事件当日から六日前(後編) イレギュラーな妖精メロン
くたくたになって俺たちは、宿に戻っていた。なにしろ、体力を消費したのだ。ちょっと、早いが帰るのは普通だ。ちなみに、商品などを売る。ついでに、手に入れた道具などや昨日、作った料理などを売る事にした。
思った以上に道具を消費したからだ。
ついでに、料理はおそらく腐っていく。もったいない気がするが、腐らせるのももったいない。売れば、かなりの金額になると思うはずだ。
そう思っている中で、お金が収入となる。ちなみに、アイテムは俺が調理したのはおれのものだが、ドロップアイテムは山分けである。本当なら、取っておきたいのだが今は金欠だ。しょうがないので、余裕が出来るまでは我慢である。
総合的になんと俺は1000Mものお金になった。ちなみに、今日の成果は総合では、なんと1500Mもしたのである。
アロガンの鱗は一つで200M。尻尾と羽根は300Mもした。
「一日目のモンスターのアイテムはあまり大したお金にならなかったのにな」
「あれ、レアモンスターなんだろ」
と、言う。
その後、アイテムの補給をする。
「しかし、ヘタしたら敗北していたな」
と、俺は呟く。
「同感だ」
「そりゃ、あいつらは憤怒の竜の血族よ。
お母さんから聞いていたけれど、本当に品性がない……」
と、言うのはメロンだ。
……コンピュータープログラムのくせにいやに、喜怒哀楽が激しい。
このメロンが俺の契約した使い魔だ。
普通、契約した魔物は召喚するのにSPが必要だ。そして、そばにいると問答無用でCPが消費される。ちなみに、契約した魔物との相性やその信頼度、そしてレベルによって変化する。
だが、このメロン。俺の頭の上に住み着き、SPもCPも消費せずにそばにいる。
「お前、なにものだよ?」
データを調べて見ても、UNKNOWN……詳細不明と言うのが出てくる。
ひょっとして、こいつはバグなのかもしれない。
そう思いながら宿屋に帰れば、
「あ、あたしもご飯が食べたい。甘いやつね」
と、メロンが我が儘を言う。
どうやら、メロンは甘い物を好むらしい。
メロンと言う名前だけあると思わず納得する。
だが、
「悪いが売っていない。材料もない。金もあまりない」
「嘘でしょ。なんか、甘い物。果物でもジュースでも良いからさ」
と、ぎゃあぎゃあと騒ぐメロン。
先ほどまで体力も魔力もほとんど無かった(薬で回復させてやった)のに、元気なやつである。しょうがないので、果物の盛り合わせを頼む。食事セットは10Mで果物の盛り合わせは5Mだ。……わりと良い値段である。
『果物の盛り合わせ イベントアイテム 難易度2
ペチュ、オランゲ、チルリの実を盛り合わせたもの。甘酸っぱいチルリと酸味が強めのオランゲ、甘みが強いペチュがある。妖精や草食の魔物なども好んで食べる』
ひょっとしたら、契約した魔物用の者なのかも知れない。と、思いながら俺は夕食を食べる。メニューが昨日の夕食と同じだった。
こりゃ、いつか飽きるな。
「なあ、今度は料理の材料とか食材を手に入れてみないか」
と、同じ事を思ったらしいハヤテが言う。
「まあ、そうかもな。とにかく、冒険だ。
それに、メロンが入ったからな。
メロンをいれたパーティーになれておいた方が良いだろ」
契約するのにひょっとしたら料理と言うのは、必要なのかも知れない。と、俺は思いながらハヤテの言葉にそう言った。
とは言え、今日は疲れたので早々と眠る事にする。明日は、食材などを探す事にしよう。
そう思っている中で、俺はオランゲと言うオレンジによく似た果実を食べているメロンに尋ねる。
「お前、故郷に帰らないのか?」
「うーん。故郷はどこかわからない」
「解らない?」
メロンの言葉に俺は聞き返す。
「うん。あたし、生まれたばかりなの。だから、お前はまだまだ未熟とお母様が行っていたの。でも、お母様とはぐれたの」
要するに迷子らしい。しかし、なんというかつくづく異端と言うか異質だ。
そんな中で、俺の周囲にはちらちらと俺達を……正確に言えば、メロンを見ているやつがいる。おそらく、二日目と言う事もあってそろそろ、魔物と契約したいやつもいるのだろう。だが、そう簡単にできていないので契約しているやつは珍しいのだろう。
そう思っていると、
「よお。お前ら」
「へえ。けっこう、可愛いやつを連れているじゃねえか」
と、声をかけてきた……いや、喧嘩を売ってきた連中が現れる。
一人は金髪に耳元にはじゃらじゃらとピアスをつけている。ちゃらちゃらとした印象を与える人物にその取り巻きっぽい金髪に比べたら地味だが、それでも軽い印象を与える二人と言う三人組。俺は吐き気を覚えた。
俺はトラウマからか、こういった軽いいい加減な軽い男と言うのが生理的に嫌悪感を覚えるのだ。ついでに、外見だけならともかくだが内面もそうだと嫌悪感は酷い。
なるべく、他者に嫌われたくないのだがどうしても好きになれないのだ。
死んだあの男を彷彿させるのだ。
「よお。この妖精、どこで見つけたんだよ。つか、どうやって契約したんだよ?」
と、話しかけてくる。
ちなみにリーダー格は、剣士。もう一人は神官なのだろう。十字架をペンダントにしている白装束のローブ服。そのもう一人は漆黒のローブで髑髏のペンダントなどしている。魔法使い……ではないだろう。おそらく死霊術師かあるいは、悪魔使いだろう。
回復援護に攻撃援護。そして、直接攻撃と言うある意味、わかりやすいパーティーだ。「別に……困っている所を助けただけだ。
いきなり、攻撃はせずにゆっくりと様子を見ていたらどうだ?」
と、ハヤテが受け答えをする。
ハヤテは、俺がこう言った人種を苦手としていると言う事を知って居るからだろう。俺はというと、吐き気が酷いので口元を抑えている。
原因は心理的なものなので、吐かないようにする。そもそも、相手だっていきなりはかれたら不愉快だろう。なので、抑え込むのだが気分の悪さは中々、消えそうにない。
「お前に聞いてねえよ。
ねえ。そこの妖精。そんな貧弱なやつらより俺と契約しない?」
「!」
その言葉に俺は目を見開く。
こいつ、そんな事が可能だと思っているのか? いや、テストプレイの段階であるこのゲームだ。もしかしたら、可能かもしれない。
だが、それはあくまでもしもだ。
それになにより、それが礼儀正しい行動だとは思えない。
契約手段が未だ、確かに解って居ないと言う状況だ。契約をしていると言う事で話を聞きたがるのはわかる。だが、契約している魔物をスカウトするのはどう考えても、礼儀違反だ。本格的にゲームが始まったら本部に報告され、下手したらプレイヤー権利を排除されるだろう。そう言った迷惑行為に近い。
その言葉に宿屋に居た人達の一部が顔をしかめる。
中には、思いっきり不愉快そうな顔をしているのがハヤテだ。重度のゲーマーであるが、ルールとマナーを守る分別のついたゲーマーであるハヤテ。
彼から見たら、こう言うプレイヤーは嫌悪を隠せないのだろう。
「は? 冗談じゃないわよ。
寝言は寝て言いなさいよ」
と、顔をしかめるメロン。
「契約はよほどの事が無い限り、断らないわよ。
すくなくとも、あたしは契約を重複させるつもりもないし、あんたみたいに礼儀のなっていない連中と仲良くするつもりはないわ」
と、はっきりと言う。
まあ、正論である。
「はあ? 何様のつもりだ? お前らは」
と、怒鳴る二人とそれに応じるように戦闘の構えをする悪魔使いと神官(二人とも推定)も戦闘意志を見せる。戦闘を始めるつもりらしいが……。
「ちょっと、お客さん! 宿屋内での戦闘はごめんだよ!」
と、女将さんが言う。
「はっ! うるせえ! そんなの知った事か!」
と、剣士が言うと同時に剣を振りかざして振り下ろす。俺は、とっさにメロンを抱えると距離を取る。ハヤテも距離を取り、俺の前に立つ。
真っ二つになるのは料理とテーブル。……ああ、まだ食べかけだったのに……。
そう思う暇もなく、漆黒の丸い何かが迫ってくる。
やばい。命中する。と、思った瞬間だった。
『宿屋での戦闘行為を確認しました。戦闘停止による処罰が始まります』
その瞬間に現れたのは、鎧を着た人物だ。
騎士ではない。
それが現れると同時に、一瞬であのバカ三人を殴り飛ばして気絶させ……そして、連行していった。
「あれは?」
「知らないの? あれは、魔道衛兵よ」
と、言う中でメッセージがおそらくこの場全員に広がる。
『ただいま、プレイ中に悪質なプレイ行為が確認されました。
プレイ中に悪質な行為を行おうとした場合、それに対する停止宣言がされます。それを無視して、実行した場合、王国が行う魔法により魔道衛兵が召喚され、違反行為を行った者を処罰します。
また、短期間で同じような事を繰り返した場合、ゲームから記録データなどを全て消去する事となりますのでお気をつけ下さい』
「そう言うのは、もっと早く言うべきじゃないのか?」
現れたテロップに俺はそう呟いたのだった。
「何が言うべきなのよ。常識でしょ。
あたしだってお母さんに人間は悪い事をすると、魔道衛兵に捕まりますよ。と、言われて居たわ」
「いるんだ。お母さん」
と、俺は呟く。
なんというか、喜怒哀楽がはっきりとあるやつである。
ただのシステムとは思えないほどだ。そもそも、キャラクター……NPCとなれば、性格に設定を考える。そして、どう言う行動を取るのかを一から十までプログラムする。
とは言え、それは簡単ではない……はずだ。
あいにくと一般高校生である俺には解らない。だが、ゲームでも育成ゲーム……育てて可愛がろうと言うのも、基本的に攻略本があるとおりきまった法則がある。
だが、こいつはそれが無いように思える。
まるで、本当にこの世界で生きて居るようにだ。
自立思考が出来ている? いや、まさかな。と、俺は思う。たがが、ゲームキャラクターの一体、一体にそこまでの細かい喜怒哀楽を出せる感情を出せる。
良くわからないが、そんなゲームを作ろうとしたらスーパーコンピューターと言うすごいパソコン(とりあえずすごいと言う事しか知らないが……)
これは、どう言うことなんだろうか?
俺はゲームはあまりしないが、……その分だけ興奮はしていない。俺は周囲を見る。あの礼儀知らずを皮切りにメロンやどうやって出会ったのかを尋ねる面々。
それらの対応は、ハヤテがしている。……あまり、俺は人付き合いが得意ではないのだ。メロンはちやほやされて機嫌が良さそうで、俺と同じ魔法使いなどに好物などを聞かれて、調子よく答えている。……仲良くなるには、食べ物で釣ろうとしているのだろう。
ゲーム……生まれて初めてと言うか、歴史上初の体感……振動、感覚、痛覚、五感の全てを感じてまるで異世界にいるかのような世界。それで、興奮するのは無理が無い。
だが、なんというか……。あまりにも細部まで拘っている。
無機質、無感情というわけではない。
メロンと言う存在がはたして、イレギュラーなのか……。
それとも、このゲームがイレギュラーなのか……。
どちらなのか、俺にはまだ解らなかった。
疑問を抱きながらも、二日目は終わったのだった。