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裏第二十一話 その三

『遼さんがよろしければ月末の花火大会ご一緒に行きませんか?』


 花火大会か。この街で毎年行われていて結構規模が大きい。多くの芸能人やアーティストがゲストで来てくれる。一成達も誘ってみんなで行こうかと返信。カップ麺のスープを飲み干し、容器をゴミ箱に捨てる。風呂に入って俺も寝よう。脱衣所で服を脱いでいると花からの返信が来た。


『その日詩織さん達は二人で行きたいそうなのです。

 あまり邪魔するのもいけないですし私達も二人で行きませんか?』


 その返信には少し戸惑った。風呂に入りながら考えよう。俺はスマホを置き風呂場に入った。


 シャワーで体に残った潮を洗い流しながら先ほどのメッセージのことを考える。


 花はずっと俺が忘れていた植物公園のあの子だ。何か約束をしたみたいだが覚えていない。花といると思い出せるかな?思い出したとき俺が花に対する気持ちはどうなるんだ?今まで通り、それもと何か変わる?どちらにせよ今のままではいけない気がする。


 今日の桜の件もあるの。桜は昔のことを覚えていた。そしておそらく俺に好意を寄せている。俺の気持ちはどうだ?花と桜の二人の少女。誰かを幸せにすると誰かが不幸になる。みんなを幸せにすることはできない。ホントにそうなのか?でも俺が前に踏み出さなければ。動き出さなければ何も変えることはできない。誰も幸せになれないバッドエンドはごめんだ。


 覚悟を決めた俺は風呂を出て花に返信した。


  『わかった。二人で行こう。』 ←(本編)

 >『すまない、桜と行くことになった』


 ―――――――――――――――――――――


 風呂から出た後は今日使ったものを洗濯することにした。桜のものはどうするか迷ったが下着とか俺に見られたくないものが入っていると思ったので触れていない。ホントは見たいよ。でも桜の信用を失いたくないからね。見るときは堂々と見る。コソコソするなんて男らしくない。


 洗濯物が乾燥まで終わったのでリビングに運びテレビを見ながらたたむ。最近のバラエティはおもしろくない。毎日ニュースは見るようにいているがあまりテレビ番組は見ない。アニメを見たりやラノベを読むほうが有意義だ。洗濯物をたたみ終わったタイミングであくびが出る。そろそろ寝るか。



 部屋に戻ると桜の寝息が聞こえた。まだ眠っているみたいだ。毛布が落ちていたので掛け直してあげる。今日はリビングのソファで寝るか。そう思い部屋から出ようと振り返ると抵抗を感じた。桜の小さな手が俺の服を掴んだのだ。


「初さん……」


 こいつ起きているのか?しばらく様子を窺うがそんな様子はない。ただの寝言か。だが手は離れない。このままでは寝ることができない。


「遼……」


 仕方ない、一緒に寝るしかないのか。


 起こさないようにベッドに入りできるだけ離れた位置で横になる。


 すると狙っていたかのように桜の目が開いた。遼が部屋に入ってきたときに起きていたのだ。


「うふふ、遼から添い寝してくれるなんてそんなに私のことがほしいのかしら」


「はぁ、やっぱり起きていたか」


 深いため息をつく。離れようとはするがベッドの上だ。そして後ろは壁、腕は掴まれ逃げようがない。


「起きたのはほんとに今さっきよ。遼が部屋に入ってきたとき」


「起こして悪かったな」


「遼と添い寝ができるなら構わないわ」


 こんなことを言う時はだいたい小悪魔になっているのだが、桜の表情は天使の笑顔そのものだった。


 桜のこの笑顔が大好きだ。いつまでもこの笑顔を見ていたい。桜とずっと一緒にいたい。


 そう思った次の瞬間には桜を抱きしめていた。小柄な桜が壊れるほどに強く、強く。


「りょ遼!?どうしたの!?」


「俺は桜が好きだ。花よりもずっと……。これからずっと桜の笑顔をを守ってやりたい」


「遼……」


 桜も受け入れてか強く抱きしめ返す。抱き合う二人。しばらく抱き合ったあと見つめあい、どちらからとも言えないキスを交わした。


 唇を離すと桜の目には涙が浮かんでいた。もしかしたら嫌だったのかと思ったがそれはうれし涙であった。


「私ね、ずっと遼のこと考えていたんだよ。だってファーストキスの相手じゃない」


「あぁ……」


「これって夢じゃないよね?」


「夢じゃないさ……」


 そうして再び唇を重ねる。


 この幸せがずっと続くといい。そう思いながら激しくキスを交わす。


「二人は何をやっているんですか?」


 その言葉の後に感じたのは口の中に広がる鉄の味。桜が血を吐いてそれが遼の口に入ったのだ。


 え?桜?一体どうしたんだ?


 顔を離すと桜が口から血を吐いて苦しそうにしている。そしてその後ろには何故か花が立っていた。


「無用心ですよ。玄関の鍵、空きっぱなしでしたので上がらせていただきました」


 花の表情は口元が三日月のように裂けるほど上がっていてその目は光を映していない虚ろそのものだった。


 そして花の手が何かを引いたと思ったら桜が口から血が零れだす。花の手には包丁、そして桜は胸を刺されて絶命寸前の状態。


「遼さーん、何で私の誘いを断るんですか?あ、桜がいるからですね?それでしたら桜を消せば私の誘いを受けますよね?もちろん受けますよね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?ね?」


「何をしているんだ、花……」


「んー遼さんにデートしてもらうために直接話しに来たのですが、予想外の展開に少し驚きました」


「そういう問題ではなく……」


「あ、それとも桜にやっていたこと私にもやってくれますか?私はいつでも歓迎ですよ♪なんならお望みとあらばそれ以上のことも……」


 このやり取りの間にすでに桜の息は途絶えていた。遼はそんな骸を抱いたまま花に視線を投げかける。


 怒りや憎しみの感情はなくただの疑問の眼差し。


 先ほどまで仲良くしていたのになぜこんなことになっているのか遼の頭では理解不能だった。


「今日はもう帰りますね。桜がいては二人でいちゃいちゃできないですもの。あ、桜はもういないから明日は私とデートしましょうね」


 花は笑顔でそう言って出て行く。遼は花を追うことができずにただ骸となった桜を抱きしめることしかできなかった。




 花はすぐに警察に捕まり連行された。その後は誰も知らない。


 大切な少女を失った遼は廃人と化し社会復帰できないほど心に深い傷を負ったのであった。

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