裏第二十一話
『遼さんがよろしければ月末の花火大会ご一緒に行きませんか?』
花火大会か。この街で毎年行われていて結構規模が大きい。多くの芸能人やアーティストがゲストで来てくれる。一成達も誘ってみんなで行こうかと返信。カップ麺のスープを飲み干し、容器をゴミ箱に捨てる。風呂に入って俺も寝よう。脱衣所で服を脱いでいると花からの返信が来た。
『その日詩織さん達は二人で行きたいそうなのです。
あまり邪魔するのもいけないですし私達も二人で行きませんか?』
その返信には少し戸惑った。風呂に入りながら考えよう。俺はスマホを置き風呂場に入った。
シャワーで体に残った潮を洗い流しながら先ほどのメッセージのことを考える。
花はずっと俺が忘れていた植物公園のあの子だ。何か約束をしたみたいだが覚えていない。花といると思い出せるかな?思い出したとき俺が花に対する気持ちはどうなるんだ?今まで通り、それもと何か変わる?どちらにせよ今のままではいけない気がする。
今日の桜の件もあるの。桜は昔のことを覚えていた。そしておそらく俺に好意を寄せている。俺の気持ちはどうだ?花と桜の二人の少女。誰かを幸せにすると誰かが不幸になる。みんなを幸せにすることはできない。ホントにそうなのか?でも俺が前に踏み出さなければ。動き出さなければ何も変えることはできない。誰も幸せになれないバッドエンドはごめんだ。
覚悟を決めた俺は風呂を出て花に返信した。
『わかった。二人で行こう。』 ←(本編)
>『すまない、桜と行くことになった』
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風呂から出た後は今日使ったものを洗濯することにした。桜のものはどうするか迷ったが下着とか俺に見られたくないものが入っていると思ったので触れていない。ホントは見たいよ。でも桜の信用を失いたくないからね。見るときは堂々と見る。コソコソするなんて男らしくない。
洗濯物が乾燥まで終わったのでリビングに運びテレビを見ながらたたむ。最近のバラエティはおもしろくない。毎日ニュースは見るようにいているがあまりテレビ番組は見ない。アニメを見たりやラノベを読むほうが有意義だ。洗濯物をたたみ終わったタイミングであくびが出る。そろそろ寝るか。
部屋に戻ると桜の寝息が聞こえた。まだ眠っているみたいだ。毛布が落ちていたので掛け直してあげる。今日はリビングのソファで寝るか。そう思い部屋から出ようと振り返ると抵抗を感じた。桜の小さな手が俺の服を掴んだのだ。
「初さん……」
こいつ起きているのか?しばらく様子を窺うがそんな様子はない。ただの寝言か。身じろぎをすると手が離れた。俺は目を覚まさないよう優しく頭を撫で扉へ向かった。
「ん~遼……」
扉を開けようとしたところでまた桜の寝言が聞こえた。仕方ない。布団をベッドの横に敷いて俺もここで寝ることにした。この前も何もなかったし大丈夫だ。そのまま横になり目を閉じる。
「おやすみ」
独り言のように呟き眠りに誘われそうになった時、家のインターホンがなった。
外はもう暗くなっているがまだ午後七時、誰かが用事で来てもおかしくない時間だ。
疲れて眠たい体を起こし玄関に向かう。先ほどからインターホンが連打されているようだ。ずっと鳴りっぱなしである。
少々うざったい気持ちになりながら玄関を開けるとどうやらお客様は花だったようだ。何か忘れ物でもしたのかな?
それにしても花の様子がおかしい。目が虚ろと言うかまるで死んでいるようだ。そしてその格好は雨が降っていないのにレインコートを着ている。
「どうしたの花?何か忘れも―――」
腹部に衝撃が走る。衝撃?そんなものではない。これは死の痛みだ。
花が何かを差し出しすように手を俺の腹部に出している。そこに目を向けると花が手にしているのは包丁、それが俺の腹部へ深々と刺さっている。
「あ、あぁぁぁ……」
片手で花の肩に掴まり、余った手で玄関の扉に掴まる。
どうして?なんで刺されている?目の前にいるのは花だよね?
そんな考えは知らぬと花はまるで機械のように表情を変えずに何度も腹部を刺してきた。
何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も。
二人の足元は血の海と化している。それでも花の手は止まらない。崩れ落ち膝を立てると今度は胸を何度も刺す。
そこにあるのは体中刺し傷だらけの遼の死体。その死体がついに地面に倒れる。にも関わらず花のてはまるでそこに遼がいるかのように刺す動きを止めない。
しばらくして気づいたのか手の動きが止まり、地面に横たわる遼を見下ろす。光が無い目で見つめた後、口が裂けるほどにやりと笑う
「悪いのは遼さんですよ。どうして私じゃなくて桜を選んだんですか?私が遼さんをこんなに愛しているのに」
「うふふ、さぁ遼さん、一緒にデートしましょう。さあ、立ち上がってください。こんなところで寝ていると風邪を引きますよ」
「あら、遼さん怪我をしているじゃないですか。私の部屋まで行きましょう。怪我の治療をしないといけないですね」
死んだ遼と肩を組むように持ち上げ引きずりながら歩き出す花。死人と歩く彼女は誰にも見つからず、自分の部屋まで帰るのであった。
翌日、花の部屋に警察が突入した時、花は死体である遼と性交をしていたそうだ。実際にはできるはずもないのに、ヤろうとしていたようだ。現場に居合わせた警察官は花の行動と表情から狂気しか感じなかったと言う。