裏第三十六話 その二
体が重い。前にもこんなことがあった。またデジャブを感じる。あれは……海に行った日だ。あの時は確か……抱かれている感じがしたのだ。今回は……俺の上に何かが乗っているような……!?
「あら、起きちゃったのね」
俺は一気に目を覚ました。俺の目の前には桜、なのだがマウントを取るような形で俺の上に乗っている。しかもこの前と違うのは桜はちゃんと起きている。浴衣から着替えてパジャマになっているし寝ぼけている感じはまるでない。
「残念。もう少し遼の寝顔を堪能したかったのに」
「桜、重いぞ」
「さっきは羽根のように軽いって言ってなかった?」
起きていたのか!? いつから!? まさか神社から寝たふりをしていたのか!?
「起きたのはさっきよ。でも兄さんと話している声はしっかり聞こえてたのよ」
また感づかれた!? 小悪魔モードの桜には俺の心が丸見えなのかよ!?
「遼、私に失礼なこと考えていたでしょ?」
「そんなことないぞ。桜はいつ見てもかわいいなと思ったんだ」
「うふふ、ありがと♪」
うん、これは嘘ではないよ。思っていたことではないけどね。とりあえずどいてくれないかな?そんなところでモゾモゾされると元気になってしまいます。あと顔がエロいです。
「眠いから俺が起きてからにしてくれないか?」
「起きたら私とエッチしてくれるの?」
「いや、しない」
「なら今からやりましょう」
なぜそうなる!? さっきやらないって言ったよね!? てかこのままだとマジで俺の童貞喪失してしまう! 別に童貞を貫き通すつもりはないがそれは今ではない! なんか今日の桜はやたらと積極的だな。肉食系に目覚めたか? いや、小悪魔が淫魔にランクアップしただけか。やっぱり顔と仕草がエロいです。
「また失礼なこと考えていたでしょ?」
「はぁまたってなんだよ。そんなこと考えてないよ」
「じゃあエッチしましょ♪」
「だからしねぇよ!?」
「私とエッチするより花とエッチしたい?」
>『あのおっぱいを揉みしごきたいと思う男はこの世界にはいない!』
『できれば3Pでお願いします!』←(本編)
遼の言葉を聞いた桜の顔は先ほどまでの余裕の表情がなくなり、どこかに感情を置き忘れてきたかのような無表情になった。
「あれ? 桜さーん。どうした?」
「やっぱり男はみんなおっぱいが好きなのね。私じゃそんなに大きくないから物足りないのね。そうよね。不釣合いにも誘惑なんかしてごめんね」
そう言って桜は遼の上からどき、部屋から出て行った。
危うく貞操の危機だったが、なんとかなったようだ。これで安心して眠れる。
再び目を閉じ眠りに着く遼であった。
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夏休みが終わり二学期が始まった。あの日以来、遼は桜と会っていない。連絡をしても音信不通で心配したのだが、初は何度か会っていたらしく、元気に過ごしているという。
教室に入ると花がすでに来ていた。いつも通り挨拶を交わすのだが、花はまるで俺が見えていないかのように無反応だ。
「花? どうかした? 起きてるー?」
いろいろ試してみるが、全く反応がない。透明人間にでもなったかと思ったが、他のクラスメイトからは普通に声を掛けられたので花の様子がおかしいことの証明になった。
しばらく様子を見てみるも他の人とは話しているが遼だけは見えていないような扱いをする。平らもこの花の行動に首を捻った。
「お前ら喧嘩でもしたのか?」
「夏休みに花火大会に行ったっきり会ってないから喧嘩なんてしていないよ」
遼と平は悩んだ末に放課後に花を捕まえて無理矢理にでも話をすることにした。以前のよううに平に教室で花を引きとめてもらう作戦だ。
そして放課後、平が花を引きとめている間、遼はトイレで教室からみんながいなくなるまで待っていた。しばらくすると平からメッセージが届いたので教室に向かう。
教室では以前と同じく花と平しか残っていなかった。遼が入ってくることを確認した平が逃げるように教室から出て行く。同じように逃げようとする花だったが、遼がそれを許さない。
「待って花。一体どうしたの?」
遼は花の腕を掴み逃げようとする花を掴まえてた。花はもう諦めたのかため息をつき遼と向かい合った。
「遼さんには失望しました」
「え?」
何のことだかさっぱりわからない。花火大会以降連絡も取っていなかったので花に嫌われるようなことは何もしていないのだ。
「桜から聞きました。遼さんは私の胸が好きみたいですね。変態さんなのは知っていましたが、まるで私の胸が大きいから好きみたいじゃないですか」
「いや、そんなことは――」
「そんな遼さんでもいいと思っていましたが、桜を見ているとそんな気も失せました。さようなら。これ以上私と桜には関わらないでください」
そう言って掴まれたてを無理矢理振りほどいて廊下を走り出した。遼は花を追うことができずにその場に立ち尽くす。
あれ? これって二人に嫌われたことになるよね。これからどうすればいいんだ。
見回りの先生に帰るよう言われるまで呆然としていた遼は何も考えられなくなり次の日は学園を休んだ。
その後の遼は一成と平とはつるむのだが、結局彼女ができないまま学園を卒業し大学へ進学。大学はひたすら勉強に励み、見事研究員職に就くことになった。
もちろんその間彼女は一度もできていない。何かを忘れるためのように研究に打ち込んだ遼はこの先もずっと一人のままであった。




