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020 黒貴族

 崩れ落ちた迷宮の下。 

 闇の中。

 スマホが、どこからかの電波を受信した。

 画面が明るくなり、その中に見たことのない子供が映し出される。


『やあ、おめでとう。まさか黒貴族を二柱まで倒す勇者が現れるとは、君は何から何まで規格外だ』


 彼はそう言うと、手を叩いてみせた。

 セシリアによく似た銀髪と、同じ金色の瞳を持った子供だ。


『僕かい? 僕の名は、“蝿の王”ベルゼブブ。

“遊戯の王”と呼ぶ者もいるね。

全ての黒貴族を統括する立場を担っている。

今回は、君に一つ挨拶をと思ってね』


 ベルゼブブを名乗った子供が、指を鳴らす。

 すると、画面がスッと後ろに下がっていった。

 そして、ベルゼブブが大きなテーブルについており、彼の周りに五つの影がある事が分かる。


『紹介しよう。

ペイモン、マゴト、アリトン、オリエンス、アマイモン。

これが残る六柱の黒貴族だ。君が倒すべき相手とも言えるね』


 五つの影の姿は、モザイクが掛かったようになっていて、よく見えない。


『勇者カイル。

最後の英雄姫セシリアが君を呼び寄せたことには、何か大きな意味があるのかも知れない。

やがて君が僕のもとに辿り着いた時、僕は世界の真実を明かそう。

その日を楽しみにしているよ』


 ベルゼブブは笑顔を見せ、こちらに向かって手を振った。

 そして、画面がどんどんと遠ざかっていく。

 そこは真っ白な空間で、やがて遠すぎて何も見えなくなり、画面は白に染まった。






 ……というところで、俺は目を覚ました。

 なんだろう。

 夢……にしては、鮮明に語られた言葉を覚えている。

 ベルゼブブという黒貴族と、他五柱の影。


「向こうからの宣戦布告……だよな、あれは」


 そこまで呟いて、今自分がどういう体勢にあるのか気付いた。

 俺は横たわり、何かの上に乗っかっている。

 それは柔らかくて、ゆっくりと上下するものだった。

 ……あれ?

 これってもしかして。


「やあ、目覚めたみたいだね? 

さすがに男の子一人乗せてるのは重いから、どいてくれると、うちはありがたいなあ」


「うち……?」


 体を持ち上げてみると、俺の下に赤い衣服に包まれた身体がある。

 その上には……。

 赤毛に褐色の肌をした少女が、緑色の瞳を細めて困ったように笑っていた。


「う、うわあーっ!? ごめ、ごめん!」


 俺は慌てて飛び起きた。

 少女から離れようとして立ち上がりかけ、頭を天井にぶつける。


「いてっ! 天井低い!?」


 そして後ろへ尻もちをついた。


「むぎゅう」


 あっ、尻の下に何か敷いたぞ。

 これって恐らく……。

 目線を向けてみると、そこにいたのは、セシリアだった。

 うつ伏せになって倒れていた上に、俺が尻もちをついてしまったらしい。


「うわあっ、大丈夫かセシリア! あと、君も上に乗っかってしまってごめん!」


 セシリアを抱き起こしながら、自分が乗ってしまった少女に謝る。


「いやいや。うちも今実体化したところだし。

まさか君の真下に出てくるとは思わなかったけどー。

へえ、その子が当代の英雄姫なんだ? 

銀色の髪がさらさらで、きれーな子じゃん」


 彼女は、低くなった天井に頭をぶつけないよう、四つん這いでこっちにやってくる。

 背中には、一本の三つ編みに結っている髪が揺れていた。


「そうか、君が英雄姫エノアか!」


 ここでようやく、頭が働き始めた俺。

 眼の前の彼女が何者なのかを理解した。


「その通り。

いやあ、完全に死んだかと思ってたけど、助かっちゃった。

おまけに体まで用意してもらって、うち、感謝感激だよー」


 目と鼻の先までやって来た彼女は、ニコニコと微笑んだ。

 そして、気絶してるらしいセシリアを、ぺたぺたと触り始める。


「今ね、迷宮が崩れて、その下にうちらはいるんだ。

幸い、君が作った魔法の壁みたいなものがあって、これで崩れた構造を食い止めてる。

その魔法の板、凄いねえ。

魔法の壁を張って、さらにうちに肉体を与えて、それにさっき、どこか遠いところと繋がっていたでしょ」


 魔法の板……。

 スマホのことだろう。

 そして、どこか遠いところとエノアは言った。なら、やっぱりさっき見た夢は、現実だったのだ。

 それに、彼女に肉体を与えたというのは、俺がエノアと契約したからできたのだろう。


「ま、脱出はうちに任せて。

体を得たからなんだって出来るもん。

いやあ、でも、今の英雄姫っていい体してるんだねえ。

絶対着痩せするタイプでしょこの娘」


 セシリアが気を失っているのをいい事に、触りまくるエノア。


「いや、知らないが」


「ええ、本当にぃ? 

ま、うちが召喚した勇者は女の子だったし、男の子の勇者と旅した経験は無いんだけどねー。

でも、本当に何もしてないの? 本当にぃ?」


「本当だって!」


 俺が必死になって否定していたら、腕の中のセシリアがもぞもぞ動き出した。


「むー」


 まぶたがぴくぴく痙攣した。

 そして、うっすらと目が開く。


「カイル様……」


「ああ、俺だよ」


「良かった、ご無事で……。それで、アスタロトは……?」


「安心してくれ。やっつけることができたよ」


 セシリアの表情が柔らかくなった。

 笑ったのだ。


「良かった……」


「にくいねえ、その信頼関係。当代の勇者と英雄姫はラブラブなんじゃん」


 ここで、いらぬ突っ込みをしてくる二百年前の英雄姫エノア。

 セシリアの目が、くわっと見開かれた。

 うわあっ。


「誰!? 誰ですか今の!? えっ、ここにもう一人いるんですか!?」


 跳ね起きた彼女の目が、至近距離で覗き込んできていたエノアと合う。

 そこで、セシリアは固まった。


「やほー」


 ひらひらと手を振るエノア。

 笑うと、唇の隙間から八重歯が見える。


「英雄姫エノアだ。俺のスマホの力で復活したらしい」


「そうそう。よろしくね、当代の英雄姫ちゃん」


「復活……? うそ、本当に、二百年前の英雄姫が……?」


 セシリアはガバっと体を起こすと、エノアに向かって手のひらを突き出した。

 何やら、指先をわきわきと動かしている。


「え? あ、あの、英雄姫ちゃん?」


「セシリアです。あ、本当に復活してますね。お肌ももちもちしてて、暖かいです。意外と小柄なんですねえ」


「あっ、どこ触ってるのセシリアちゃん!? そ、そこはうち弱いので! うわ、うわあー」


 うわーって言いたいのは俺だよ!!

 いきなり目の前で、女の子同志がぺたぺた触り合ってる光景は、刺激が強いったらない。

 というかセシリア、手付きが際どい!

 顔から肩、胸、お腹、お尻と、エノアの全身を撫で回している。

 当のセシリアは真剣そのものの表情なんだが、エノアはもう、くすぐったいやら、際どいところを触られるやらで目を白黒させている。


 こうして見ると、セシリアのほうが全体的に大柄なんだな。

 俺とそう、背丈が変わらないセシリア。

 女の子としては長身なのかもしれない。

 それに、着痩せしている……?

 さっきは知らないと言ったが、あれは嘘だ。

 この間、セシリアが水浴びしている時、ちょっとだけ見えた。

 凄い。


「ああ、もうほらセシリアちゃん!! 

勇者のカイルくんがこっち見てる! 

男の子の前でそんな大胆なことしていいのかなあ」


「はっ」


 エノア、決死の反撃で、セシリアは我に返ったようだった。

 ちらりと俺を見て、ぱっと顔を伏せる。

 だけど、髪の隙間から見える彼女の耳は、真っ赤になっていた。


「す……済みません……! 

私ったら、すっかり我を失っちゃって……。

だって、英雄姫がもう一人いるんですよ? 

これって凄いことなんです」


「そうだねえ。

一つの時代に一人しかいられないはずの英雄姫が、うちとセシリアちゃんで二人。

もしかしたら、カイルくんの力があれば、三人目、四人目も復活するかもしれない。

それだけいたら、現実的になるんじゃない?」


「現実的って、何がさ」


 俺が問うと、二人の英雄姫はニッコリ笑った。

 彼女達は、生きた時代も生まれた国も違う。

 なのにピッタリと声を合わせて答えたのだ。


「黒貴族を全部やっつけるの」


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