社交性って大切だけれど誰しもが持っているものじゃない
結果として地道な作業。つまりプレイヤー同士に話しかけるということになった。
幸いにも二番目の街にして大きな拠点にもなりえる場所。そういったことから確実に人は流れている。ここまでくるのだからあきらめて自堕落になっている人間というわけでもない。けれど、
「俺、社交性ってないんだよなぁ」
父親の存在。
それが大きくのしかかる。そもそも両親がいなくそれほど年の離れていない姉が面倒を見ていたがそれでも話題に上る。
しかも交通事故とか病気とかならばまだ美談になっていただろうに現実は痴女のもつれ。しかも俺は不倫の結果に生まれた子供だ。
当然ながら大人から見られる視線は厳しく冷たい。その中には俺と遊ばないようにと子供に言い聞かせる親もいた。
別にその親を恨んでいるわけじゃない。
あの父親が悪いのだ。
そのために俺は常に腫れもの扱いなところがあった。
そんな俺でも否定しない人間もいたのだが数少ない。
さらに言うなら女性と顔を合わせると嘔吐する。そんな人間と親しくなろうというのはよほど器が大きいか世間の目を気にしない人間だ。
長々といったが要約すると俺は人付き合いが不得手なのだ。
そのためにうまく話しかけることができない。
そしてそれはスプリングもそうだ。
オタク趣味のためか学校でもうまくなじめない。そのために人見知りがあるスプリング。そのために俺たちは買い物などの装備購入といったことを支持された。
もちろんできれば噂などを聞いてほしいといわれたが……。
「こういう時、自分の社交性のなさが嫌になるな」
「うー。現実でもあった方が良いスキルだけれど……。
誰もが持っているわけじゃないのよね」
俺の言葉にスプリングが嘆くように言う。
ゲームで例えるあたりがゲーマーなところなのだろうがそこには指摘しない。
現実はゲームと違いリセットもなければ初期設定のやり直しもできない。
そんな会話をしながら俺たちは買い物をする。いらないアイテムを販売しているアイテムを購入する。そんな中、
「おい。お前ら」
突如として声を掛けられ俺たちは振り向いた。
するとそこには一人の神官がいた。
「お前らひょっとしてパーティーを組んでいるのか?」
神官とは思えないぶっきらぼうな口調でその神官は尋ねてきた。
神官らしい服装をしているが顔立ちはどこか気が強そうな喧嘩早い印象。三白眼にいささかぶっきらぼうというか口が悪いとしか言えない口調。
そのしゃべり方から違和感が強すぎる。
「そうだけれど……。
あんたは? 見たところ、神官みたいだけれど」
「ああ。一応な。
なあ。俺もパーティーに入れてくれないか?
神官はいても困らないだろ」
そう話しかけてきた。
その言葉に俺たちは顔を見合わせた。
しばらく考えて俺たちは疾風達と会わせた。
何しろ回復役である神官はいてほしいのは事実だからだ。
「へー。かわいい子が多いな。
けれどゴリゴリ系の戦闘特化なパーティーだな」
「いや。念のために言うと性別で決めたわけじゃないからな」
神官の言葉に疾風が呆れたように突っ込みを言う。
「それで名前とかは?」
「あ。これはステータスだ」
俺の質問に神官はそういうとステータスを見せる。
『ヴァイオレット 職業・神官』
レベルの方は俺たちよりやや低いといったところだろう。
「質問だけれどさ。
神官って回復専門だろ。
確かにレベルが上がれば戦闘ができるかもしれないけれど、個人でここまで来れるとは思えないんだが……。今までパーティーを組んでいたやつらがいたんじゃないのか?」
「あー。やっぱ気づくか」
俺の言葉にヴァイオレットはそううなずくと話を始める。
元々ヴァイオレットはある金持ちの遊び相手という仕事をしていたそうだ。
「仕事?」
「あまり楽しい話じゃないんだけれどさ。俺の両親がある屋敷で働いていてな。その御曹司様の遊び相手をガキの頃からさせられていたんだ」
忌々しげに言うヴァイオレット。
甘やかされて育てられた御曹司。当然ながらその性格から親しい友達というのはいなく幼少から遊び相手を命じられていた。主に面倒をかけた相手の謝罪や後始末。そして遊び相手などをさせられていたそうだ。
「で、金でこのゲームの体験版をすることになった。
俺の職業も決められたんだよ」
いつもやりすぎさせないように苦言やストッパーだったヴァイオレット。
そのために疎まれていたらしくあまり人気のない神官の役目を言い渡されてしまったそうだ。そしてこの街まで来たのだが、
「もう。嫌になったんだよ」
そうため息交じりにヴァイオレットは言った。
「そりゃ、親の仕事の関係とかさ。いろいろとあった。
大人になって独り立ちしたら縁を切るつもりでもあった。
けれどこの状況だ。
もういい加減にしてほしい。それが本音だ。
この状況で親同士がどうのこの言われたとしても関係ない。
そう思ったんだよ」
「確かにな」
その言葉にカエデが納得する。
「この状況でも親の威光をかさに着ているアホがいるとは驚いたわ。
この状況でなんかされて親にすぐ泣きつけるとほんまにおもっとるんか?
第一にたとえ泣きついたところで親やて怒っとるわ。
かわいい子供が意識不明。それが自分の意思でこのゲームをやっていたんならまだわかる。けれど巻き込まれてという形なら腹をたてとるわ。
そのうえで子供をわがまま放題させて仕事でどうのこうの言われる。
どんな罰ゲームや」
カエデも金持ちの会社令嬢だ。(令嬢という印象を感じさせない口調だが)だからこそそういった相手には辛辣な意見を言えるのだろう。
「そもそもその泣きついたところでほんまにどうにかできるか怪しいわ。
まっとうな会社をやっとるんなら従業員をそんな私情で解雇にしてみい。
大損害になってしまうわ。
その程度もわからんアホ社長のところならととっとやめた方がためや。最初こそ仕事大変かもしれへんが社長の息子に息子を合わせる程度の地位がある。
つまり有能ということや。
沈みそうな船なんぞととと逃げた方が良いで。
沈む船には鼠やて逃げ出すんやからな」
まあ。言いたいことはわかる。
カエデの言葉に俺はうなずく。
この非常事態でも父親の権力をかさに着て威張るだけ。
そんな人間と側にいたらストレスもたまるだろうし何よりも負担が大きいだろう。
そのことを考えれば抜け出すのは当たり前だ。
「まあ。そういうわけだ。
けれど問題があるんだよ。
俺の職業、無理矢理に決めさせられたんだけれど……神官なんだ。
一人だといろいろと負担が大きい」
「あー」
その言葉に納得する。
回復に防御とパーティーに一人いれば大助かりの神官。だが、逆説的に言えば攻撃力がなくパーティーという攻撃や盾役がいないと一人では難しい。それが神官だ。
つまり補佐としては重要だが一人で行動するには向いていない。それが神官というやつだ。まあ。このゲームはモンスターと契約することが特徴といえる。
「魔物と契約は?」
そう疾風がヴァイオレットに尋ねる。
魔物と契約。戦闘能力にたけているというか戦える魔物と契約をしていたら確かに一人でも行動は可能だっただろう。この街で行動を共にしていたのならばそれが可能だったとしても俺は驚きはしない。そう思っていると、
「したかったんだけれどできなかったんだよ。
何しろ同行者があの性格だ。
契約なんて難しいとしか言えないんだよ。
まあ。何とか力を見せれば別だろうけれどな。あれが同行者だ。
強い魔物は全部、俺のものだ。よこせ。そういって取り上げられた」
「契約した魔物を奪えるのか?」
ヴァイオレットの言葉に俺は驚く。
別に契約ができていなかったことはさほど驚くことではない。
このゲーム。魔物と契約を結ぼうと言っている割には契約方法は困難というか難しいところが多い。それに同行者の話から聞くに仲間を考えているとは思えない。
だから仲間も契約ができるようにしうているとは思えない。
けれども魔物を奪い取れる。
その言葉に俺は驚く。
「いや。奪うことはできないよ。
ただし任意ならば話は別だよ。
任意で譲渡することができるんだよ。
パーティーを組んでいるとその中にそういうスキルがあったはずだよ」
「? あ、本当だ」
コマンドを調べてみればそう書かれている項目があった。
「まあ。ありえなくはないか……。
知り合いを呼んで現実での友達同士でパーティーを組む。
その場合、強力な魔物を使役させておく。
装備アイテムとかでレベルが低い奴を強化させる理屈だ」
「なるほど……」
ハヤテの言葉に俺は納得する。
ゲームで高性能のアイテムを装備すれば初期レベルのものでも最初の魔物なんて敵ではなくある程度のモンスターを楽々に倒せる。そして一応は自分よりもはるかに上位のモンスターを倒せるので経験値が入り一気に成長していくというわけだ。
けれど、
「ただし、言うことを必ず聞くというわけじゃなさそうだったけれどね」
「まあ。メロンを見ていると納得だわ。
こいつらはキャラが細かい。単純に主人の言うことを聞くという感じじゃない」
ヴァイオレットの言葉に頭の上にいるメロンを見てうなずいた。
このゲームはバーチャルリアリティなせいか現実にかなり近くよくできている。まるでゲームの世界に本当に入り込んだようなものではない。
異世界に本当に来たような気分だ。
キャラクターも本当に生きているようだ。これだけのキャラクターをプログラムして動かすのにハードがどれだけ大量に必要なのかはわからない。
それを考えるとかなりの実力を持っているかわからない。
「まあ。メロンは能力がかなり高いからな。
ただ実力を示すだけじゃなさそうだ」
そう俺は言う。
「まあ。それはさておいておこう。
そんなインチキ方法で進み続けることがいつまでも通じるという保証はないしな。
それにもう会うつもりはないんだろ?」
「まあな。現実に戻ったら厄介なことになりそうだけれどその時はその時だ。
そもそもこんな騒動が起きたんだ。もういい加減にしろ。そういて断ち切ったところで構いはしねえよ。親には迷惑をかけるかもしれないけれどこれだけの事件があったんだ。
不満が爆発したんだ。そう思ってほしいもんだ」
「それもそうだな。
ならそうだな。俺たちのパーティーに入りたいんだよな」
そこまで言って俺はハヤテを見る。
「ハヤテ。どうする?」
一応、リーダーであるハヤテに尋ねる。
「まあ。確かにオレがリーダーだけれどさ。
俺が独断で決めるわけにはいかないだろ。
それぞれの意見を聞きたい。まずハヤテは?」
「俺は別に反対じゃないな。少なくとも今の状況でパーティー入りを断る理由がない」
「うちもや。それに回復魔法が使えるやつがいるなら回復薬の消耗が減る。
そうなればもっと長期間のダンジョン潜りが楽やし別の街へ行くときも助かる」
ハヤテが答えればカエデも賛成する。
「わ、わたしも今のところは……特に問題はないと」
そうスプリングが言う。
しばらく考えていたクレセントが、
「今のところは反対する理由はないわ。
けれどもそうね。様子見ということでいったん、試しにダンジョンに一緒に潜ってみない? ダンジョンに潜って冒険をしてみる。
それで結果を見て考えてみる。
実際のところに行動をして何か問題が出るかもしれないしね。
つまり体験入りということよ」
そう答えた。
なるほど……。それは合理的だ。
ほかのメンバーも反対意見はなさそうだ。




