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034 遭遇、ダンタリオン

「悪魔!?」


「悪魔だって!?」


 身構える、セシリアとエノア。

 二人の英雄姫を前にする経験をした悪魔なんているはずがない。

 だが、悪魔ダンタリオンはどこか余裕だった。


「やあやあ、これは驚いた……! 黒貴族に連続で欠番が出たとは聞いていたが、なるほど、どうやら規格外のことが“ガーデン”に起こっているようだ」


「余裕なのは妖しいな。だが……」


 鑑定アプリでダンタリオンを捉える。


『悪魔ダンタリオン』


 間違いはない。

 それに、感じる気配は黒貴族アスタロトに比べれば大したことはない。

 ……とは言っても、人間の戦士なんかとは全然次元の違う強さのように思えるが。


「困るのだよね。温泉都市ゴーラムには、古くからの規律というものがある。新しいものが加わるような余裕はとても無いのだよ。

そこに、突然おかしな力が働いて、パワーバランスが崩れたから私が出てきたのだ」


「まるで温泉都市の管理人みたいなことを言うな」


「まるで、ではない。私はこの都市を管理しているのだ。私だけではないぞ?

数多くの悪魔が人の世に入り込み、彼等を管理している」


「カイル様」


 セシリアは、ダンタリオンの言葉を聞く気が無い。

 悪魔と戦うために生まれたような英雄姫なのだ。

 眼の前に悪魔がいて、槍を振るわない方が不自然というもの。


「行きます」


 俺にそれだけ告げて、セシリアが仕掛けた。

 銀の槍が恐ろしい速度で突き出される。


「乱暴な……!!」


 これを、ダンタリオンは高く跳び上がることで回避した。 

 屋根に着地する音がする。


「追います!!」


「ちょっと待て、セシリア!」


 待ってはくれない。


「一人だと心配だ。エノア、ついててくれるか?」


「もちろん! セシリアちゃんのことは任せて!」


 エノアは頷くと、壁を蹴り、対面の壁をまた蹴っては屋根上へと跳んでいった。

 セシリアはひとっ飛びだ。

 人間の跳躍力じゃないな。

 俺はと言うと……。


「ハルート!!」


 さっき知り合った店主の名前を叫びながら、路地を走る。

 すると、そこでは崩した衣装の男達と、兵士が揉み合っているではないか。

 そして、彼等の前に倒れているのは……ハルートだ。


「おい、大丈夫か!」


 助け起こすと、ハルートは「ううう」とうめいた。

 良かった、息はあるみたいだな。

 

「どうした?」


「うう……表の世話役どもがやって来て……」


 世話役?

 ダンタリオンのことか。

 そして、あの崩した服装の連中がその使いってことか。


「うわああっ」


「こいつら強いぞっ!」


「へへ、だから言っただろう。世話役が、ここに店を出しちゃいかんって言ってるんだよ」


「俺らの言葉は、世話役の言葉だ。こんな店が、表通りよりも繁盛してちゃ、面子が立たねえだろう」


 俺は咄嗟に、奴らの姿をスマホで映し出した。


「おいおい……」


『悪魔の兵士。名前のある悪魔に仕える、悪魔の雑兵です』


 兵士達はハルートを守ろうとしたようだが、悪魔の兵士には勝てなかったらしい。

 みんな地面に打ち倒されている。

 死んではいないようだな。


「その世話役ってのがどれだけ偉いが知らないが……言ってることがおかしいだろ」


 俺はスマホを握りしめて立ち上がった。


「はあ? なんだ、お前は」


「世話役に逆らうつもりか? 旅人でも容赦はせんぞ?」


 男達は俺に迫ってくる。


「俺か。俺はな、勇者カイルって呼ばれてる」


 その言葉を聞くと、悪魔兵士達の動きがピタリと止まった。


「勇者」


「ゆうしゃ、ユウシャ」


 奴らの声が不自然な響きを帯びて、ユウシャの名を呼ぶ。


「そうだ。お前たち悪魔の大将であるアスタロトは、俺が倒したぞ」


「ユウシャカイル……!!」


 悪魔兵士達が本性を現す。

 それは、捻じくれた角を生やした深緑色の肌の巨人だ。

 背中からはコウモリのような羽根を生やして、足は山羊に似たものになる。


「ギギィッ!!」


 理性など感じさせない叫びをあげて、奴らが襲いかかってきた。

 俺は、スマホから光の刃を伸ばす。


「エノアを仲間にして、上がったスペックをお前らで試してやるぜ!!」


 繰り出された悪魔兵士の爪を、剣で受け流す。

 何人もいる敵だが、動きが全然遅く見える。

 簡単に回避できるぞ。

 俺は悪魔兵士の内に入りこみ、剣を振った。

 ザシュッと音がして、悪魔兵士の体が大きく切り裂かれる。


「ギィッ!!」


 他の悪魔兵士が回り込んでくる。


「ヘルプ機能! 攻撃と魔法詠唱の読み上げ、同時にいけるか?」


『可能です。魔法の詠唱を開始します。魔法の選択をどうぞ』


「氷の……いや、炎の投擲槍(フレイムジャベリン)!!」


『詠唱を開始します』


 スマホが呪文を唱え始める。

 その間も、俺は悪魔兵士の攻撃をさばき、剣で奴らを切り裂く。

 そして、後ろに回り込んだ悪魔兵士が攻撃を仕掛けてきた時、魔法の詠唱が完了した。


炎の投擲槍(フレイムジャベリン)


 声が発せられると同時に、背後の悪魔兵士目掛け、炎でできた長い槍が突き刺さった。

 槍は激しく燃え上がり、悪魔兵士を焼き尽くしていく。



「ギッ!?」


 敵には、まるで俺が呪文の詠唱もなしに魔法を使ったように見えていたことだろう。

 呪文の自動読み上げと、剣スキルの同時行使が可能になった俺に、隙などないのだ。


「続いて、氷の投擲槍!」


『詠唱を開始します』


 俺は、残る悪魔兵士に向かって飛び込んでいく……!

 

「す……凄い」


 壁に寄りかかったハルートが、呆然としながら呟いた。

 既に、悪魔兵士は俺に全て打ち倒されていた。


「まあね。全部このスマホのお陰だけど……! あと、よく分からないけど怖くないんだよね、こいつら」


「そうなのか……!? まるで君の動きは、歴戦の戦士のような……」


 兵士達の目も、俺を見ている。

 彼等は、悪魔兵士達が変身した姿を見て驚き、そして俺が奴らを打ち倒した事に衝撃を受けたようだ。


「勇者……!」


「伝説で聞いたことがある……! 英雄姫が呼び出すという、特別な存在だとか」


「それなら、あの強さもうなずける……!!」


 英雄姫。

 そうだ。

 彼女達は、ダンタリオンを追っていった。

 ハルートの無事は確認できたわけだから、俺がやることは一つだ。


「みんな、動けるならハルートを頼む!」


「あんたはどこに行くんだ!?」


「世話役とやらを追うのさ。あいつは悪魔なんだ!」


 俺はそれだけ告げて、建物の屋根に上る道を探すことにした。


「中に入って、階段を使わせてもらって、そこから窓を伝うか?」


飛翔魔法(フライト)の使用をおすすめします』


「そんなのあるのか! よし、表示!」


 飛翔魔法の呪文が画面に表示されている。

 これを、俺は高速でフリック入力していく。


「詠唱完了!」


 すると、俺の体がふわりと舞い上がった。


「うおっ! なんだ、なんだこれ」


『ジャイロアプリと併用し、制御して下さい』


「使うの難しそうな魔法だな!」


 だけど、これなら屋根の上まで簡単に上がれる。

 待っていろよ、セシリア、エノア。

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