかふかのベッドだー!」


 部屋に入るや否や、ダッシュでベッドに飛び込んでいくマナだ。

 うん、お約束のアクションだな。


「むっふっふ、マナちゃん、うちらに感謝しなさーい!」


 恩を売りながら、マナの横でベッドに飛び込んでいるエノア。


「あっ、ずるいです二人とも! 私も……!」


 出遅れたセシリア。

 真似しなくていいからね?


「じゃ、俺はナディアを探すから」


 スマホを起動して、部屋の中をうろうろしてみる。

 ファントム・ミレールの反応はあるな。

 このアプリを起動して、一番反応がいい部屋を選んだのだ。

 つまり、ここはかつてナディアが宿泊した部屋だ。

 

 ……あれ?

 部屋の外に向かって行くと、だんだん反応が強くなっていくぞ。

 これは、ナディアの行動経路を追っているんだろうか。


「カイル様どこに行くんですか? 私も行きます!」


「ええ? カイルくんどこ行くの?」


「カイルの兄ちゃんどこ行くんだよー」


 俺がファントム・ミレールに(いざな)われて外に出ていくと、女子三人が後を付いてきた。


「こっちが、ナディアの反応が強いんだ。

ええと、この角を曲がってまっすぐだろ……?」


「でもカイルくん、こっちって」


 エノアが何か言いかけているがそれどころではない。

 ファントム・ミレールの円形グラフが、その反応をどんどん強めているんだ。

 これを見逃すわけにはいかない。


「あ、はい、じゃあ、この四人で貸し切りで……。ええ。これ、お金ね」


 セシリアが、誰かと何かやり取りしている。

 なんだろう?

 いや、今はそれどころではない。

 扉を開けて、真っ直ぐに突き進むだけだ。


「カイルの兄ちゃん、ここから先は服着てたらだめだぞ!」


「ああ、うん」


 マナが何か手伝ってくれるので、着ているものを脱ぐ。

 ファントム・ミレールはますます、その反応を強めている。

 いいぞいいぞ。


「まさか、こんな形でカイル様と……」


「うんうん、カイルくんも思ったよりも強引だねえ。うちはそれくらいの方が好きだけど!」


「エ、エ、エノア! たとえ冗談でも、勇者様をそんなふうに言うなんて……」


「あっはっは、大丈夫! セシリアちゃん優先だからさ!」


 二人は何をはしゃいでいるのだろう。


「ほら行くぞカイル兄ちゃん! えっと、この扉をあけてー」


 マナが俺の背中を押す。

 押さなくても、自分から進んでいくぞ。

 だって、そろそろ円グラフの動きが最大になっているのだ。

 いよいよ俺は、ナディアに近づいている……!


 俺は大きく一歩を踏み出した。

 そして足先が、ざぶんとお湯に浸かる。


「……ざぶん?」


「わあ……ここの大浴場、階段みたいになっているんですね……。お湯、思ったより熱くないかも?」


「えー、熱くない? でもこれ、温泉を使ってるわけじゃないんでしょ? 

川の水を沸かして時間ごとに入れ替えてるんだって。手間がかかってるよねえ」


「……待て」


 俺はここでようやく気付いた。


「ここはどこだ?」


「どこって……風呂だろ? 

カイルの兄ちゃん、どんどん進んで行って、ここにやって来るんだもん。

慌てて、セシリア姉が貸し切りにしたんだぜ」


 マナが俺の疑問に答えた後、ちゃぷちゃぷと音を立てて奥に進んでいった。

 肩まで沈んで、


「あっちー。おれ、熱いのは得意じゃないかもー」


 すぐに立ち上がり、ばしゃばしゃと風呂の縁まで歩いていく。


「こーら、マナ! ちゃんと肩まで浸かりなさい。

こんなに潤沢に水を使えるなんて、旅をしていると滅多にないんだから」


「うわー、セシリア姉やめてー!」


「……!?」


 スマホから顔を上げる俺。

 横を見ると、湯けむりの中、セシリアとマナが二人でお湯に浸かっている。

 身につけているのは、お風呂用の着物だろうが……薄布一枚だ。

 ……マジか!

 いつの間に……!?


「カイルくんが率先してお風呂に来たんじゃん。

実はえっちだな、このこのー」


 エノアが俺の胸を肘で小突く。

 うわっ、近っ。

 密着するような距離に彼女がいて、しかも身につけた着物は透けてて……。


「や、やめてください」


「カイルくんが蚊の鳴くような声で!

それより、ここに来た理由があるんでしょ?

大方、ナディアがここに来たとか」


「そ、それだ!」


 俺はファントム・ミレールを注視する。

 そこにあったのは、円グラフと呼べるものではない。

 画面全体が、反応の色で染められている。


「間違いない。ここだ」


 俺は、腰の周りを覆う布一枚のまま、湯船の真ん中で佇む。

 まさにこの場所で、今立っている地点にナディアがいた。

 そこで彼女は、何かをしたのだ。

 アプリが反応するような何か。

 それこそ、残留思念を強く、この空間に焼き付けるような……。


『フォロー可能な英雄姫がいます』


 突然、ヘルプ機能の声がした。

 少し向こうで、セシリアがビクッとする。


「またあの声がしました! カイル様!?」


「うん、気持ちは分かるけれど、今は音声をオフにする訳にはいかない。

画面情報が多すぎて、メッセージを文字にすると埋もれるから!」


 ブレイブグラムを展開する。

 通知アイコンに、赤く①と光る表記。

 タッチすると、『フォロー可能な英雄姫』の文字。


『英雄姫ナディア』


「いた!」


 俺は彼女の名前をタッチし、フォローする。

 その瞬間、俺の全身が熱くなった。

 スマホの画面上部に、見覚えのあるアイコンが出現する。


『インストール可能なアプリが存在します。アップデート可能なアプリが存在します』


 これらを承認し、片っ端からインストールしていく。

 ものすごい速度でアプリが増え、アップデートされる。

 いちいち確認している余裕がない。

 インストーラーの働きと同時に、メッセージが送られてきたからだ。

 今度はメールじゃない。

 ショートメールだ。


『ようやく接触できましたわ!』


 そう表示されていた。


「君がナディアか?」


『ええ。わたくしは、英雄姫ナディア。あなたは勇者カイルですわね?』


「そうだ。君をフォローしたぞ!

姿を見せてくれ!」


『そうですわねえ。あなたに会えたのは、望外の幸運ですわ。ですけれど、直接会うことは叶いませんの』


「それは……どうして?」


「カイルくん、ナディアがごねてる感じ?」


「いや、なんか掴みどころがない」


「掴みどころ……ねえ。確かに分かるなあ。

あのブログって言うのでも、なんかこの人、のらりくらりしてたもんね」


『失敬ですわね』


「あ、ちょっと怒ってる。

ナディア、それはいいから、どうして出てこれないか教えてくれないか?」


『そうですわね。わたくし、もう実体がありませんのよ。それにこれも魂ではありませんの。言うなれば、残留思念のような』


「エノアよりも悪いパターンなのか……」


『わたくし、普通に大往生しましたからねえ。なので、わたくしがあなたと同行するなら、この残留思念の受け皿となる肉体が必要なのですわ』


 受け皿……!?


『例えば……あなたが連れている、あの女の子のような』


 そのショートメールは明らかに、マナを指し示していたのだった。


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