なんか怒りに触れたらしい
「……なんだ? あれは?」
思わず俺はそうつぶやいた。
現れたのは奇妙な化け物。あえて言うならキメラと表現するべきだろう。キマイラと呼ばれる幻獣。キメラの語源となったのとは違う。
いろんな動物を混ぜ合わせた存在。そう評されるようなのととてもよく似ていた。ドラゴンのようにも獣のようにも見える。魚のような。妖精のようでもありお化けも用にも見え機械にも見えた。
「なによ。あれ? なんかすごく醜悪」
「醜悪とは失礼だな。
このゲームを制作したところにお金を払って作ってもらった特注の召喚獣だ。
反則だからある程度まで秘密にするつもりだったがもう勘弁ならない。
それにお前たちをどうにかして口止めをすればよいだけだ」
「本当に反則じゃないか!」
思わず俺はそうさけぶ。
つまりゲーム会社がこのバカのために用意したチートアイテム。
いや。違法改造パッチみたいなものだろう。
「本当に最低だな!」
そうハヤテが怒鳴るが気持ちはわかる。
ハヤテは生粋のゲーマーだが一般家庭出身だ。さらに言えば課金だってお小遣いからやりくりをしているので現実のでお金の都合上であきらめた限定アイテムなどもある。
こういったネットワークでつながるゲーム。無料でゲームは始められるのがほとんどだが課金しないとできないことは多々ある。
まあ。そうやって課金をしてもらうことでゲーム会社はもうかっているのでそういうシステムに関しては文句を言わない。
まあ。課金しすぎて借金を作ったりするようなアホが出てくることは問題だろう。けれどそれは当人の自分を律する心とかの問題なのでもうしらん。
ゲーム会社の責任じゃないだろう。
だが、これは違う。
これはゲーム会社に大金を出してゲームで最強にしてもらっているようなものだ。
そりゃ。怒る。
「この会社、最低な。そないな卑怯なショーバイをしとるなんて!
確かにたくはんのお金を払ってくれる人をヒイキやるわ。
そやけど、そないな通りをやっとったら他の客を失う。
その程度のことがわからんの?」
ぎゃおお。そう怒鳴る楓。
同感だ。
とはいえ、
「文句を言ったところで目の前の問題は解決しないぞ」
レベルを見ながらオレは呻く。
レベルこそ序盤らしいレベル。だが、体力も魔力もすべてが規格外というかおかしい。そう表現したくなるようなものだった。
圧倒的すぎて勝てるイメージがわかないとはこのことだった。
とはいえ、このまま負けるのも嫌だ。
俺たちはひたすらに攻撃をよける。よける。よけ続ける。
実際に肉体を感じての精神を宿したゲーム。
ゲームの世界で体を動かすことができるというこのゲームだと集中力と反射神経などで実際に『当たらなければなんてことはない』と、いうことができる。
これが今までのゲームだとしたら攻撃を自在によけるというようなことはできない。
とはいえ、
「このままだとどうしようもないぞ。
逃げるか?」
ハヤテがそう叫ぶ。
確かにハヤテの言う言葉に正論だが、
「逃がしてくれると本気で思っているのか?」
「無理だよなぁ」
あいつらは戦闘は全てあの化け物に任せて自分たちは逃がさないことに集中している。
……化け物。
オレは改めてその化け物をにらむ。
外見で言うならばドラゴンだろう。
無駄に神々しく体中のいたるところに金銀や宝石が生えており水晶などが生えている。
そういった輝きをもっており無駄にきらびやか。
これでもかと派手さを求めている。
なんというか精神年齢の低い思春期少年……中二病だろう。
その中二病患者が考える『僕が考えるサイコーにかっこいいドラゴン』の見本のような印象だ。おそらく能力もそうかもしれない。
だとしたらどれだけ反則的なモンスターなのだ?
むしろゲームバランスをおかしくしている可能性がある。
「厄介だな」
ゲームバランスというのは大切だ。
例えば必ず即死をするという技が使える魔法があるとしよう。だとしたらその魔法は制限が厳しいはずだ。たとえば自分より上のレベルのモンスターには効果がない。
あるいは仕える回数制限が厳しい。
けれどこいつにそのことができるとは思えないのが事実だ。
もしかしたら物理攻撃や魔法攻撃を無効化。そして超火力の攻撃が可能で味方を回復できる。弱点なしとか一定のダメージを受けたら変身するとかそんなことができる可能性がある。考えれば考えるほど最悪の可能性しか思いつかないのが忌々しい。
そんな中で思いながらも進んでいくと、急激に背中の宝石が輝き始める。
「なんや?」
「ははははは。超強力な魔法だ。
敵を完全に倒して復活後も支配することができる超強力な魔法だ。
これでお前らは終わりだ!」
勝ち誇ったように言うレッドの言葉にオレは吐き気を覚えた。
そんな時だった。
突如してカミナリが落ちた。
「なんで海中ステージでカミナリが落ちるんだよ!?」
そうハヤテが叫ぶ。
これが敵の反則ドラゴン(二重の意味で)からの攻撃だったならまだわかる。けれども違った。
そもそもそのカミナリの直撃を受けたのはその反則ドラゴンだった。
「なっ!」
突如として起きたステージギミックとしてはおかしいカミナリ。
そもそもここはダンジョンが大量にあるが集まるやからは基本として最初の街から次の街ということもあり始めたばかりの新人が多少、成長したところからだ。
そのためか下に下がれば下がるほど難易度が上がるダンジョンだがここの序盤のダンジョンはかなり単純でわかりやすい内容だ。
複雑で頭をひねらすような難易度の高いダンジョンはあまりない。
まあ。隠し通路とかそういうのだとしたら話は別だろうが……。
ここはまだわかりやすいあたりだ。
そこに突如として攻撃を受けるようなしかも予兆出来ないような罠というのはありえない。ゲーム好きではないが姉の手伝いでゲームをしたことがある程度のオレでもわかる。 それにこういったゲームではダンジョンの罠にもこだわりがある。
下へと下がるダンジョンならば落とし穴は下の階へと移動する短縮版。ただし危険地帯へと行くことや地図を作るのが難易度が上がる。
森だとしたら毒のキノコから出てくる胞子がある。あるいは木の上へと移動したら落ちるという罠などがある。
高いダンジョンならば突風があって落ちそうになるとかそういうのだ。
海中のダンジョンならば水中に移動しなければいけない。あるいは危険な海洋生物が無数に表れる。そういった罠ならばわかるし突然、渦潮が起きたり満潮や干潮でダンジョンの地図が変わるというのもあり得る。
けれどカミナリはないだろう。カミナリは……。
それにギミックにしてはパワーバランスがおかしい。
「なっ! オレの最強のしもべが!」
「うわ。漫画みたいな台詞」
レッドの言葉にスプリングが呆れたようにつぶやいた。
確かに、なんかあるよな。自分のしもべが倒されて嘘だ。そう叫ぶようなキャラクター。
「なら、ふん。所詮こいつは我が四天王の中でも最弱とか言わなくてよかったんじゃないか? 更に三体も出てきたらオレは泣くぞ」
怒るのは一体目ですでに起こったので怒らない。
しかし、驚くのも無理はないだろう。
あの反則チートみたいな体力や防御を貫通して一撃アウト。
あれ、普通のプレイヤーが命中していたら何レベルあったら大丈夫なんだろうか?
このゲームを作った会社に聞きたいことがさらに増えた瞬間だった。
だがそのイカヅチは一撃だけだった。
いや。違う。その後、一気に電撃が襲い掛かりレッドたちを飲み込んだ。
「うわぁぁっぁぁぁぁぁ」
絶叫と悲鳴。そして削り取られるHP。
一瞬でゼロになると思いきやゼロにならない。
すぐに体力が回復。そしてまたもゼロ近くまでなる。
激痛が永遠に続くらしく絶叫が響く。
「これは?」
あまりの光景にヴァイオレットが青ざめながら言う。
喧嘩別れしたし最低なやつらだと思っていたとしても顔見知り。付き合いの長い相手がこれでもカと痛めつけられる光景を見て平然としていられないのだろう。
まあ。それをせせら笑えるような人間だとしたら親しくするのをオレは躊躇する。
せめて人目がないところで笑ってほしい。(そういう問題じゃない)
まあ。それにどう見ても個人攻撃(集団だけれど)で執拗な痛めつけ。
これを単なるプログラムの偶然とは思えない。
かといってこのゲームを作った会社が作ったとは思えない。
こんなことをしたとしても利益がない。むしろ後から訴えられるレベルだ。……すでに訴えられるのは決定しているような問題が起きているが……。
「おそらくだが……このゲームをハッキング。
俺たちを閉じ込めたやつはこのゲームの現状を見ている」
そうオレはつぶやく。
「え?」
ヴァイオレットがつぶやく。
「もちろんオレに注目しているわけじゃないだろう。
けれど異変。このゲームのバグを破壊している。
それだけじゃない。
このゲームのバランスを崩す反則。
ゲーム制作者が自分たちの利益為だけに作り上げたそんな品。
それに対して怒りを覚えている」
おそらくだがこのゲームについてハッキングをしたハッカーは執念を持つ。執念深い思い。それは愛情ともいうべき執念。
それを思えば無視できない。
けれどそのゲームを汚すような反則行為。
それを作った存在。
そういったゲームを破壊するような反則ともいえる存在。
それを許せない。そして破壊したい。
そう思っているのだろう。
「ゲームを勝手にしている破壊者。
それを許せなくて造るように命じた相手である奴らを許せないんだろうな」
そうため息交じりにオレはつぶやいたのだった。




