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仮入部というか仮メンバーにはご注意を……。いろんな意味で


 ヴァイオレットを入れて向かったのは水のダンジョンだ。何度も向かったダンジョンを選んだのにも理由がある。

「これから向かおうという話が出ているのが海中都市なんだ。

 そこに行くのに水中で活動可能な魔物が欲しいんだよ」

 俺はそういってヴァイオレットに伝える。

「なるほど。でもなんで水中都市」

「まあ。いろいろとあるがこの世界について調べてみようと思ってな。

 そしたら脱出方法もわかるかもしれないと思ってな。

 一応、うちのギルドの目的はこの世界からの脱出方法を見つけ出せ! だからな」

 ヴァイオレットの質問に俺はそう答える。

 実のところ、ほかにも理由がある。

 慣れた場所で探索していて土地勘もある。だからうまくチームとして働かなくても全滅しにくくなっているという利点がある。

 そしてもう一つ……考えすぎかもしれないがありえなくない可能性だ。

あまり良くない可能性なので口に出さない。

 言霊という言ったら現実になるという言い伝えがある。

 嘘か本当かはわからないが俺は最悪の可能性は考えても口に出さない。

 ……ほかにも理由があるのだが……。

 そんなことを思いながらダンジョンを進む。

 元の世界に戻りたい。それはまごう事なき本気だがぼろい橋の上をサンバを踊りながら進むような予定はない。石橋を叩いて渡るほどじゃないにしても慎重にいきたい。

「ずいぶんと慎重なんですね」

「ゲームの世界とはいえ死んだり痛い思いを経験しない方が良いと思うんですよ。

 別にそういう趣味があるわけじゃないですし」

 ヴァイオレットの言葉に俺はそう答える。

 確かにこれはゲームだ。けれど、

「何よりこのゲームの世界は第三者によって支配されています。

 その第三者が何者かはさておいて少なくともハッキングをしている。

 善人とは思えない。

 その相手が何かの気まぐれで脳みそをいじくって破壊してくる。その可能性もありますから」

「うわ。怖え」

 俺の言葉に悲鳴を上げたのはハヤテだ。

「なに? 俺たち脳死状態になるかもしれないの。そんな死に方、嫌なんだけれど」

「ならどんな死に方が良いの?」

 ハヤテの言葉にクレセントが呆れたように尋ねる。

 いや。そういう問題じゃないだろう。

「まあ。最悪の可能性はいろいろありますし……。

 何より俺たちは現実世界では植物人間です。

 意識不明の状態です。

 このゲームを作った会社が多少は責任を感じて治療費や入院費用を工面してくれていると思いますけれど」

 何しろあの場には雑誌記者などもいたのだ。

 この騒動は否応なくニュースになっている。

 ここで入院費も治療費も慰謝料も払わないなんてことにしたらたとえ法律が許しても世論は許さないだろう。いや。世論まで許しても今度は被害者家族が許さない。

 それにカエデによるとこのテスターになった人たち。どうにも大半が大企業などや取材に応じてくれる。つまりは名を上げることが可能そうな人間ばかりだ。

 ハヤテなどはどちらかというとゲーム好きとして有名なのだ。俺は姉貴が有名なゲーム雑誌の記者。ゲーム雑誌なので分野は違うが記者という職業。それはつながりがあるのだ。

 それにカエデは大会社の社長令嬢。

 被害者の人数も質も考えてみれば話題性は抜群だ。

 ここで誠意ある謝罪をしなければならないし誠意ある対応をしなければならない。……入院費用などをお金を出すのが誠意なのか? そう聞かれたら困るけれど……。

 とはいえ、

「けれども未来永劫というわけじゃない。

 それに病院だってあるし治療ってお金を出せば終わりというわけじゃない」

 延命に必要な道具の維持。治療費。

 体が完全に死んだりしないようにするための寝たきりの人間への対応。病院のベッド。治療費を出したとはいえいくら出すかもわからないし、いつまでも病院で寝かせるわけにもいかない。ひょっとしたら後はご家庭で……。

 そういって道具だけは置いて家に置かれる可能性もある。

 そうなれば面倒を見るのは家族だ。

 カエデのような金持ちならば話は別だろうがハヤテやオレのような一般家庭出身者には厄介な難題だ。

 家族だって心労や精神がやむ。

 ……正直な話、俺は姉さんが自分の幸せのために俺を見捨てたとしても文句は言わない。そもそも俺が存在したことで姉さんを不幸にしてしまったのだから……。

 まあ。その騒動だ。

「もう戻らない。そうあきらめたやつがおとなしく脳死と判断。

 肉体は死亡という扱いとかの可能性もあるからな」

 その場合、俺たちはどうなるかはわからない。

 肉体が死亡して脳も死亡する。

 その結果、ゲームの中で俺たちはどうなるか?

 突如としてデータのクズになって消えたりはたまた動かないままそこで立っているだけの亡霊みたいになるのか。もっと怖いのはある意味で死んでいる自覚がなく自我のあるデータとしてこのゲームの世界で生き続けることだ。

 生きているか。死んでいるのかわからない。

 永遠と生き続けるという亡霊のような存在。

 生きた人間とのふれあいもなくゲームのシステムの中で生きているから自殺しても痛みや苦痛を感じて蘇る。

 空腹や渇き痛みといった感覚はある。けれどもどれだけそれを味わっても死という終わりがない。それはまるで地獄だ。

 脳裏によみがえるのはかつて読んだ不老不死を題材にした話だ。

 永遠の命を手にいれたが死なない。けれども体が治ることもない。

 四肢を失い目玉を失い……最終的に体をバラバラにされて瓶詰にされても生きていて意識を保ち続けていたという話。

 うん。俺なら発狂死する自信がある。

 とにかくだ。

 俺たちの生殺与奪権はかなり他人に譲渡されているのだ。

「まあ。別に死にたくないというつもりはないが」

「いや。そこは言えよ」

 俺の言葉にハヤテがツッコミを入れるが無視する。

「けれどだ。他にもたくさんの人が死ぬ。

 それを見過ごすような人間になりたくないんだ」

 ただでさえ俺が生まれたことが原因で死者を出してしまった。

 だから俺は俺の目の前で誰かが傷つく。そして死ぬのを視たくない。

 俺はきっといるだけで誰かを不幸にしてしまいかねないからだ。

 姉もそうだ。

 ああ。こんなことになってしまって姉がどれだけ迷惑をしているのか……。

「あー。俺だけなら死にたい」

「いや。だからやめろ。

 まったくスイッチが入っている」

「スイッチ」

 ハヤテの言葉にヴァイオレットが首をかしげる。

「あー。こいつの家庭事情は複雑でな。

 こいつは物心つく前からトラウマ事件を踏み抜いていてな。

 そのせいで自己評価が滅入るほど低いんだ。

 普段は日常生活は師匠がない程度にできているんだが……。

 たまに自己評価が底辺に落ち込んで自殺志願者になる」

「えー」

「大丈夫だ。こんなところで死んだら他者に迷惑がかかる。

 姉に迷惑がかかる。

 そう判断しているから自殺もしない。そもそもここだと死にたくても死ねないからな」

 ハヤテがそういうがなぜか全員の顔が引きつっていた。……ハヤテも引きつっていた。

 そうは言うが本当に嫌になるのだ。

 そう会話をしている中だった。

 視線を感じたのは……。

「さてと……。

 俺の死に方談義は後でよいだろ。

 出て来いよ!」

 俺はそう宣言する。

「へ?」

 戸惑うスプリングたちを無視して、

「あいにくと俺はさ。

 視線には敏感なんだ。

 だから隠れていても誰かに見られているということはすぐにわかるんだ」

 そう俺は断言する。

 父親の死。

 その死は別にワイドショーやニュースに雑誌や新聞に載ったわけじゃない。さすがに未成年の子供の保護。それに中々にセンセーショナルかもしれないが探せばいろんな事件がある。ちょっと地方紙を騒がしたぐらいで終わった程度だ。

 それでも地方紙の片隅程度とはいえのったし人の口には戸を立てられない。

 俺の父親の死は近所に広まった。

 俺が物心ついたときにもまだ人の口に時たまに出た。

 俺の父親というのは本当にロクデナシだったのだろう。

 口説かれていたという女性は学生、社会人と年齢も問わない。……どのくらい問わないというと下は中学卒業目前。年上になると自分の母親よりも年上の女性もいたそうだ。

 それだけの年齢差があるのだ。

 中には結婚している女性までいたそうだ。

 さすがに旦那さんに死に別れた老婆には手を出さなかったようだ。ただし手を出さなかっただけであって口説いてお金をもらっていたそうだ。

 すごい。

 最悪なのはある家族の姉妹全員だけじゃなく母親にまで手を出したそうだ。

 野心ついてその話を聞いたとき思わず吐いたほどだ。

 その死でいろいろとわかって修羅場になった家庭や人間関係は数知れず。家庭崩壊した家庭は数多い。

 それがたった数年で変わるわけはなかった。

 俺を親の仇……実際に親の仇の様なもんだったのは父親だが……。それを思ってにらむやつは大勢いた。

 幸いにも俺を危害を加えるやつは少なかった。けれども見れば俺をにらむ。怒りを恨みを憎しみを悲しみを……それらを含めた感情で俺をにらむ。

 何も知らなかったことでも感じていた視線。その理由を知ってから俺は視線に敏感になった。そして俺のクソオヤジ譲りのくだらない顔。その顔への視線も気になるようになった。だからか俺はすぐにわかったのだ。

 敵意の視線に……。



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