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045 悪魔の事情

 アンドロマリウスを前にして、俺達は身構えた。

 槍と弓と剣が、白髪のその男へと向けられる。


「やめてくれたまえ諸君!

こんな大衆がいる場所で、アスタロト卿を倒した時のような大立ち回りをするつもりかね?」


「むっ」


 確かにその通り。

 悪魔を倒すほどの戦いとなると、周囲の人々に気を遣っている余裕なんかない。


「きっ、汚いです悪魔!! 正々堂々と勝負なさい! ここに降りてきて!」


 セシリアの声が、闘技場に響き渡る。

 本当に発声がいいなあ。

 これは、ここにいる隅々まで聞こえたことだろう。

 観客が、ざわざわとし始める。


「なーるほど。アンドロマリウスの奴、人間を人質にしてるんだねえ」


「へ? どゆこと!? あのおっさんがどうしたんだよ!」


 マナは大混乱だ。

 まずいな。

 こっちには、マナもいる。

 英雄姫じゃなくて、正真正銘の普通の女の子だぞ。


「ちょっとカイルくん。なんでうちとマナを見比べてるの?

何か失礼なこと考えてない……?」


「滅相もない」


 エノア、俺の心を読んだのか?

 いや、決して、セシリアやエノアは頑丈だから大丈夫なんて思ってないからな。


「立ち話も何だ。英雄姫と勇者達よ、私についてくるがいい」


 アンドロマリウスは、俺達を誘う。

 何を考えている?

 この場で奴を倒すことは、難しくないだろう。

 こちらには俺と、二人の英雄姫がいる。

 犠牲が出ることを容認すれば、だが。







「掛けたまえ」


 俺達が案内されたのは、闘技場の中に設けられたアンドロマリウスの部屋だった。

 外からは、歓声が聞こえてくる。

 新しい試合が行われているのだ。

 つまり、この部屋のすぐ横には観客席があって、たくさんの人がいる。


「むむむっ……」


 呻くセシリア。

 座席に腰掛けず、アンドロマリウスを睨み付けている。


「ご不満かね、当代の英雄姫セシリア殿」


「無論です。人間を盾に取り、己の身の安全を守ろうとする……!

見下げ果てた根性です!」


「それはそうさ、悪魔だもの」


 アンドロマリウスが笑った。


「それに、ラスヴェールの運営は、我ら悪魔にとっても重要な仕事でね。

ここで人間達の同行を観察して世情を把握し、娯楽を与えることで暴発を防ぐ」


「どういう事だ?」


 悪魔が妙なことを言っている気がする。

 アンドロマリウスは、人間と共存しているのか?


「それに、君達にここで騒ぎを起こされては堪らんのだよ。

我々はこれから、暴食の王を迎えねばならんのでな」


「暴食の王? ヘルプ機能」


『検索をします。結果が出ました。黒貴族アマイモン。かつてアスモデウスは彼の部下でした。現存する黒貴族の中でもその肉体的能力は頂点に位置します』


 マジか。

 とんでもない奴がやって来る、という事だ。

 アンドロマリウスは、そいつをラスヴェールに迎え入れようとしている。


「へえ、黒貴族の中にも序列があるってこと?」


 エノアが問うと、アンドロマリウスが頷いた。


「無論。黒貴族とは、元は私と変わらぬ悪魔であった存在だ。

だが、その中でも最も魔王に近い力を持つベルゼブブが当主ルシフェルの名代を名乗り、彼に賛同する悪魔を集めて黒貴族を結成した。

黒貴族とは、世界の管理を受け持つ悪魔の名称に過ぎない」


 世界の管理。

 確か、アスタロトの奴もそんな事を言っていたな。


「だが、悪魔にも力の差があるという事だ。

アスタロトは管理能力に長け、アスモデウスは武人……というように」


「なんで私達にそんな事教えるんですか」


 セシリアは悪魔の言うことを、不信げな顔で聞いている。

  

「確かに。俺達に色々親切に教えてくれるとか、お前何のつもりだ?」


 親切にしてくれるのはいいんだけど、相手が悪魔だもんな。

 絶対に下心があるに決まっている。

 アンドロマリウスは笑った。


「君達の命も、暴食の王が来るまでしか持たないという意味だよ。

これは言わば、死出の土産というやつだ。

おっと、手出しはやめてくれたまえ。

私に攻撃するということは、ラスヴェールに来た罪もない人間達を巻き込むということに他ならない」


 その瞬間、アンドロマリウスの足元から伸びる影が、ぐにゃりとうねった。

 あれは、蛇のシルエットだ。


「私単体では、英雄姫一人と勝負はできても、アスタロトを葬った勇者とやらには抗えそうも無いのでね。

存分に卑怯と(そし)りたまえ。私には何の痛痒も無いからね。

何せ、私は悪魔だ!」


 うわあ、こいつ性格悪いというか露悪趣味というか。

 アスタロトとはまた、別方向で嫌なやつだ。

 結局俺達は、アンドロマリウスに手出しすることは無かった。

 闘技場の人間を人質にされたというのもある。

 マナが一緒にいたということもある。

 だが、俺がこいつに手を出さなかったのは、もっと別の理由があった。


 ラスヴェールは、ずっと享楽都市として存在し続けてきた。

 これを悪魔が運営してきたのならば、こいつらには人間に対する害意が本当にあるのか、という疑問が生まれたのだ。

 ラスヴェールで有り金を失った者は、追い出され、あるいは闘技場でモンスターと戦う駒にされる。

 だけど裏を返せば、一文無しにならないようにさえしていれば、この都市で遊び、無事に帰ることができるということだ。


 そんな事をして、悪魔に何の得がある?

 もしかして、本当に悪魔は、世界を管理しているのか?

 俺の胸の中を、疑問がぐるぐると渦巻いた。


「ああ、もう!! 悔しい! 悔しいですカイル様!! 目の前に悪魔がいるのに手出しができないなんて!!」


「うわーっ、セシリア、いきなり引っ張らないでくれえ!」


 俺の思考は、セシリアに袖を思いっきり引っ張られて中断した。

 ここは闘技場の出口。

 エノアとマナを連れ、俺達は一時撤退したのだった。


「アンドロマリウスって悪魔、うちらが知ってる悪魔とはちょっと違うね。

凄く人間臭くて、しかもあからさまに卑怯な手を使って保身に走ってくる。

これ、対策を考えないとダメだよ」


 いつも陽気なエノアが、今日は真面目だ。

 マナは、今日一日で色々なことがあり過ぎて、すっかり目を回している。


「うっ、おれ、びっくりし過ぎて気持ち悪い……。宿行こう、宿。おれも泊めてもらえるとうれしんだけど……」


「もちろんです。女の子を外に放り出したりなんてしませんからね!」


 セシリアがマナをギュッと抱きしめる。


「でかい……!」


 マナ、何がでかいんだ?

 いや、言わなくても分かる。

 とにかく、宿を取って作戦会議をしなければな。


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