事件当日から五日前(前日) 美味しい料理を作りましょう
今日は料理を作ろう。と、言う事になった。大した理由ではなく、仲間を作るのに餌付けが良いと言う噂をハヤテが聞き出したからだ。
「妖精は甘い物が好きなのか?」
食材売り場などを見ながら、メロンに尋ねる。
「少なくとも私は、甘いものは好きよ」
「じゃあ、ドラゴンは?」
メロンの言葉に興奮気味に尋ねるハヤテ。
おそらく俺と同じく早く魔物を仲間にしたいのだろう。
「知らない。けれど、母様はドラゴンは肉を好むと言っていたわ」
と、言う。
「肉ね……。なら、ステーキを残しておけば良かったな」
「持って居たのか?」
「ああ。兎の肉だ。ほら、草原にいるスモール・ハンマー・ラビットだっけ?
あれから手に入る」
「ああ。そう言えば……料理スキルがないから売ったな。
……そもそも、あれ鮮度と書いてあるあたり、日が経つと腐るみたいだし」
「だよなぁ」
そう言うのも現実のようだ。
細かい。と、俺は思う。そんな中で、食材売り場に行けば何かの果物の他に調味料の各種なども売っている。
『ペチュ アイテム 食材 希少価値2
桃のような果実。食べると甘い。ただそれだけ
オランゲ アイテム 食材 希少価値2
オレンジのような果実。やや酸味が強い果実。ただそれだけ
チルリ アイテム 食材 希少価値2
苺のような果実。甘酸っぱい果実。ただそれだけ』
と、書いてある。あ、そう言うふうにわかるように書いてあるのね。と、俺は思う。
とにかく、俺は一通りの材料を買う。
塩の代用品らしいソルト・シロップと言う塩が液体になったようなもの。シュガー・ストーンと言う岩塩ならず岩糖のような岩ごつごつした砂糖。そして、羊鶏と、言う羊なのか鶏なのか解らないものの卵。(卵なので多分、鳥なのだろう)。小麦粉(これは、普通に小麦粉と書かれていた)に山牛のミルクを買う。
「お客さん。料理人? それなら、これなんかどう?」
と、食材を買ったお店の店主が進めてきたのは一つの箱だった。
『携帯フードボックス(SS) イベントアイテム 難易度2
食材・料理アイテムを1種類10個、10種類まで持ち運びできる。この中に入れた料理・食材は、鮮度が良好以下に下がらず鮮度が長持ちする』
「お客さんは沢山、買ってくれたから無料で上げるよ。これからも、ごひいきにね」
と、店員さんがくれる。
『イベントクリア。おめでとうございます。
イベント名・冒険者の美味しい料理(1)
イベント条件・副業に料理人 食材を合計で5以上、購入』
と、現れる。……なるほど、これがイベントか……。と、俺はフードボックスを見る。
小さな手の平サイズのクーラーボックスのような品だ。鮮度を保管するのに便利なのだろう。アイテムボックスなどに入れられる量に比べれば大した事は無いが、保存が利くと言うのはよいものだ。
さらにSSと書いてあるあたり、最低でも残り四サイズ、S、M、Lとあるはずだ。運が良ければ、LLサイズなんてものもあるかもしれない。
丁度良いので、この買った食材をいれていく。……普通、果物や野菜とかは品によったら冷蔵庫にいれない方が保存状態が良い品があるのだが……。ゲームにそこまで細かい事を言うのは、野暮かも知れない。
余談であるが、小麦粉は保存状態が無かった。保存食品と書かれており、腐ることがないらしい。なので、調味料やジュースなどを入れておいたが、小麦粉は入れずにいた。
「次に無料で手に入る食材調達だな。金は無限にあるわけじゃないからな」
「同感だ。ゲームってものによったら金の出費が多いのもあるからな」
と、俺の言葉にハヤテが言う。
「ゲーム?」
と、メロンが首をかしげるので後でごまかす。
どうも、このメロンがただのゲームキャラクターとは思えない。こう言う会話にも反応するあたりが、どうも理解が出来ない。
そう思いながら、俺達は今日は草原に行く。それぞれが、近場の相性が良い魔物がいる場所へと向かう。ここは、どうやら初心者向けと言うのもあり、メロンと出会った竜がすむ岩場、スモール・ハンマー・ラビットと言った獣や植物系のモンスターが多い草原。他にも妖精が多い森や池や川。活火山地帯などもあるらしく、墓場などのダンジョンもある。スタート地点もあってそれほど、強力な魔物はいないらしいが……。
あくまでそれほどであり初心者の中には厄介に近い無い。と、昨日のドラゴン三匹を思い出して思う。とにかく、食材集めである。
食材を大量に購入して魔物を仲間にしたけれど、その後に全滅しました。は、バカみたいである。
そのため、俺たちは今日は食材調達で明日を仲間作りに回す事にしたのだ。
そもそも、単純に考えて魔物を仲間にすれば戦う上で何かしら、その分だけ出費がかさむ可能性も高い。たとえば、回復薬などは必須だろう。
「なんというか、回復系の仲間が欲しいな」
俺はまだ回復魔法は会得していないし、ハヤテも回復は専門ではない。
何より、出費がかさむのは回復薬だ。せめて、体力の回復だけでも安値で抑えられたら便利なのだが……。
と、俺は思いながら草原で兎狩りを始める。
初日に比べて、人も少ない草原では魔物を捜すのも必要だった。
とは言え、スモール・ハンマー・ラビットと言うのはかなり喧嘩早い性格らしい。
こちらの姿を確認した瞬間に殴りかかってくる。
兎のくせに喧嘩早いやつだ。
そう思いながら、兎狩りを始める。
スモール・ハンマー・ラビットは一人でも戦えるほどだ。二人……いや、三人パーティーならかなり安定して戦える。それに、メロンも小さいが使えない訳じゃ無い。
確かに目に見えた攻撃は出来ないが、攪乱と言うのでははっきり言って有能だ。妖精魔法と言う魔法で、相手を混乱させたり俺たちの回避率を上げる魔法だ。さらに、自然魔法と言うので回復魔法まで使える。
太陽の光が効果に左右されるとは言え、回復役が居ないのは難点だっただろう。だが、回復薬が現れた事で余裕すら生まれた。
「メロン! 妖精の歌だ」
「解ったわ」
俺の言葉にメロンは歌を歌い出す。その瞬間に何体かのスモール・ハンマー・ラビットの動きがおかしく同士討ちを始める。その瞬間にハヤテが一気に走り出して、問答無用で相手を切り倒していく。さらに、俺も水の魔法で相手の動きを鈍らす。
攻撃力はないが、水で濡れるためか毛皮のある魔物の動きが遅くなる。
ついでに、早くレベルアップして欲しいと言う理由もある。事実、レベルアップしてくれた。また、俺もハヤテにメロンもレベルが上がった。
「そろそろ、帰るか。荷物もこれ以上は、入りそうにないしな」
と、俺はクーラーボックスもどきの携帯フードボックスを見せる。
すでに、肉は入れるだけいれている。これ以上は、入りそうにない。
無理をすれば入るだろうが、料理した後も運ぶ事を考えるとあまりものを用意してもしょうがない。それに、このゲームは妙に現実味が高い。
あり得ない可能性ではないが、数が激減して狩りにくくなる。と、言う事が起きてそれによって何らかのペナルティーが起きる可能性も高い。
まあ、あくまで可能性の話だが……。
それに、無理をしてもなんにもならないだろう。
「一端、帰って調理をするぞ。
兎の肉を使ったステーキだ。ついでに、お昼ご飯にでもしようか」
「おお」
俺の言葉にハヤテが興奮すれば、
「あたしは、お肉は嫌いよ。
お肉じゃなくてお菓子が良い」
「はいはい」
と、メロンが駄々をこねる。
果実が合ったので、果実の砂糖の煮付けを作ろう。ジャムみたいなものであり、あとはパンなどを与えれば喜ぶだろう。
と、俺は静かに思う。
果物の砂糖で煮付けたもの……つまり、ジャムと言うのは保存食だしと俺は考えていた。
その後、宿屋に帰るとまずはステーキである。作り方が解って居る分だけ、簡単に作る事ができる。しばらくすれば、出来たて熱々のステーキができあがる。
ちゃんと、匂い消しのハーブを途中で購入しておいた。その時に、肉以外の品は売っておいたのでさらに余裕ができて、食材を購入しておいた。
見事にラビット・ステーキができあがる。材料が少し違ったが、問題は無い様子である。どうやら、料理ではちゃんと材料によったら代用が出来る品もあるらしい。
こういうのも細かいな。ゲームの料理だとしたら、ちゃんと素材を決めないと失敗すると言うのがある。砂糖がないから、蜂蜜とか、日本酒が無いからワインでとかそう言う代用が出来ないのがゲームの融通が利かないところなのに……。
と、俺は思いながら残ったうさぎ肉を買っておいた塩と砂糖でハーブで揉み込み詰め込む。イメージとしては、ベーコンだ。ただし、燻製機は無いのであくまでなんちゃってと言う奴であり、塩漬けしてしばらく放置するつもりだ。燻製するための道具があるとも思えないので(あったとしても、そんなマニアックな料理はそうそう手に入らないと思う)食べる時は塩抜きをして役だけだ。だが、ハーブと塩と砂糖のおかげで保存は利くはずだ。フードボックスなどに入れておけば良いだろう。と、思いながら俺はしばらく安置する。
続いて、購入しておいた果実を一口よりやや大きめに切っておく。皮は丁寧に取り除いたら砂糖と一緒に煮込む。ぐつぐつと煮込み上がれば、やがて甘い匂いがしてきた。
やがて、料理が完成する。
『果物の砂糖煮 作製アイテム 料理・食材 希少価値4 状態・良好
果物を砂糖で煮込んだ代物。甘い果実と甘い砂糖が混じり合い熱した強い甘みが特徴だが、甘い物を好む人にはたまらない。直接食べるよりも、パンなどにつけて食べる。あるいは、料理に使うのがおすすめ』
そのまま、続いて小麦粉と卵、砂糖と牛乳……正確に言えば、卵じゃなかったり砂糖じゃなかったり、牛乳じゃないが似たような代物なので、そう表現する。
それを使い作ったのは、パンケーキだ。
ケーキではないのは、生クリームがないからだ。
『パンケーキ 作製アイテム 料理・食材 希少価値5 状態・良好
小麦粉に羊鶏の卵と山牛のミルクに砂糖を入れて作ったパンケーキ。甘みが薄めのシンプルだが、美味しい味。お好みでチョコレートやジャム、砂糖煮や生クリームを添えても美味しい』
これを味見したのは、メロンだ。果実の煮込みのチェルを砂糖煮をかけたパンケーキを口いっぱいにしながら、美味しいと喜んでくれる。
そこに、
『『料理』ベルが2になりました!
料理の味レベルが解るようになりました!
レシピレベルが100%の品の場合、自動作成が可能となりました』
「レシピレベル?」
なんだ? そりゃ? と、調べて見たら料理に必要な食材を完璧に選択して何度も作ると、レシピが100%になるらしい。
なるほど、そうすると勝手に作れて楽というわけか……。と、俺は納得したのだった。