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大切だから

「ッツ…た、くない?」


夜は地面からむくりと体を起こすと、自分の体がどこも傷ついてないことに驚いた。

上を見ても、あの天使はどこにもいない。どこまでも青い空が、広がっていた。


「夜ーーーーーっ!」

声のした方を向くと、見慣れた二つの顔が駆けて来た。

直樹と六実だ。

直樹は、静かで冷静で、クールな男子だ。六実は男の子なのに、女の子みたいな顔立ちをしている。でも中身は悪戯っ子で子供っぽく、感情の振り幅が大きい。

桃がふざけて、六実がそれに乗り、直樹が隣で呆れながら本を読み、夜はそれを笑顔で見ながら直樹の本を覗いていた。

夜の中で、一番大切な日々の形だ。


「夜、お前、何やってんだよ!」


夜のそばに来た途端、六実が激昂して夜を怒鳴りつけた。六実は怒っているようにも見えたし、今にも泣き出しそうにも見える。

夜はこれはなんと答えれば良いのだろうかと返答に迷った。

押し黙る夜を見ると、六実がさらに顔を真っ赤にして、

「何しようとしたんだよ!答えろよ!」

と怒鳴る。それでも夜が何も言わないので、六実は顔を歪めて、そのまま彼女にツカツカと歩み寄り、片手を高く上げた。

打たれる…!

夜はぎゅっと目を瞑って衝撃に備えた。

が、いつまでたっても衝撃が来ない。

恐る恐る目を開けると、泣きながら夜を打とうとした六実は、手を振り上げたさっきの状態のまま固まっている。

そして、その手がゆっくりと降ろされた。


「ふざ、けんなよ、夜、桃がいないとそんなに生きられないし、俺らじゃその代わりにもならないってことか。桃なしで俺らと生きるくらいなら、死んだ方がマシってことか」

泣きながら夜を見た六実は、怒っていた。

自分を置いていこうとした事に。

悲しみに屈し、自分達との未来を捨てて、死を選んだ事も。

同時に、悲しんでもいた。大粒の涙がポロポロと六実の目から溢れ出す。


「だからこんな事…ッ、するんだろ!夜!」

「むー。落ち着け。まず気づけ。屋上から落ちて元気に生きてる、夜の異常性に。」


直樹の静かな声が、六実の感情の暴走に、ストップをかけた。

それを聞いた六実は、へ?と間抜けな声を上げる。

そうしてさっきとは一転して、呆けた表情を浮かべた六実は、


「あ……。そういえばなんで、夜、生きてんの?」

今更すぎる疑問を、夜にぶつけてきた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


「それで、ゲームに勝ったら桃が生き返るって…」

かくかくしかじか。夜は今までに起こったことを、直樹と六実に説明していた。


「ん…、それで、なんだ。お前は天使と会って、ゲームに参加して、月食の夜までそのガンセキとやらを持ってたらお祈りが叶い、…桃が生き返ると。」


「うん。」

夜は直樹の言葉を肯定する。

それを見ると、直樹と六実は顔を見合わせてから、お互いの意思を確認する。そして頷くと、じっと夜を見つめてきた。


「「とうとう頭がおかしくなったな。」」

「おい!ハモらないで貰えると嬉しいな!」

「いや、いいんだ…夜は無理しすぎた。少し休んでこい。」

可哀想な人を見る目で夜を見る直樹。六実も大きく頷くと、

「俺は、夜がどんな状況でも友達だ。例え、頭を打った後遺症が、頭のネジが外れただけに留まらなかったとしても、俺は…‼︎」

と全く嬉しく無い覚悟を示してくれた。心外だ。


「だから本当だって!」

「夜…」

「そんな目で見るなー!むーむーもその手はなんだぁー!まるで認知症のおばあちゃんの手を握る時みたいな生暖かい優しさを感じるんだけどさ、気のせいかな!?」


不毛なやりとりは、十分ほど続いた。


「やっと信じてくれた?」

夜がジト目でこう言った。

「本当、なのか…?」

直樹は自身の口に手を当てて、信じられないという顔をしている。同時に、鳥肌が立つ位の喜びが身体中を駆け巡るのを感じていた。

「桃…が、生き返る」

六実の方は、話のややこしさについていけず、途中からショートしている。心なしか、頭のから湯気が登っている気がした。


「でも…」

直樹は顔をしかめるのを見て、夜が首をかしげる。

「嬉しく無いの?」

「いや、嬉しいよ…でも、これで夜が死んだら元も子もない…」

「え、直樹、何言ってるの?夜は死なないよ、月食の夜までクリスタルを持ってるだけでしょ?」

話を咀嚼していた六実が、やっと内容を理解して話に混ざってきた。直樹はそれを聞くと、首を横に振る。


「違うだろ。まず心臓に入ってるクリスタルは多分、他人への譲渡が可能なんだ。天使の言葉から察するにな。それで、取り出す時にもちろん心臓から抉りとらないといけないから、そんな事したら夜は死ぬだろ。願いが叶う魔法の石。誰もが欲しがる。…わかるだろ。」


「だ、でもそんな…クリスタルとか、知ってる人、そんなにいないんじゃない?」


六実は現実を認めたくないのか、必死に反論した。が、それも虚しく、


「なんでそれが分かる?情報だけを売っても、下手したら大金が手に入るんだぞ。他の十八人のプレイヤーとやらが情報を広めない保証なんてどこにもない。」

直樹の完璧な正論の前では無力だった。


「あ、でも天使が自分を守る能力がなんとかって…」

「それが問題なんだよ。だから、十八人のプレイヤー達が叶えたい願いが、一つとは限らないだろ?その能力とやらを駆使して夜を殺しにきたらどうする」

「…」

「それにだ。話によると天使はルール説明をすっ飛ばそうとするくらいに気まぐれだ。ルールの説明が不十分だって言う可能性も考えた方がいい。まだ他に、夜が不利になるルールが隠されてるかもしれない。」

「…」

「夜は普通の女の子だ。敵が大人で大勢だったら、そのぶん危険も増す。それに」

「そろそろやめたげて。直樹。」

夜は、酸欠の金魚のように口をパクパクと動かしている六実を見て、直樹の肩に手を置いた。


「分かってる。私もそれは考えた。でも、私はやる。」

夜はこう言ってから、二人の方をまっすぐ向く。


「危険も全部どうだっていい。私は桃に会いたい。」

直樹と六実は知っている。夜がこうなれば、彼女は絶対に意見を変えない事を。


「分かった。大体契約しちまった時点で今更変えられねぇしな。」

「お、おう!よくわかんないけど頑張ろうぜ!」

直樹は笑って、六実は大きく頷いた。が、そんな二人を見て、夜は首を横に振る。

二人を危険に晒したくない。

もう桃が死んだ時みたいな悲しみは味わいたくない。

大切な人を失ないたくなければ、大切な人は危険の中に入れなければいい。


「むーむーと直樹は、何もしなくていい。」

桃はこう言って、二人のことを見つめた。

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