隠しイベントの始まり①
「我々はその天変地異によって避難しました。
ですがそのときの魔力荒らしによって我々の住居はダンジョンへと転移してしまったんです」
「転移?」
「はい。専用の魔法道具があればある程度の広さを移動できますが……。
そうではなければとてもじゃないですが難しいでしょう。
数名程度なら運べる転移魔法もあるそうですが……。
上級魔法でして使えるものは少ないでしょう」
そう言われて俺への視線が集まった。
「俺はまだ魔法使いとなって日が浅いので」
とりあえずそう村長に伝えておく。
実際に魔法使いとしてまだ俺はレベルがようやっと二十に届こうとしている程度だ。
それで転移魔法なんてそんな魔法が使えるとは思えない。
それにそういう転移魔法というのは一度、言ったことがある場所。そういった制限がかかっているということぐらいは予想が出来る。
「はい。
噂で聞いたのですが冒険者もその天変地異でほとんどが死んだ。
そう聞きました」
そう村長が言う。
それを考えるとオレたちはその天変地異の後に新たに生まれた冒険者たち。そういった設定なのかもしれない。
だとすると、このゲームのクリア。
それはその天変地異を引き起こした元凶をどうにかする。
あるいは消えてしまった存在を見つけ出して復活させる。
そんな条件の可能性は極めて高い。
そう判断したがそれは口に出さない。
「ですがここはダンジョン。
食料を調達するのも大変です。
なので転移装置を使い元の場所に戻りたいんです。
けれど……」
そこまで言うと村長は顔を曇らせたのだった。
話を聞くとその転移装置の制御装置。そこにモンスターが住み着いてしまったのである。
転移装置で避難するのは戦えない人たちばかりだ。
そのためにモンスターと戦う手段もなかったそうである。
そのために元の場所にも取ることも出来ずにいるそうである。
「どうか。我々をお救いください」
「うーん」
その言葉にオレたちは困惑する。
おそらくこれは隠しイベントだ。
「もちろんお礼はちゃんとします。
どうか」
オレたちが悩んでいるのに気づいたのか村長はさらに懇願する。
確かに人情的にはここで助けたいというのも本音だ。
何しろダンジョン内部。いつモンスターが村にやってくるかもわからないし中には家族や恋人などと生き別れてしまった人たちもいるだろう。
けれども、
「すみません。
オレたちは駆け出しの冒険者です。もちろん受けたいと思っていますが自分たちの実力に見合わない可能性もあります。
ご存じの通り、冒険者は大分減っていまして今、動いている冒険者の大半は新人から脱却したようなもの達がほとんどです。
せめてどんなモンスターが住み着いたのか。
どのような能力を持っているのか。
そういったことを教えていただけないと難しいというのが本音です。
もしも難しいならば知り合いなどを探して倒すことができるかもしれない。
そんな方々を探します。
なのでどうかもっと詳しい話をさせてください」
そうハヤテが言う。
確かにそれがよいだろう。
ゲーム的にここで受けた方が好感度などが上がりゲームが有利になる可能性は極めて高い。けれども失敗した場合はそれはそれで残念がられる可能性もある。
普通のゲームならば受けるまで何度も出来るという形だ。
けれどもこれは違う。VRなのでおそらくだが対話などでやっているので対応次第では次に来たときに前に断っただろ。
そう言って断れる可能性が高い。
ひょっとしたら倒したことでなくなるそんな限定一度きりのイベントという可能性がある。ずいぶんとこだわった内容であるが……。
何しろこのゲームは妙なところが多い。
その可能性だってある。
なのでハヤテのこの言い方ならばすぐに受けれない。そう言われたとしても恨まれはしないそんな対応だった。
こういう対人スキルに関してはオレは全くない。
何しろ親なしな上に親がない理由がわりとスキャンダルだ。
大人がこそこそ陰口を言うし姉はオレの面倒などをいやいやしている祖父母に気を遣い必死で対応をしていた。そんな普通じゃない家庭の子供に関わろうとするやつはほぼいない。話しかけても逃げられる。
そんな関係でオレはしっかりと友達が少ないどころかコミュ障一歩手前となったのだ。知らない人間とか不特定多数の相手と会話をするのが苦手だ。
その場限りの相手ならばあたりさわりのないことができるが……。
むしろ出会い頭に罵声を浴びせて来る相手の方が楽だったりする。
相手が嫌いならもうそれ以上、関わらなければよいだけなのだから……。
そのまま交渉を進めるハヤテとカエデ。
カエデも大丈夫だろう。
何しろ商売人を自称しているだけはある。
大会社の社長令嬢と言っているが箱入り娘の世間知らずではない。
おそらくだが親の教育方針がよいのだろう。
自分の会社を継がせると本気できちんと考えている。
どうせ嫁を取るとか息子がよいとか言っていない。
きちんと勉強をして金持ちだからではなく自分で商売などを考えている。
生来の資質もあるだろう。
とはいえ、この二人ならば交渉ごとは任せられる。
そう思っている中で、
「それにしても本当にまるで異世界にでも迷い込んだみたいね」
そうクレセントがつぶやいた。
「どういう意味?」
そうスプリングが問いかけると、
「そのままの意味よ。
すごく作り込んであるのよ。
この世界……一人一人、感情も怒りもある。
あたしだってお兄ちゃんがゲームプログラマーだったのもあってゲームはいろいろとしていたわ。お兄ちゃんがたくさん持っていたし」
「あー。ゲーム関係の仕事をしているとな」
その言葉にオレも同意する。
姉は雑誌なのだがそれでもゲームは大量だった。
たまに姉の手伝いなどでゲームを作っている人のところに行くが魔窟だった。顔立ちを整えれば美形になるだろうそんな人間も作っている最中はボサボサで動きやすさ、手入れの楽。それらだけを重点に置いているということが否応なくわかる。
そんな姿で活動をしており周囲には大量のゲーム。
仕事に使うもの。仕事の資料として個人的に購入したもの。そして個人的にほしくなって買った代物などである。プログラマーなんてかっこいい仕事のように聞こえるがわりとしている姿はかっこよくなかった。
まあ。姉も外で取材しているときはバリバリのキャリアウーマンという感じで美人だった。実際に取材相手からも美人と褒められていた。
だが、締め切り間際に着替えや差し入れなどを持ってきたときの光景。あれは地獄絵図という形だった。数日は風呂はお風呂に入っていないし着替えもろくにしていない。
髪の毛はボサボサ目の下にクマができて栄養ドリンクを過剰に飲んだりしたこともあり目は血走りイライラをしている。
正直、夜道であったら気の弱い子供が泣くレベルの形相だった。
閑話休題。
「だからゲームをみるんだけれどね。
そりゃメインキャラや重要なキャラクター。
そういったキャラクターだと感情がきっちりしているわ。
けれどこのゲームはそれ以上。
こうしてイベントで依頼をする依頼人である村長さんが感情豊かというのはわかる。
けれども他の人たちも感情がしっかりとありすぎる」
言いたいことはわかる。
ゲームなどで通行人Aと言ったキャラクター。そういったキャラクターだと話しかけても同じ台詞しか言わない。
例えば、村の入り口にいる村人に話しかければ「ここは始まりの村です」としか答えない。百回ぐらい繰り返してもそのままだ。
けれどもこのゲームではそれはない。
事実、聞き込みなどをしているときに同じ人に話しかける。
すると、また会いましたねと言うし同じ質問をしたらまたとか反応をする。
見ていたところでも邪険な態度をとっているとその相手を嫌う。だが、誠意を持って親切にしていえるとその相手によくしている様子だ。
まるで一人の人間のようだが、
「一人一人にそこまで細かい性格をプログラムするなんて不可能とまでは言わないけれどめちゃくちゃに手間がかかるわ。
正気を疑うレベル。
そこまでするメリットが正直、わからないわ」
「いや。作ったのはお前の兄だよな」
スプリングの言葉に俺は思わず突っ込みを入れれば、
「そうよ。
けれどもさ。何というか一世一代の超大作を作るといっていたけれどもう本当にギリギリというか……作っている最中に栄養失調というか家の中で行き倒れたのも十や二十じゃないのよ」
その言葉に全員が絶句する。
今日日、町中でも行き倒れをする人間なんてめったにいない。
だというのに家の中で行き倒れしたというのだ。
本当に魂を込めていたのだと思うが……。
その熱意には何か異常性を感じた。




