何があったかわからんが監視されているようだ
「つまりこのハッキング事件の犯人は俺たちを監視しているということか?」
「ああ。そしてこのゲームに関してなみなみならない愛着を抱いている。
少なくともゲームバランスを崩すようなことを嫌っている」
ハヤテの言葉に俺はうなずく。
「おそらくだがこのハッキングをしたハッカー。
何らかの目的があるんだと思う。
それが何かまではわからないが……」
そうオレは静かに言う。
犯人の目的。
正直な話、わからないの一言だが仮説はいろいろとある。
考えていたのはこのゲームを作った会社への嫌がらせ。
こんな事故が起きれば会社側は大損害だろう。このゲームの使用権などをいろいろと安値で買いたたくという計画もあり得る。
だが、それはここまで長引いているとありえなくなる。
それにわざわざ監視をしたりする必要はないはずだ。
「はっきり言って情報が足りないんだよなぁ。
それにこのゲームをしながらで集められる情報は限られている」
そういってオレは上を見上げる。
別に天井を見たところで変化はない。
だがなんとなくだが、現実にいる姉のことを考えてしまう。
「まあ。これは考えてもしょうがないか」
そうつぶやくと、
「ごめん」
そう口を開いたのはヴァイオレットだ。
「俺のせいで巻き込んでしまった」
「あー。気にするな。
ちょっといろいろと考えたが似たような状況は考えていた。
むしろこれでお前の無実はわかった。
出来たらここで実力もわかったらよかったんだが……。
まあ。状況が状況だったしな」
いろいろとあって実力がわかることもなかった。
そうオレは苦笑交じりにそういった。
「わかったことってハッカーが見張っているということか?」
「ああ。そうだな。
まあ。だから前みたバグモンスター。
あれが消去されたのもおそらくハッカーの仕業だろう。
そいつはおそらくだがこのゲームに対して強い愛着を抱いている。
それと同時に販売会社に対しては強い恨みを持っている」
「ゲームには愛着を持っているのにか?」
俺の言葉にヴァイオレットが怪訝な顔をすると、
「わかる気がする」
そう言ったのはクレセントだ。
そう。クレセントの存在があったからこそこの人物像がしっくりと来たのだ。
俺達はクレセントの事情を説明する。
ついでにカエデの情報も伝える。
カエデの情報についてはヴァイオレットも元々、持っていたのかすぐに納得してくれた。
「まあ。ろくでもない会社だって言うのはあいつらのことでよくわかったけれどな」
あんな反則チートモンスターの特注品なんてものを受け付けるのだ。
よほど自分たちの欲望に正直なのだろう。
そしてヴァイオレットもあのバカレッドの付き添いなどでゲーム経験はある。あの会社のゲームがさほど良い品じゃないことなども知っていたらしい。
「つまりだ。クレセントのお兄さんが作ったゲームには愛着がある。
だからこそだまし取ったあの会社には恨みを持っている。
そういうことだ」
「あのさ」
俺の言葉にヴァイオレットはちょっと言いづらそうに口を開いた。
「それだと容疑者はクレセントじゃないの?」
その言葉に全員がクレセントを見た。
「まあ。確かに」
あっさりとクレセントは認めるがそりゃまあ。そうだろう。
オレも言っておきながら容疑者としてクレセントが上がることぐらいわかっていた。
兄が作ったゲームへの愛着を持っている。
そして会社に恨みを持っている。
立派な動機であり犯人として疑われる要素はたっぷり過ぎる。
疑われるためにいるような存在だ。
だからこそ、
「だから俺は逆に犯人じゃないと思うぞ」
「わかる。推理ゲームでも一番怪しい奴が犯人じゃないからな」
「そうじゃない」
ハヤテの言葉にオレはそういってひっぱたく。
一応、攻撃に当たりそうだが戦闘じゃないからかあるいはオレが魔法使いだからかダメージにはならない。あるいはこのゲームが空気を呼んでいるのかもしれない。
まあ。ここは重要じゃないだろう。
「オレが犯人ならまずそんな動機になる過去を言わないだろう。
それにだ。おそらくだがこの世界を全部見るのにプレイヤーとして行動するのは難しい。犯人はおそらく参加せずに現実で様子を見ているんだと思う」
そうオレは言う。
とはいえこれはあくまで犯人が一人……単独犯だった場合だ。
もしも犯人が複数犯の場合なら話は別だ。
プレイヤーとして状況を見るもの。そして外から見るもの。
そうして役割分担をしている可能性もある。
けれどもそれを全て馬鹿正直に言うことはない。
オレがこのゲームで信じることができるのはハヤテだけだ。
そういう意味ではメロンもまだ疑っているほどだ。
まあ。とはいえ今はまだ可能性。
根拠がない状態で疑いあうような疑心暗鬼の空間を作るつもりはない。
少なくとも目に見えた被害が出ない限りはそれを口に出すことはない。
「まあ。とにかくだ。
犯人はおそらくだがこのゲームのプレイヤーに何かをさせたい。
そう感じるな」
実際に不当な状況を作らないようにしている。
「まるでこのゲームの世界であるストーリーを作ったみたいだな」
そうつぶやく。
こういったゲームはストーリーがないものだ。一応、ラスボスのような強敵のキャラを連れている。さらにイベントなどもあるだろう。
一定期間のみのイベント。その中には強敵ラスボスなどのような存在もあるだろうしイベントの中にはストーリーがあったりするのがあるだろう。
ほかにもクエストの中にはストーリーがあるのも知っている。
クエストをクリアするとそれに連続するようにクエストがある。全てのクエストをクリアしたらレアなアイテムや強力なスキルを会得するのだ。
ゲーム雑誌の記者をしている異母姉とゲームオタクの幼なじみがいるのでわかる。
「けれどそうだとしたらクリアさせたいのかわからねえよ。
ヒントも何もない状態。
それに目的もわからない。
難易度が高すぎるぞ」
そう言ったのはゲーマーのハヤテだ。
「普通、こういったストーリーならば最終目的とかがある程度わかるし。具体的に何をしろっていうのを目的を言ってほしいぞ。
それがわからない状態だ」
そうハヤテが不満げにいう。
「まあ。わかったとはいえ対策はたてることができないんだけれどね」
そうオレは肩をすくめたのだった。
とにもかくにも何かがわかったとはいえ、それで何か行動が変わるというわけではなかった。ただあまり面白くない状況である。
「やっぱり外と連絡が取れるのが一番なんだよなぁ」
そういってオレは空を見上げる。
別に空の上に現実があるわけじゃないが気分の問題だ。
隣を視たり足元を見たりするのは何か違う気がするので……。
「しょうがないだろ。
とにかく前に進もう。それだけだ」
ヒントも何もない。そんな状況。
そんなどうしようもない状況でどうすればよいのかわからない。
だとすると犯人はかなり意地が悪いのか……はたまたゲームに詳しくないのかのどちらかだろう。だが、プログラミングの知識と才能はあるはずだ。
そういってオレたちは調査をする。
とはいえいい加減にレベルはさほどではない。
そしてダンジョンの外に戻る。
「さて……これからどうするかだな」
「やっぱりアトランティスを目指すんじゃないのか?」
俺の言葉にハヤテがそういう。
「まあ。確かに情報がたくさんあるらしいからな。
この世界の情報がたくさんあるだろう」
それが設定なのか。それとも黒幕が用意した嘘かそれとも謎解きのヒントか……。
何かわからないが少なくとも手掛かりを手に入れることは出来るだろう。
「アトランティスに?」
「ああ。この世界のいろんな情報があるという話だからな。
少なくとも手掛かりぐらいあるだろう」
そうオレはヴァイオレットに言う。そして、
「それでどうするんだ?
たぶんだけれどあのレッドたち。もうお前を相手にするどころじゃないと思うぜ」
事実、レッドたちの情報はない。
このゲームではある程度、すれ違った相手なども名前が記録されたりする。
その記録データにあるレッドたち。その中でログイン中なら光りログアウト中ならよどんでいる。そういうデータの中でレッドたちは光って入る。
けれどもおそらくだが悲惨な結果だろう。
そうオレは根拠もなく確証があった。
黒幕が何かデータを改変している可能性がある。
下手をしたら動きを封じられてただそこに突っ立っているだけの存在。そんな存在にされてしまっている可能性もある。
死ぬより悲惨な末路になっているかもしれないがわざわざ探してやる筋合いはない。
ただあいつらが反則チートだった強さの秘密は奪われた。
それだけは確信が持てたのだった。




