事件当日から四日前(前編) サングラスと関西弁日本人形剣士
かなり更新がゆっくりとなりました。プライベートの方で忙しくなり、ほとんど掻き揚げるのに時間がかかりました。お待たせして、申し訳ありません
「俺はサングラスかマスクを買う」
「意味のないアイテムを買うなよな」
「俺は気付いたんだ。このゲームはリアルだ。NPCと解って居たら大丈夫だが、PCには女の子も居る。なら、サングラスは必須だ」
「……このゲームが顔……と、言うか外見をいじることが出来るなら良かったのにな」
俺の言葉にため息まじりに言うハヤテ。確かに、ゲーム……ゲームの世界に入り込む形ではないが、こう言ったゲームの中にはキャラクターメイクが出来るのがある。
職業だけではなく、外見年齢、性別、体格、顔立ちまで細かく印象が出来るのがある。姉さんの仕事の手伝いで、過去に一度だけやったゲーム(それほど、ハマらなかった)は、キャラクターメイクにこれでもか! と、力をいれていた。外見年齢だけではなく、身長や(女性ならスリーサイズ)に体重、髪型に髪色に瞳の色。そばかすやほくろなどの外見の細かさで、キャラメイクの力に入れ込みすぎ。と、言う感想だった。
キャラクターを作るのに、一時間もかかってしまったのだ。(それほど、拘らない俺でもだ)ただし、キャラクターの作製に力をいれすぎており、肝心のゲーム内容があまりにもお粗末だったことも覚えている。
このゲームの場合は、キャラクターの外見を設定する。と、言うのよりも内容を重視しているんだろう。戦略としてはとても理解出来る。
そう思いながら、俺は道具屋にいく。薬や冒険に使うアイテムの他にもペンや筆記用紙と言った特別な効果がない道具も売っている。
「すみません。サングラスを下さい」
と、俺はサングラスを購入した。
ただのオシャレアイテムなので安い。色つきのだて眼鏡と言う感じだが、顔を半分も隠せるので良い。これを、身に着ければ女性と顔を合わせる事が出来る。
「あのさ。なんで、サングラスなんて身に着けるのよ」
「俺は、俺の顔が嫌いなんだ。
……あの男に似た顔にな」
と、俺は顔をしかめて言う。
そんな中だった。
「それじゃ、さっそくドラゴンの所へ行くぞ。
性格が良くて、出来れば能力が高くて将来性があるドラゴンと契約するぞ」
「ドラゴンは大抵、好戦的な生き物よ。
あと、プライドが高い」
元気よく言うハヤテにメロンが冷たくツッコミを入れる。
「種族によって性格が違うのか?」
「うん。お母さんが言っていたんだけれどね。
幽霊族は悪戯好きで自由気まま。獣族は、その獣に似ていて猫型なら自由気ままでマイペース、兎型なら好戦的で好奇心旺盛。犬型なら素直で従順とかね」
「……なぜ、兎は好戦的?」
兎はどちらかと言うと、臆病で可愛らしいイメージが強いんだが……。
と、メロンの言葉に疑問を抱く。まあ、たしかにあのスモール・ハンマー・ラビットは中々に好戦的であった。
「で、ドラゴンは基本的には誇り高くて好戦的よ」
「うーむ」
仲間にするのは難しそうな性格である。
「まあ、何事にも例外はあるでしょうけれどね」
「そうそう、例外と出会える保証は無いがな。
まあ、メロンは例外みたいだけれど」
例外と言うかイレギュラーを感じさせる。
「まあ、子供のうちなら別かも知れないわよ」
と、メロンもフォローする。
まあ、おそらくだがこのゲームは契約した魔物が成長していくのも一つの遊びだろう。契約した魔物にレベルがあったあたり、ひょっとしたらレベルを上げていくことで種族が変わる可能性もある。
子供なら今は弱いが、将来性が高いだろうし小さい時から中が良いとレベルアップする可能性も高い。
その事を考えたハヤテは楽しそうにそちらへと向かう。
やがて、たどり着いたのは最初にメロンに出会った場所だ。
「で、どうやってドラゴンを見つける?」
「出会い頭に攻撃しても、仲良くなれるわけ無いからなぁ」
俺の質問にハヤテも考える様子だ。
来る途中で、考えておけば良かった。と、思って言えると、
「おっしゃ! 大量じゃねえか」
と、言う声が聞こえた。
「なんだ?」
と、声がした方を見て見るとそこには、大量の小さなトカゲを捕まえている連中がいた。
「あれは?」
「あれ、たしかドラゴンよ。スモール・レッサー・リザード。
ドラゴンだけれど、どっちかと言うと獣族よりの種族よ。能力も低いはずよ」
と、メロンが言う。
「こいつ、一応とはいえドラゴンだろ。こいつらを、生け捕りにして騎士の連中に売りつけようぜ」
「おお。そうすれば、大金持ちだぜ。
ゲームが本格的に開始する頃には、俺たちはめちゃくちゃ良い装備を購入してチート開始だ」
と、数名のパーティーが言う。
その言葉に俺は眉をひそめる。見たところ、弓矢を持って居る緑色の服を着た男。そして、魔法使いに剣士と言うパーティーだ。ちなみに余談であるが、人気がある職業は一位が騎士で二位が魔法使い、三位が剣士である。理由は簡単であり、騎士はドラゴンと相性が良いことから、仲間にするならドラゴンがよい。魔法使いは、魔法を使ってみたい。と、言う要望であり、剣士は一番、シンプルだからだ。
「狩人かな? あの緑」
と、ハヤテが言う。
「どっちにしても、あまり趣味がよいやつらじゃないな」
と、俺は言う。
このゲームがどう言うゲームかは知らないし、そもそもどう楽しむかは自由だろう。
とは言え、この考え方はお世辞にも見ていて気分が良くない。
おそらく今、早く魔物と契約した居と言うのがプレイヤーの心理だ。それが、どうやれば良いのが解らない中で、得にドラゴンはくせがあるはずだが人気も高い。
そりゃ、そうだろう。と、俺も思う。契約したいな。と、思わせるといったらやっぱり格好いいドラゴンか可愛らしい妖精だろう。
とは言え、こいつらは手段が気に入らない。
そこに、
「なんや。ずいぶんとアコギな方法で商売を始めようとする素人がおるな」
と、言う声がした。
そして、現れたのは一人の少女である。布製の軽装の鎧に腰には剣をしている身軽な外見は、剣士だろう。黒髪のストレートであり白い肌に赤い唇と言う日本人形のような美人。だが、その口から出たのは関西弁だ。
剣を持って不敵に笑う関西弁の日本人形。……しかも、身に着けているのは和装ではなく洋装だ。
「すげえ違和感」
「変なしゃべり方」
ハヤテとメロンがそう言う。
そんな中、
「ああ? なんだよ。俺らの金儲けの邪魔をするのかよ?
ああ、問題なんかねえだろ」
「アホか。商人にだってな。
やってはあかんちゅーことがあるんや。この素人どもが!
客と商品をただの金づると思うようなアホなんざ三流以下や。
このゲームでプレイヤーキャラが商売するのは自由や。
なにしろ、副業に商売人ちゅー仕事があるほどやからな。
けれどな。最初に現れる商人が外道やと、イメージダウンもええとこや。
それやと、後から商売する真っ当な商人にとって迷惑千万や。
商売に必要なのは、誠意と真意と情報や。
あんたら、三下が商売されるとこっちが迷惑や」
そう言うと、ぶわりと剣を抜くと走り出す。
そして、そのまま閉じ込められていたドラゴンを開放する。
「あっ! てめえ」
逃げ出すドラゴンたちは、慌てたように立ち去る。
「てめえ、この野郎」
「野郎やないわ。こんな美人捕まえて、野郎はないやろ。野郎は?
商売人としても最低なら男としても最低やな。あんたらは」
狩人の言葉に関西弁日本人形剣士はそう言う。
まあ、たしかに野郎はないだろうな。と、俺も同意する。
そのまま、一気に迫り来る狩人たちを倒して行く関西弁日本人形剣士。
その動きには、まったく無駄がない。
だが、なんというか剣が時に勢いが乗せてしまっているようにも見える。
「まったく。初期装備でなんで日本刀が選べへんのや?」
と、舌打ちをする関西弁日本人形剣士。
なるほど、おそらく彼女は剣道をしているのであろう。剣道は日本の剣術……正確に言えば、日本刀を使った戦いを前もって考えて居る。
日本刀も西洋剣も刃物の武器と言う意味では同じだろう。だが、厳密に言えば違うのだ。
剣と言うのは、どちらかと言うとたたき切る事を重視した鈍器に近い刃物だ。
対して、刀は斬る事に重視した軽量化をされている武器である刃物だ。
刀での刀術を剣で再現しようとしても、どこかで不都合が出来る。
その瞬間だった。狩人が一気に距離を取り、弓矢を放つ。
「おい。助けるぞ」
と、その瞬間にハヤテがそう言うと走り出して、盾を使って関西弁日本人形剣士を助ける。
「ああ? 誰だ?」
「通りすがりの騎士さ」
「まあ、ただのなりゆきですけれどね」
狩人の取り巻き一人の言葉にハヤテが言えば、俺はそう言って現れる。
サングラスをしているので、関西弁日本人形剣士の顔を見ても大丈夫だ。俺の頭上にいる妖精を見て、
「お前、妖精ゲットの魔法使いか」
「変な異名をつけるな」
取り巻き一人の言葉に俺は思わず怒鳴る。
そのまま、メロンに指示をして関西弁日本人形剣士の体力を回復させる。
戦っていたが、多勢に無勢でわずかに怪我をしていた。
その間に、一気にハヤテが斬りかかる。
そして、体力を回復した関西弁日本人形剣士も、
「おおきにな。お礼は言っておくわ。
お礼を言うのは、お金はいらんしな」
と、言うと切り倒していく。
遊撃に優れた関西弁日本人形剣士。そして、守備と攻撃に長けているハヤテ。後方支援による俺と援護射撃のメロン。
見事な攻撃の中で、あっという間に俺たちはあの三下連中を倒したのであった。