10 作戦会議
リリアーヌさんを護ると格好良く引き受けたのはいいものの、実際、計画を進めようとなると問題は山積みだった。
どうやって敵をスマホの中へ誘い込むか?
どんなアプリを用意すれば敵と渡り合えるか?
その上で、実際にリリアーヌさんは敵とどのように戦えばいいのか?
……
オデロンの軍勢のがこちらの世界にやってくるのが明日の朝。圧倒的に時間が足りない。
それでも進めなければと、リリアーヌさんやドロテと一緒に作戦を考え始めたが、妙案は全く浮かんでこなかった。
いや、アイデア自体はいくつも浮かんでくるのだけど、妥当かつ時間内に実現できる案が見つからないのだ。
「カケルが一振りで百人の敵を吹き飛ばす伝説の聖剣を生み出して、あたしが敵をバッサバッサと切り倒せば良いんじゃないかしら?」
「格闘系のゲームって作ったことがないんだよね。作り方を調べるだけで朝を迎えそうだよ。って、そもそもリリアーヌさん、剣が扱えるの?」
「ではこのようなものはどうでしょう。目には目を。私奴どもも大量の兵士をアプリとやらで生み出して、戦わせる、というのは?」
「戦術系ゲームか。NPCのAIって結構難しいんだよね。すぐにまともな動作をする兵士を作れる気がしないない。とか言って全てのキャラクターをマニュアル操作なんてそれも不可能だし……」
「じゃあ、こんなのはどう? 毒入り料理を用意して、相手に食べさせるの」
「それなら料理アプリを改造すれば作れそうだけど。……でもどうやって敵にその料理を食べさせるの?」
「ちょっとカケル、さっきから否定してばっかりじゃない。これじゃあ間に合わないわよ」
「わかってるよ。でも実現性と妥当性のあるものじゃないと、勝てないでしょ」
「それはそうだけど……」考え過ぎて知恵熱でも出したのか、リリアーヌさんは両手で頭を抱えた。「やっぱりあたしたちだけじゃ、無理なのかな……」
「そ、そんなことないよ。考え続ければきっといい考えが浮かぶはず……」
リリアーヌさんもドロテも視線を下に向けたまま、何も答えなかった。
ベッドの脇にある目覚まし時計を見る。時刻はもう午後の十一時を過ぎていた。時間がない。しかし焦れば焦るほど、アイデアは先細っていく。
いっそのこと、良い考えが思いつくまでは逃げるというのも手だ。しかしさっきの様子ではリリアーヌさんはそれを承諾しないだろう。絶対に今この場で街の被害を避け、かつ、敵と戦いリリアーヌさんを護る計画を考えつかなければならない。
「もしあいつらだったら……」
ふと、部活メンバーたちの顔が浮かんだ。
彼らは、僕よりもずっとゲームやスマホに詳しい。相談すればいいアイデアが出てくるんじゃないだろうか?
でも、他の人たちを巻き込むのは危険だ。それはリリアーヌさんも望んでいること。
――それに……。
スマホ画面には難しい顔を浮かべるリリアーヌさんとドロテの姿があった。二人ともじっと考えているようで一言も言葉を発しない。
よく見ると、さっきよりリリアーヌさんの顔色が青い。唇も微かにプルプルと震えている。さっきはあんなに勇ましいことを言っていたのに、やっぱり怖いのだ。
どんな手を使ってでも、リリアーヌさんを助けてあげたい。……強くそう思う。
彼女を人と合わせるのは、やはり抵抗がある。
でも、彼女自身が危険にさらされ、ましては消えてしまったら、意味がないではないか?
ようやく僕は意を決すると、PCに向かい、部活メンバーにチャット申請を送った。
『おいおい、そりゃ何の設定だ?』
チャットルームに集まってくれた部活のメンバーに対して、僕は今置かれている状況を洗いざらい話した。それに対するソンジュンの反応がこれだ。
『つまり、翔の話を総合すると、超常的な力でスマホの中に閉じ込められたお姫様と暮らしてたって事でしょ。それはさすがにちょっと……』
幸司も似たような反応だった。
そして、結城さんのお姫様アバターも口を開いた。
『先輩……、この前わたしにドレスの3Dデータが欲しいって言った理由は、もしかして、リリアーヌって子に着せてあげるために?』
『うん。更にその前、ゲームのアートブックを借りたのは、付録に付いてた3Dデータを使って、彼女の部屋をスマホの中に作ってあげるためだったんだ』
『じゃあ翔。昨日のチャットルームで俺が見た、お前のアカウントを使ったアバターっていうのは、もしかして?』
『彼女がリリアーヌさんだよ。外からはVRアバターに見えるみたいなんだ』
『はあ……なるほど……』
幸司の狐アバターは腕を組んで、足をトントンと踏み鳴らしていた。
『やっぱり、信じてもらえないかな?』
『信じる、信じないって訊かれてもな……』
三体のアバターは交互に目配せする。
予想できた反応だ。僕だって、他人からこんな話を聞かされても信じないだろう。だから、ずっと話すのを躊躇っていたんだ。
やはり彼らに協力を仰ぐのは無理か……そう思った矢先、ソンジュンのロボットアバターが答えた。
『……ただ、お前が困ってるって事だけはわかる』
『えっ?』
僕は、ロボットアバターを見返した。
『正直、今の時点で翔が真実を言ってるのか、ただの中二病患者の妄言なのか判断つかねえけど、お前が本当に困ってて、俺たちに相談に来たんだって事だけは事実だ。だから真偽に関わらず、俺は翔を手伝ってやってもいい』
『俺だって』狐アバターも言った。『いつもお世話になってる部長殿に、たまには恩を返しておかなくちゃ』
『わたしも』お姫様アバターも頷いた。
――部長の仕事頑張ってて良かった!
――ソンジュン、幸司、結城さんと知り合えて本当に良かった!
目頭が熱くなるのをぐっと堪え、僕はお礼を言った。
『皆……、ありがとう』
『俺たちはまだ、礼を言われることを何もやってないぞ』
『でも、僕は……』
『やめろ、恥ずかしい』ロボットアバターはさっと目を逸らした。『でも、翔の話を聞く限り、随分混み入ってるみたいだから、直接会った方が良さそうだな。その、不思議なスマホってのも見てみたいし』
ソンジュンの提案で、皆で学校近くにあるファミレスに集まることになった。そこが一番、皆が集合しやすい場所なのだ。
僕は何度もお礼を言ってVRチャットを終了させると、すぐさま着替え、スマホを持って部屋を出た。
すると、丁度寝間着姿の茜が部屋から出てくるところだった。
「茜、まだ起きてたのか?」
「もう寝るところ。でもその前に、喉が渇いたから、キッチンで水を一杯飲もうと思って。お兄ちゃんこそ、どうしたのその恰好?」
茜は、外出着の僕を胡乱な目つきで見た。
「あっ、ちょっと今から、コンビニへ行こうと思って」
それらしい理由を付けて話を切り上げようとしたが、茜は食らいついてきた。
「こんな時間に? どうして?」
「こ、小腹が空いたから、お菓子でも買ってこようと……」
「お菓子ならキッチンにいっぱいあるでしょ。わざわざこんな時間に買いに行かなくても」
いつもなら簡単に言いくるめることができる茜なのに、どうして今に限ってしつこく訊いてくるのだ?
しようがない、奥の手だ。僕は秘密事を打ち明けるかのように、低い声で囁いた。
「茜、男には時々抑えきれない欲求を発散させる必要があるんだ」
すると妹は呆れた表情を浮かべた。「何言ってるの。お兄ちゃんはいつもネットのお世話になっているんでしょ」
くっ……この手も駄目か。って、どうして茜はそんなことを知っているんだ! ……あっ、前に自分で暴露してた。
しかし今は、僕の秘蔵猫画像について妹と議論している時間はない。とうとう最後の手段を取ることにした。
「ごめん、茜。僕急ぐから」
茜の横を無理矢理通り過ぎようとしたが、それよりも速く妹は腕を突き出して、通せんぼしてきた。
「……茜、僕が何をしようと、僕の勝手だろ」
「お兄ちゃんの言う通りだよ。でも……」顔を上げた茜の目には涙が浮かんでいた。「家族に嘘はつかないで」
「茜……」僕は言葉を失った。
「お兄ちゃんと比べて、わたしは頭も悪くて、何も考えていないかもだけど、でもお兄ちゃんがわたしに隠し事してるくらいわかるんだから。お兄ちゃん、無茶なことしようとしてない?」
なんてことだろう。誰にも迷惑かけまいとしていたのに、逆にこれだけ周りに心配をかけていたなんて、考えもしなかった。
僕は大切な家族である茜に頭を下げる。
「茜、心配かけさせてごめん。でも大丈夫、今は僕を助けてくれる人が居るから」
「お兄ちゃん……」
僕は茜の腕に手を添えると、腕は力なく下がっていった。
無言で俯く妹の横を通り抜け、階段を一段降りたところで、僕は茜に向かって言った。
「僕は今から、一人の少女とこの街を護りに行ってくるから」
「あれ?」茜が慌てて振り返った。「彼女さんと駆け落ちするつもりじゃないの?」
僕は盛大に階段から転げ落ちそうになった。
ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー
意外にも深夜のファミレスは盛況だった。三秒に一度は大笑いする大学生らしき男女のグループ、一人晩酌する中年サラリーマン、無言で座り続けている母親と小学生くらいの子どもの二人組……。
そんな中、僕たちは店の隅のテーブルに集まっていた。
「皆さんお初にお目にかかります。モンドール王国の王女、リリアーヌ=モンドールです。以後、お見知りおきを」
と、礼儀正しく挨拶するリリアーヌさんの姿が映るスマホ画面に、ソンジュンたちの目は釘付けになっていた。
「あれ、皆さん、どうしました?」
呼吸も忘れて口を半開きにする部活メンバーを見て、リリアーヌさんは首を傾げた。
ようやく我に返り顔を上げた幸司が、僕にぐっと体を近づけてきた。
「おっ、おい翔。これ本当に、VRチャットのアバターじゃないのか?」
「どうして、VRチャットのアバターがスマホの待ち受け画面にいるの。それにネットをオフにしても、リリアーヌさんとは会話できるから」
「これは……、確かに……、驚いたな」ソンジュンは背もたれに体を預けた。「取り敢えず、翔。疑うようなこと言って悪かったな」
「気にしないで。僕も最初はそんな感じだったから。ソンジュンたちがここに来てくれただけで僕は十分嬉しいよ」
「あっ、そこの貴女」
リリアーヌさんの視線が結城さんに向けられた。結城さんの肩がびくりと震えた。
「……何?」
相手がスマホの中にいるとはいえ、やはり直接言葉を交わすのは苦手のようだ。結城さんの声は震えていた。
「貴女がユウキって子ね。このドレスを作ってくれたんでしょ」
「あっ、うん。……先輩に頼まれて」
結城さんが助けを求めるように僕へ視線を向けてきた。
「とても素敵なドレスをありがとう。あたしとても気に入ったわ」
結城さんの顔が一気に赤くなった。
「ど、どういたしまして。モンドールさん」
「リリアーヌでいいわ。カケルの友だちはあたしの友だちよ。気さくに話しかけてくれて構わない。ユウキというのはファーストネーム、それともファミリーネーム?」
「ファミリーネームです。ファーストネームは芽衣」
「そう、メイちゃんね。本当にありがとう。こんなドレスを着られて、あたしとっても幸せだわ」
「そう言ってくれると、わたしも嬉しい。リリアーヌちゃん」
結城さんはショッピングセンターのゴスロリショップで見せていたような笑顔を浮かべた。
「良かったら、ほかのドレスもあるんだけど。今度着てみない?」
「本当! 良いの!」
「これまでずっと、洋風のドレスばっかりだったんだけど、着物をアレンジした和洋折衷にも挑戦してみたの。リリアーヌちゃんならきっと似合いそう」
「それは楽しみだわ」
気づけばほんわかガールズトークが繰り広げられ、野郎三人はすっかり蚊帳の外だった。
そんな中、注文していたフライドポテトが届いた。本当はこんな時間に高校生が外を出歩いていたら補導の対象だろうが、店側は何も言ってこない。随分いい加減だが、今の僕らとしては大助かりだ。
「なあ、翔」フライドポテトに手を伸ばしながら、幸司が言った。「お前がお姫様の事をずっと黙っていたこと、何となくわかる気がするわ」
「こんなの、普通は信じないでしょ」
「それもあるけど……、あのお姫様、可愛いし、それに人の心を掴む何かを持ってるよ。お前今、胸がチクリと痛んでるだろ」
「……」
こんな短時間で、幸司は僕の気持ちを察したのだろうか?
「おい、そんな事より、今は考えなくちゃいけねえことがあるんじゃねえのか?」
ソンジュンの一言で、僕は一気に現実へ戻された。リリアーヌさんと結城さんも話をやめて、僕の方へ注意を向けてくる。
僕はコーラで喉を潤してから、話し始めた。
「それじゃあ、まずは話を整理しようか。明日の朝……もう時刻が零時を過ぎているから今日の朝だね、リリアーヌさんを追って、敵の軍隊がこっちの世界にやってくる」
「残り時間はあと、六時間といったところでしょうな」スマホの中のドロテが補足してくれた。
「敵の数は?」ソンジュンがドロテに訊いた。
「百ぐらいかと」
「大したことないんじゃない」
幸司の反応に、ドロテは厳しい口調で答えた。
「一人一人が百戦錬磨、凄腕の傭兵です。侮ってはなりません」
「敵の総大将のオデロンって奴もやってくるのか?」再びソンジュンからの質問。
「可能性は充分あるでしょう。他人に手柄を取られることを何よりも恐れる男ゆえ。それに信用できる部下が少ないのが奴の弱点の一つかと」
「要するに、この街を戦火から護り、その上お姫様の国を救うため、敵軍勢をこのスマホの中に閉じ込めて、敵大将を討ち取るってのが今回の目的だな? ……そう簡単にうまくいくのか?」
「だから君たちに力を借りたいってわけ。敵をうまく誘導しつつ、リリアーヌさんの安全を確保しながら、オデロンを倒す方法。何か良い案ある?」
「ふっふっふっ」
幸司が突然不気味な笑い声を上げたものだから、幸司を除く全員が新喜劇よろしく一斉に仰け反った。
「幸司、眠くて頭がどうにかなっちまったか?」
と言うソンジュンに対して、幸司はチッチッチッと人差し指を振った。彼はこんなキャラだったか? と僕も首を捻らざるえなかった。
「俺の頭はいたってクリアさ。敵を手玉に取るゲームプランニングなら俺に任せてよ。テーブルトークRPGのリプレイ小説を熟読して鍛えたゲームメーキング力見せてやる」
「リプレイ小説なのかよ!」
ソンジュンがすかさず突っ込んだ。
「しようがないだろ、アナログゲームをプレイできる機会なんて、今はそんなに多くないんだから。でも大丈夫、常日頃から脳内シミュレートは欠かさないから。だから翔とソンジュンは敵と戦うためのアプリ開発に全力を尽くしてよ」
「本当に、大丈夫か……」
ソンジュンは訝しむ表情を崩さなかったが、僕は腹を決めた。
「わかった、全体の計画は幸司に任せるよ」
「よし、任せとけ、翔」
幸司は力強い握り拳を作ってみせた。
「翔がそれで良いっていうなら、俺は文句ねえよ」ソンジュンも同意してくれた。「じゃああとは、どんなアプリで敵をやっつけるか、だな?」
「さっきリリアーヌさんやドロテさんと議論したときは、格闘ゲームあるいは戦略ゲームみたいなもので戦えば良いんじゃないかって案は出たんだけど。こんな短時間じゃ、とても作れそうにはないよ」
「だろうな。すると既にあるアプリを改造するしかないな」
「少し前にリリアーヌさんに向けて料理アプリを作ったんだけど、それを改造して、毒入り料理を出すってのも考えたんだ。でも、それをどうやって敵に食べさせたらいいのかってところで詰まってた」
「そこが幸司の腕の見せ所だろ」
一斉に、我らがゲームマスターに視線を送ると、幸司は目を大きく開いて、手に持っていたフライドポテトをポトリと落とした。
「えっ、ええっと……それは随分、難しい要求だな。敵が用意した料理をほいほいと食べるような間抜けはさすがに来ないだろ。もっと巧妙な罠を張らないと」
「罠か……そうだ」ソンジュンは素早い動きで、僕を見た。「翔がちょっと前に作ってた『魔界迷宮』。あれを改造したらどうだ?」
「『魔界迷宮』を? どういうこと」
「あれは、様々な罠をうまく避けて、迷宮の深部へたどり着くってゲームだろ。今回は敵の軍勢をプレイヤーに見立てて、奴らを迷宮に誘い込むんだ。そこで連中を罠に嵌めて、倒していくって作戦だ。これならちょっとした改造で行けるだろう」
「ああっ、なるほど!」
青天の霹靂だった。これなら短期間で完成させらそうだし、しかも敵を倒すという目的を、毒入り料理のように強引な方法でなく、スマートに解決できそうだ。
「ちょっと待って」リリアーヌさんが割り込んできた。「『魔界迷宮』って、あの、アスレチック施設みたいなやつのことでしょ。あたしも運動するためにやってみたけど、簡単過ぎない? あんなの充分鍛えた兵士なら簡単に乗り越えてきちゃうわよ」
「翔の作るゲームはいつも簡単すぎるんだ。本人の性格のせいなんだろうな」
「……」
返す言葉もない。
ソンジュンは続けて言った。「だから大幅な難易度調整は必要だ。コース設計は俺がやるよ。熟達のゲーマーでも匙を投げたくなるような難易度にしてやる」
なんと頼もしい言葉だろう。
こんな短期間であっさりと妙案がでて、次々に内容が固まっていく。彼らに相談して本当に良かったと思う。
「私奴からもよろしいですかな」ドロテも話に加わってきた。「ゲームアプリとやらに敵を誘い込み、罠にかけてオデロンたちを倒す、というのはわかりました。しかし、どうやって、奴らを奥に誘い込むのですかな」
「そこはお姫様の出番だね」幸司が答えた。「敵の目的はお姫様だろ。だったらお姫様が自ら迷宮に入れば、連中も当然迷宮の奥へ向かうはずさ」
「では姫様も、そのような危険な場所へ行かねばならない、ということですか!」
「……そうなるね」幸司は認めた。
「そんな事、ばあやは認めることはできません」ドロテは強く反対した。「もっと姫様が安全な方法を考えて下さい」
「ばあや、心配してくれて本当に嬉しいけど、危険は承知の上よ。体を張って奴らを罠に誘い込むのが、王女としてのあたしの役目よ」
「おいたわしや、姫様……」
ドロテが嗚咽を漏らす。
「でもドロテさんの言葉も一理あるよ」僕はソンジュンと幸司に向かって言った。「いくら敵を倒すためでも、リリアーヌさんが罠に嵌っちゃったら、本末転倒でしょ」
「もちろんそこはうまく調整するさ。担当は、俺が設計して、翔が実装だ。それで良いだろ」
時間的にこれ以上の妙案を考えている余裕はない。ならば、ソンジュンの設計力と、リリアーヌさんの運動神経を信じるしかない。
僕は頷いた。「わかった」
「わたしは何をしたらいい?」ずっと聞き役だった結城さんが声を上げた。「わたしもリリアーヌちゃんのために何かしたい」
「じゃあ、迷宮の3Dデータを作ってくれない? 僕が作ると時間がかかっちゃうけど、結城さんが作ってくれたら、僕はプログラミングに集中できるから」
「わかった、任せて」
これほど力強く頷く結城さんを、僕は見たことがなかった。
「皆、本当にありがとう。あたしのために。王女として、リリアーヌ個人としてお礼を言うわ」リリアーヌさんは頭を下げた。
「気にしないで、リリアーヌちゃん。困った時はお互い様だし」
「この街が戦火に包まれるのは、俺も避けたいからな」
「そうそう、それに、男は異性のために力を尽くしたくなる生き物なんだから」
結城さん、ソンジュン、幸司が頷く。
彼らの姿を見て、僕も、五里霧中の中から光明が見えてきた、と勇気が湧いてきた。
やることは決まった。あとは時間との戦いだ。




