018 地下迷宮の戦い
『詠唱を短縮。炎の矢、弾幕、方角』
アスタロトが俺達を指差す。
それと同時に、奴の周りに無数の輝きが生まれた。
あれは、炎の矢だ。
ディアスポラで宮廷魔術師が見せた魔法のはずだが……空間を埋め尽くすほどの量が展開し、全てが俺達を狙っている。
「まずいっ!」
俺は全力で、理力の壁を展開する。
アスモデウスとの戦い以来、魔法はスマホにインストールされている。
だから、俺が呪文をフリック入力するだけで発動する。
前よりも、少し呪文が簡単になっているような……。
発動した理力の壁が、降り注ぐ炎の矢を受け止めた。
とんでもない量の攻撃魔法だ。
炸裂する炎の矢で、何も見えないぞ……!
「これは……身動きが取れません……!」
セシリアが焦りの色を見せる。
彼女の言う通り、攻撃を受けるばかりでは身動きが取れない。
ここは、アスモデウスを倒したあの大魔法を発動して……。
ダメだ。
上にはディアスポラがある。
あの魔法じゃ、国ごと巻き込んでしまう。
「何か対抗する方法は無いのか!?
何か、何か……」
「こんなたくさんの魔法、同じくらいの魔法をぶつけて打ち消すしか!
カイル様、魔法を一度にたくさん出せないんですか?
同じ魔法を幾つも用意できたら……」
「いや、そんな都合良くはいかないよ。
表示できるのは一つの魔法だけだし、それをフリック入力……待てよ。
ヘルプ機能!」
『ご質問をどうぞ』
「この魔法、入力せずに音声に読み上げさせることは出来るか?」
『可能です。そして、威力は落ちますが発動させることも可能です』
「じゃあ、呪文を読み上げと同時にコピー&ペーストして、連続して読み上げを行うことは」
『可能です。メモリの続く限り』
「よし!」
戦う術が見えた。
俺は即座に、氷の投擲槍の呪文を表示する。
「読み上げを!」
『“勇者カイルが世界の理に命ずる。月の裏側より凍てつく輝きを集め、槍と成さん。これを虚空より呼ぶ斥力にて放ち、我が前に立つ愚か者へと打ち付けん。顕現せよ、氷の投擲槍”』
こういう内容の呪文だったのか。
とんでもなく傲岸な呪文の内容だ。
世界の主に願うのではなく、世界そのものに命じて、しかも世界の外にある現象を呼び込んで顕現させる。
俺が使う魔法は、どうやら普通の魔法とは大本から違う代物のようだ。
「これを、コピーペースト! 読み上げろ!」
俺は次々に、画面上に生まれる魔法をコピーし、新たなテキストエディタを展開、そこにペーストしていく。
スマホが呪文を読み上げる声が多重になり、輪唱のようになる。
そして詠唱が終了したものから、理力の壁の外に出現を始めた。
それは、炎の矢に倍する規模を持つ魔法、氷の投擲槍だ。
次々に放たれる氷の槍が、炎の矢と衝突を始める。
『何っ、人間が、連続詠唱を行使するとは……!?』
「理力の壁が崩れます!」
「ああ、だったらこいつも連続詠唱だ!!」
氷の投擲槍を一休みし、理力の壁を多重に発生させる。
幸い、アスタロトの炎の矢は大半が消滅していた。
そのアスタロトは、バルトロマイの壁によって、抜けてきた魔法を防いでいるようだ。
奴は凄い目つきでこちらを見ている。
黒貴族の指先が、光り輝いた。
『詠唱を短縮。滅びの炎。灼熱の死。毒の瘴気。核撃』
おい、おいおいおい……!!
言葉を聞くだけで、どういう魔法なのかが理解できる。
これは、俺がアスモデウスを屠ったあれと同じ系統の魔法だ。
敵も使えるのか!?
アスタロトの指先から、まばゆい輝きが解き放たれる。
それはゆっくりと空を進むと、俺達とアスタロトの中間で、ぽとりと地面に落ちた。
「あれ……」
セシリアが呟いた時だ。
輝きは、炎に変わった。
無音の大爆発が、広大な空間に吹き荒れる。
多重に理力の壁を張っておいて良かった……!
これ、一枚や二枚ならぶち割られて、今頃俺達は死んでいた。
「ああ……あああああっ!!」
凄まじい衝撃に、セシリアが叫ぶ。
「これは、これは……カイル様の魔法と……!」
「そうだ。だけど、俺が使えるような魔法なら、解析できるはず」
鑑定アプリで爆発を分析する。
『核撃。全ての攻撃魔法の頂点に立つ魔法の一つ。衝撃波と炎、そして後に放たれる瘴気が敵対する相手を粉砕する』
「オーケー。正攻法では攻略できないって事だな。なら、裏技で行く」
俺はペーストした理力の壁を、外側に展開してみた。
よし、爆発の中でも、壁を作れるんだな。
いける、いけるぞ。
「理力の壁解除。進むぞ、セシリア」
「は、はい!?」
新たに外縁に生まれた壁の中を、俺とセシリアが進む。
さらに外側に理力の壁を作り、その中を突き進んでいく。
『妙な手を使う』
核撃の炎が弱くなっていく。
姿が見えたアスタロトが顔をしかめた。
「理力の壁で防げるんだから、こいつを盾にして接近するのが賢いだろ」
『寄れば勝てると思ったのか? 私を魔法だけの悪魔だと?』
「こっちだって、剣と槍の二人がかりだ」
『馬鹿げている』
核撃は終わった。
周囲に漂う瘴気は……。
『アンチウィルスによって瘴気をシャットアウトします』
ヘルプ機能が俺に伝えた。
「セシリアにも効果を同調させて」
『既に』
ということで、最初からインストールされているセキュリティアプリによって防ぐ。
理力の壁は消えた。
そして、目と鼻の先に奴がいる。
未だ、バルトロマイの壁を展開し続ける、黒貴族アスタロト。
「セシリア、まず、この壁を攻略するぞ。そして、魔法を使わせずに勝つ!」
「はい! やりましょう!」
さあ、第二ラウンドだ。




