水のダンジョンと強すぎるボスキャラ
おそらくボスの部屋なのだろう。そこに現れていたのは巨大な青い竜だ。竜といっても西洋のドラゴンではない。どちらかというと蛇に近い東洋の龍に近い印象だ。
こっそりと覗いてみると、
【リヴァイアサン 竜族 レベル?? 攻撃意志あり
HP?? MP??】
ステータスが見れない。
「ステータスが見れないのは自分たちのレベルが三倍近く差があるということよ」
「うわ。それは無理だ」
メロンの言葉に俺は思わずつぶやく。
ゲームのレベルというのはわかりやすく言えば実力差だ。
レベルが自分より上だと相手より自分が実力が上だというわかりやすいものだ。もちろんレベルが上だと絶対に負けるという理論ではない。
ゲームがそうだとしたらおもしろくない。だが、よっぽどの三流ゲームならばレベルを跳ね上げて十ぐらいレベル差があれば勝てたりするのが基本だ。
まあ。ある程度、ゲームが進むとレベルだけではなく相性や戦略があったりする。
ほかにもアイテムや道具、装備を整えて実力を底上げするというのもある。
とはいえ、この初めてばかりの序盤。そこでレベルが三倍以上。
俺たちのレベルは大体、二十前後ということから相手のレベルは六十以上ということだ。
「あれは、強敵だな。
おそらくある程度、攻略が進んでから倒す形だな」
ゲームなどでたまにあるのだ。
基本的に序盤などのモンスターは基本的にそのレベルで勝てるようになっている。一つや二つ、レベルが上だったりすることもあるが……。
だが、ごくまれに例外がある。
それがイレギュラーモンスターみたいなものだ。
特定の場所に陣取っており倒せば良い品が手に入るが当初のレベルでは逆立ちしても勝てない。そういうものだ。
その奥には何かの入り口だろう扉がある。
「おそらく扉を通ろうとして進んだんだろうな」
俺はそう冷静につぶやく。
何しろ攻略本もないんだから勝てないということがわからないのだろう。
どうやら逃げられないボスキャラの類でもあるようだ。
「助けないの?」
「助けられるならともかくなぁ」
メロンの言葉に俺は言う。
「お前の時は弱い者いじめという感じだけれどさ。どうもあのモンスターはあの門を守ろうとしているだけで門を通ろうとしなければ攻撃しない。
つまり攻撃を受けているのは自業自得だ」
ボスキャラ。中ボスとかレイドボスとかいろいろあるが基本的にそういうボスは一定の場所から動かないのがゲームの鉄則だ。
「あいつらは正々堂々と戦ってピンチになったんだ。
なら自己責任。
助けて勝てる可能性もないのにここで何かしたところで……。単なる間抜け」
ここでピンチにさっそうと現れて助ける。それはそれですごくかっこいいだろう。
けれども悪いが相手はボスキャラ。つまり気をそらしてその間に逃げてもらう。そういう手段も使えないし何よりも、
「相手がボスキャラだろ。
ひょっとしたら助太刀もできないかもしれないし……。万が一、倒せたとしても余計なトラブルを生む可能性も高い」
「あー。たしかにな」
俺の言葉にハヤテがうなずく。
「? どういうこと?」
俺の言葉にクレセントが疑問をつぶやく。どうやらクレセントはこういう同じゲームをたくさんのプレイヤーがするゲームの初心者らしい。
俺はゲームは義姉さんに頼まれてやるぐらいだが義姉さんの職業柄くわしい。そしてハヤテはゲーマーだから当然詳しい。
どうやらスプリングと楓もわかっているらしい。
「ボスキャラというのは必ずレアアイテムをドロップ。
つまり倒すと経験値とかアイテムとか賞金とかいろいろと手に入る。
しかも、こういうゲームなら初めて倒した人間には何かしらの特典が付くのが基本だ」
まあ。ハッキングされているのだから意味がないが……。
「それだけじゃなくて初めて倒した。その名声というか名誉を誇るのもある。
だが、誰かと協力した場合はアイテムの振り分け。経験値の振り分け。賞金の振り分け。いろいろとある。最初からパーティーを組んでいるならともかく初対面の相手。
そうなるとトラブルになるというわけだ」
素直な相手ならばお礼を言い合ってアイテムなどを分け与えることもある。もちろん必ずアイテムを与えられるというわけじゃないだろう。
どうしても必要なアイテムがあって挑戦していた。そういう人間もいる。
けれどもそうじゃなかった場合、むしろ余計なことをするな。そんなトラブルになることもあるというわけだ。
「このゲーム。助けましょうか? のメッセージを送ることができるわけじゃないし……。何よりも助けておいて一緒に負けたら責任を追及される可能性もある」
どちらにしても面白くないというのが本音だ。
「じゃあ」
「悪いが見捨てさせてもらおう」
俺はそういって手を合わせる。
「まあ。自分たちの実力を過信して行動したんだ。
自分の責任は自分でとる。それが俺のモットーだ」
あの男もそういう男だったらよかったのに……。そう思いながら俺はそうつぶやいた。 その言葉に全員がなっとくしてくれた。
ついでにいうと、そんな話し合いをしている間に彼らは見事にゲームオーバーとなった。全年齢対象ということがあってかグロテスクなしたいが転がっている。と、言うことはなかった。キラキラとした光の粒子となって消えていく。
おそらくダンジョンの外に放置されるのだろう。
「まあ。地図で書いておいて気を付けておくか。
ただしダンジョンを出てもここのことはすぐに話すなよ」
「? なんで?」
その言葉にクレセントが疑問を口にする。
「この世界を脱出するには人手が必要よ。
ギルドに入ってもらうとかパーティーを組むという手もあるけれど……。それぞれの専門分野というかそういうのでギルド同士ができる。
そして協力する。それならば情報の共有は大切だと思うけれど」
「たしかにな。情報の独占もたしかにゲームでは珍しくないけれど……。
この状況で情報の独占はあまり利点がないと思うんだけれど」
クレセントの言葉にハヤテも言う。
「別に独占するつもりじゃないよ。
ただこのことを俺たちがすぐに話す。
そうなると先ほどゲームオーバーになったやつらがどんな動きをするか?
それを考えたんだよ」
ものすごい強いボスキャラにコテンパンに倒された。
言ってしまえば間抜けともいわれるだろう。
俺は別にそう思わない。まあ。相手のレベル差を考えられなかったのは間抜けかもしれないが死んででも相手の情報を得ようと考えた。そうともとれるからだ。
「なのにひそかにみていた俺たちが言いまわす。
それだと恨まれる可能性も高いだろ。
それに、俺たちから聞いたら言っている俺たちはさておいて聞いた人間は、
『レベルの差も考えずに強いキャラに挑んで負けた間抜けがいる』
そう判断してそう言いふらす可能性があるだろ。
当人たちが何も言わないならば数日ぐらいだってから話せばよい。
強いボスがいるから気を付けた方が良い。
今の状態だとよほどレベルが高くないと難しいぞ。
そういえば他の奴が部屋を見つけたと思うだろうし……」
そもそも危険を覚悟で挑んだ彼らが情報を公開するかしないか。
しないと思い込むのは失礼だ。
そういえば、全員が納得してくれた。
「しかしギルド同士の協力か」
それは考えていなかったな。と、ハヤテの言葉に俺は考える。




