隠し通路を見つけました
休憩を終えて少し立ち上がった時だった。
「あれ?」
メロンが何かを見つけた。
「どうした?」
「ここ。なんかこう変なへこみが」
そういってメロンがそのへこみを触るととたんにダンジョンが揺れた。
「ええ?」
まさか崩壊。そう思ったが違った。
ただそのへこみを中心に洞窟ができたのだ。
「おお」
「隠し通路」
「なんか見つけた! メロン。すごい?」
「あー。すごい。すごい」
興奮するメロンに俺はそう答える。
いや。本当にメロンと出会ってからこうなんというか予想以上に隠しギミックを発見する確率が高いよな。そう思ってしまう。
「ねえ。ここへ行こうよ」
興奮するメロンだが、
「どうする?」
「うーん。可能性としてメリットもあるけれど危険もある。
少しは入って脱出方法が使えるかどうかの確認をしよう」
そう経験者のハヤテに尋ねればそういう返答が来る。
「ここは少なくともダンジョンの序盤。
そうなると何らかの形で初心者が見つける可能性もある。
だから少なくとも鬼畜とか絶対不可能。そんなのはないと思うけれど……」
そこまでいてハヤテはちょっと考えたようだった。
「ハヤテ?」
「いや。普通の会社ならそうなんだけれどさ。
あのバカが持っていた反則とか前に見たバグモンスターとか……。
それを思うと絶対に大丈夫なんて言えないんだよね。あと、普通にこういうので良い意味での裏切りみたいなのもあるし」
そう呻くようにつぶやくハヤテ。なるほど。よくわかる。
確かに前に義姉ちゃんに言われてやったゲーム。特定のルート以外を進まないので逃げ切れるモンスターであるがそのエネミーモンスターは強かった。
序盤のレベルと装備ではどう頑張っても勝てないモンスターであった。(そのゲームは倒したモンスターが落としたドロップ素材を売ることで新しい装備が販売されるシステムだった)そのために相手の動くルートを見極めて相手に見つからないように進む必要があった。そのためにそのモンスターを倒せるようになるのはそのダンジョンをかなり進めるようになってからだった。
「けれどそれなら最初から逃げられるはともかく脱出が完全に不可能とかじゃないだろ」
「まあ。確かにな。
ただ中には初見殺しのモンスターとか罠もあるからな」
「初見殺し?」
ハヤテの言葉にメロンが首をかしげる。
「始めてみると必ず倒される。
ただあるとわかっていたら対策を建てるのは簡単。
そういったことを初見殺しというんだよ」
メロンにオレはそう答える。
何も知らずに真正面から勝負を挑んだら必ず負ける。
そういったものはゲームでは高確率であったりする。
もちろんその初見殺しを同対策するかとかそれを警戒するのも一つだ。
とはいえ、その初見殺しで負けてしまうのもストーリーの一つとして組み込んでいることもある。そういうのだと攻略本や攻略サイトを使っている人から見たらいら立つものかもしれないけれどな。
ただ攻略本や攻略サイトを使うのは邪道と考える人もいる。
まあ。ゲームの中には攻略サイトや攻略本を読み込んだとしても技量と運が必要なゲームもあるんだけれどな。
ソーシャルゲームなんかがよいだろう。ガチャで仲間が手に入るというのは欲しい仲間が手に入るという保証はないからな。
そういうのを考えるとこういったゲームは攻略サイトも意味がない。
とはいえ、そこを語ってもしょうがない。
「まあ。警戒しすぎていたら進めないだろ。
少なくともこの状況は最悪としか言えない。
けれど泣き言を言っていても何が変わるかわからないんだ」
もちろん現実でも俺たちを目覚めさせようといろんな人が動いているはずだ。
幸いなことに大企業のご子息、ご令嬢。他にも有名人や芸能人、政治家などのVIPが集まっているのだ。
これをなかったことにと隠してしまうことは出来ない。
そういう意味ではこの会社は失敗したといえるだろう。
けれどもすぐに解放されるという保証は全くといってよいほどないのも事実だった。
しばらく考えたがとりあえず行ってみようということになった。
ただしやばかったらすぐに脱出ということになっている。
「しかし書き込み出来たりこういった発見を伝えることが難しいのも問題だよな。
普通にゲームをしている状態ならばそういった情報を秘密にするのも一つの手段なんだろうが……」
そうオレは呻くようにつぶやく。
普通のオンラインゲームだとしたらこういった隠しダンジョンとか裏技。レア情報。そういったのは時に秘密にする人もいるし秘密にしないまでもそういった情報はちょっとした話となる。
とはいえ、人の口にとは立てられない。
こういった情報を同じくレア情報と交換したりする。あるいはそういった情報をレアアイテムなどと交換する。
あるいは自慢したいという理由でネットの掲示板などに書き込む。
そういった行動がある。
オレとしてはさほど熱心なゲーマーではないのであくまで知識程度だが……。
とはいえ、今はそういったことが制限されている。
そしてこれは誰か一人が何かを会得しようとするというものではない。
誰か一人でもこのゲームの脱出方法を見つける必要があるのだ。
その脱出方法を見つけるために一丸となるべきなのだろうが難しい。
とはいえ、こういった情報を共有、流通できる場所というのは欲しい。
「確かにそもそもクリアせえってか言うておったそうやけどさ。
このゲームにクリア条件があるのが怪しいし」
そうカエデが言う。
「どういう意味ですか?」
そういったのはクレセントだ。
「テレビでやるカセットなり、ダウンロードやるゲーム。ストーリーがやるゲームやったらクリアちゅうか物語をめでたしめでたしで終わらせる条件がある。
魔王を倒すための冒険の物語なら魔王を倒す。
学園のイケメンと恋に落ちるゲームならイケメンって結ばれる。
どっかの館に閉じ込められた状態やったらそこから脱出。
小さな国を発展させて大国にすんねんなら一定の大きさの国にやる。
そやけどこのゲームは本来、そないいった目的は自由に決めるこってがでぇきる。
モンスターって一緒に楽しむ。
せやなかったらなんかを作ったりショーバイをやる。
せやなかったらどんどんって強いモンスターを倒してレベルアップ。
せやなかったら未開の場所を冒険。
そないいったゲームや。
まや。ラスボスちゅうかボスキャラぐらいはおるでっしゃろそやけどな。
それをこのゲーム全体を脱出できるほどの存在ちゅうってなるって怪しいわ」
そう楓は忌々し気に言ったのだった。
とはいえ、カエデの言う通りだ。
このゲームはストーリーのない自由なゲームだ。
このゲームをプレイする人はそれこそ友達と知り合ってほのぼのしたりあるいはレベルを上げてどんどんと強くなる。
あるいは生産などをしてゲームの中で物づくりをする。
あるいはゲームの世界を色々と見て回る。
そういったことを目的にしているはずだ。
選択肢のない白紙の地図。
そういうと聞こえは良いが言ってしまえば目的地のない旅だ。
まあ。そういうのもあるだろう。
現実でも目的地が特にないというか適当にどこかへ行こうとして旅に出るという人だっている。そういった人も嫌いじゃないしそういう生き方は尊敬できるというか憧れるところがある。
逆に言うとその生き方に終着点がないようなものだ。
仕事で定年退職がないようなものかもしれない。
「だからクリア条件というのがわからないんだよな」
そうハヤテが言えば、
「あの、その」
スプリングが口を開く。
「思うんですけれど……。
このハッカーを見つけ出すことがクリア条件じゃないんでしょうか?」
「へ?」
出てきた言葉にオレは思わず聞き返す。
「いやですね。
このゲームを乗っ取ったハッカー。
それってなんというかこう……楽しんでいるというか試している。
そんな印象なんです。
自分が仕掛けた勝負をクリアして見せろ。
そういっているように思えるんです。
それで思ったんです。
もしかしたらかくれんぼのつもりなんじゃないかなって?」
「かくれんぼって?」
スプリングの言葉にメロンが尋ねるのでかくれんぼについて瀬t名刺ながら考える。
なるほど、それはありえなくもない。
かくれんぼ。
今日日、テレビゲームが主流で塾通いの子供が多い現代。それでもかくれんぼや鬼ごっこという遊びを一度もしたことがない子供というのはさすがにいないだろう。……ルールを理解できない赤ん坊や幼稚園にも通えていない子供は別として……。
いや。かくれんぼというよりも宝探しとかに近いかもしれない。暗号などを用意して暗号を解読して宝物を見つけてほしい。
そういう挑戦が見える。
その割にはちょっとばかりこちらの都合を考えていないように思えるが……。
まあ。話を逸らすがとにかく隠し通路を進むということになった。
調べることで何かがわかるかもしれないという心境だ。
それに何かを進めないと難しいということだ。
可能性として何かしらすることで変化があるかもしれない。
そう思ったのだ。
隠し通路はとりあえずいきなり凶悪モンスターがいるレベルがなん段階か上のステージではない様子だ。
そのことに関しては、
「まあ。そういうのは普通はレベルとかそういうのが必要だったりするからな」
そうハヤテが冷静に言う。
まあ。そういうものらしい。
「何しろここ序盤の方の街だろ。
まあ。中心地だから高レベルのやつがいずれ拠点にしているという可能性もある。
けれどそれと同時に初心者が集まる場所でもある。
初心者がいきなり上級者コースに入ってズタボロにされました。
そうなるとそれで怒ってゲームをやめるやつもいる。
特にこういう体験型のゲームっていうのはなー。
負けイベントで最初から負けることが想定のゲームなら別だけれど」
そうハヤテが言う。
確かにこのゲームはゲーム機を購入後はソフトはダウンロード形式だ。
ソフトも優良だったが何よりも売りはその後にある課金アイテムなどだろう。
あいにくとこの現状ではまだ無理だが課金アイテムとか課金はある。
オレとしては課金することを否定しない。課金しなければ手に入らないような便利アイテムというのもある。
ただし生活費を無茶な削り方をしたり借金をしたりしてまでというのは理解できない。異母姉から聞いたがゲームにのめりこみ大学に行かなくなり留年。親からの仕送りや学費まで使い込んでゲームをしていたというものである。
そういったゲーマーを通り越して廃人までだとどうかと思うんだけれどな。
とはいえ、こういったゲームはそういった課金で経営が成り立つのだ。
なのでゲーム序盤であきらめてしまうというのはダメなのだ。
なのでハヤテの言うことは正論だった。
「とはいえ、隠しダンジョンだからね。
何かしら強大なイベントがあるはずだよ。
運良くクリア出来たらラッキーだけれど負けたり不運。
そういった状況があると思った方が良いと思うよ」
そうハヤテが言うが、
「心なしか楽しそうに見えるな」
「そりゃちょっとね。ようやっと楽しめるゲームらしさが出たじゃん。
どうしても現実だけれど……元々楽しいことをしたいと思うじゃん。
そもそも現実だって楽しいことはあるしね」
そうハヤテが笑顔で言ったのだった。




