水のダンジョンの探索 二度目! (その1)
「おお。すごい。本当に移動できた」
と、俺は言う。アイテムを使えば確かにボスの跡の場所にたどり着けた。
「そういえばブロッサムさんとかはどうしたのかな?」
ハヤテが思い出したかのように言う。
俺たちは帰還したがブロッサムさんとは合わなかった。まあ、このゲームの世界は広大だ。出会わなかったとしてもおかしくはない。
「さあな。俺たちよりプレイヤーとしては上なんだろ。
まだ進んでいるんじゃないか?
俺としてはそっちの方が良いなぁ」
なるべく美人とは親しくなりたくない。
そう思いながら俺たちは階段を降りると予想通りというべきか水中だった。装備していた水中でも呼吸可能なアイテムのおかげで進める。
ただし、どうやら服装が移動を制限しているらしい。
「服装かー。俺なんか鎧だから動きが鈍い。鈍い」
「水中向けの装備ってあるかもしれないな」
どうやら会話はできるらしくため息を言うハヤテに俺はそう答える。
「わ、わたしも動きにくいです。ローブが絡まって」
「うちはどうにかやな。一番マシなのはクレセントちゃう」
スプリングの言葉にカエデがそういってクレセントを見る。
確かにクレセントが一番、動きやすそうだ。ちなみに、メロンやモルテだが信頼度が高いからか、それともイレギュラーだからか呼吸が可能。
ただし、ウィンディは呼吸が不可能となって召喚不可能となった。
無理に償還を維持していたら、信頼度が下がる。
「ウィンディをなるべくレベル上げしたかったのにな」
「しょうがないだろ。ひょっとしたら契約している魔獣に装備させるアイテムとかあるかもしれないけれどな」
馬だって乗るのには手綱や馬具が必要だ。
それを考えれば理解できるというわけだ。
「なんでメロンやモルトは大丈夫なんだよ」
「ゴーストは呼吸は不要ですから」
「メロンは全属性の精霊だから、水中でも呼吸できるんだよ」
「……ちゃんと理由があったんだな」
ハヤテの言葉にスプリングが言えばメロンが胸を張って言うので俺はそうつぶやいた。単に、こいつらがイレギュラーだからかと思っていたので……。
「ちゃんとこの世界に適応はしているみたいですよ。特殊なところがありますけれど……」
そう前置きをして言うスプリングが言う。
どうやら、この世界というかゲームの世界に入ってから確認したそうだ。
普段はしゃべらないがスプリングはモルテと会話ができるようだ。
どうやら水中で活動ができる魔物はいろいろとあるのだろう。
そう思いながら俺たちは水中を進む。泳ぐように進むようだ。
現れるモンスターも前半よりも魔物が唐突に表れやすくなっている。
一気に迫ってくる魚の魔物。周囲が水な分だけ四方八方から攻撃をしてくる。
「厄介だな」
そうつぶやきながら俺たちはモンスターと戦う。なかなかに強敵が多いがその分だけ、良いアイテムも手に入る。
「えっと、手に入ったアイテムは毒消し高価がある洗浄サンゴにMPを回復する歌声パールにやけどを治す氷結乾燥、魔物を引き寄せる人魚貝。薬品の材料となる七色貝。ほかにも、赤色鱗などもあるな」
カエデはそういってアイテムを見る。
アイテムを確認して売るかどうかするのはカエデの役目だ。
部活動かギルドかは知らないが会計役は間違いなくカエデだ。
「食材もいろいろとあるな。
痺れナマズの肉にミルクホタテ、ライトフィッシュの身といった魚肉系だな。他にも砂糖真珠に塩貝、香草海藻といった調味料だな」
塩や砂糖は大きな町ではすぐに手に入った。けれども、こういうダンジョン産の調味料や食材のほうがおいしいのが作れそうなのだ。
まあ、手に入れる難易度が高い分だけおいしいのが作れる。そういう理屈なのだろう。虹色いくらの卵を俺はみながら言う。
醤油があれば、新鮮魚のお刺身とか海鮮丼ができそうだ。それだけじゃなくて、魚を醤油と出汁で漬け込んだ漬け丼も食べることができそうだ。
「醤油とかないかな?」
「海で手に入るものか?」
思わずつぶやいた言葉にハヤテが訪ねてきた。
「俺は料理はカップラーメンしかできないが」
俺はカップラーメンを料理と認めない。料理を名乗るならば最低限、ゆで卵ができなければ認めない。袋麺なら許すがお湯を注ぐだけのぶんは認めたくない。
「醤油が大豆からできている。その程度は知っているぞ」
「まあ、たしかに醤油は難しいが魚醤みたいなのなら手に入るじゃないか」
「なんですか? それ」
俺の言葉にクレセントが尋ねる。
「醤油に似た調味料だ。魚と塩を漬け込んで出てきた汁だよ。
醤油より塩分と臭いが強いから好みがわかれるが、醤油の代用品になる」
ひょっとしたら自作できるかもしれないな。そう俺はひそかに思ったのだった。
「調味料か。それなら、マヨネーズとかタルタルソースを作れないか?」
「まあ、マヨネーズは自作も簡単だしマヨネーズがあればタルタルソースも作れるけれどな。卵とお酢に油が必要だし、油と卵は新鮮じゃないといけないからな」
おれはそう前置きする。それに、
「タルタルソースは結構、材料を使うんだぞ。玉ねぎとピクルスにお酢と香草の類が欲しいぐらいだ。まあ、マヨネーズなら近いうちに作る。
けれど、さすがに言っておくがお好み焼きソースやケチャップソースは期待するなよ」
俺はそういっておく。
家庭で料理を作っていたので、マヨネーズやタルタルソースなら作れる。
まあ、マヨネーズは一時期に手作りに姉さんがはまっていたから作っていただけで、普通ならばタルタルソースを手作りするぐらいだ。
お好み焼きソースやオイスターソース、トマトケチャップといったソースの類も手作りをしようと思えば、不可能じゃないだろう。
だが、やはり工場で大量生産されているしなの方がおいしかったし安上がりだ。
学生の身の上では、そんなに時間がかかる料理が作れないのも事実だ。
「ねえ。ユウキ。
まよねーずってなに?」
と、メロンが訪ねてきた。
「調味料だ。すっぱくて甘くてしょっぱい」
「それ、どんな味?」
俺の説明にメロンはさらに訳が分からないと言いたげな表情を浮かべている。
「今度、作ってやるから気長にまちな。
今から魚醤を作っておくからさ」
俺はそういって魚醤を作り始める。
魚の内臓を取り、塩と魚を重ねるようにしていき常温でアイテムボックスに瓶詰めしておく。そして、しばらく放置しておけば完成だ。
「どのくらい時間がかかるの?」
「一年ぐらいかな。
あと、失敗する可能性もあるからあまり期待するなよ」
「……一年」
「現実ではだ。
まあ、問題としてはこの世界で作れるか? と、言う疑問だな」
俺はそういって肩をすくめる。
何しろここはゲームだ。
すべてはデータの存在。行ってしまえば、0と1で作られている。
塩と魚で塩漬けはできても、魚醤ができるとまで設定している保証はない。それなら、醤油とかを普通に販売しているほうが当たり前だ。
そんなことを考えながら俺は歩いていく。
途中で手にするしななどを塩漬けしたり、ハーブとオイルで漬け込んだりしたり、刺身にして塩で食べたりをしていったのだった。
……うん。やっぱり醤油が欲しい。
日本人なら米、味噌、醤油の三拍子だ。
「どこかに醤油とかないかな?
日本みたいな世界観の国とかさ」
同じことを思ったらしいハヤテが愚痴る。
「たとえ、手に入れる手段があったとしてもすぐに手に入るわけじゃないだろ。
醤油もみそもすぐにできる品じゃないんだ」
と、言うか調味料の類は基本的に簡単にはできない。
みそも醤油もお酢も簡単にはできない。砂糖や塩だって現実では精製するのに時間と根気と技術が必要だ。今でこそ、機械で大量生産が可能だがそうとは限らないのだ。
ゲームとも違うようなものだ。
そう考えながら俺たちが進んでいる中だった。
突如として悲鳴が聞こえた。
「なんだ?」
と、俺は食べかけの塩つけの刺身を飲み込んで言う。
「行くぞ」
そうつぶやく中でハヤテが走り出す。
「全速力ね」
「まあ、あいつは困っている奴を見過ごさない面倒見の良い奴だからな」
クレセントの言葉に俺はそう答える。
そうじゃなければ、常にマスクをしていて女子と関わらない。
そんな変人である俺と親しくなろうとしないだろう。
実際のところ、俺は変人ということで評判なので学校では友人は皆無に近い。
そんな俺を自分から話しかけてくるのはハヤテぐらいなものだ。
そう思いながら追いかければ、三人の冒険者が襲われていた。
襲っているのは、プレイヤーではなくノンプレイヤーの魔獣だ。
外見は、あえていうならば半魚人である。
かなりえげつない外見をしている。
調べてみると、フィッシュマン・ソルジャーというらしくレベルも体力も魔力もずば抜けて高い。その上に、どんどんと増えている。
「げっ! あれ、フィッシュマンじゃん」
「知っているのか?」
「うん。かなり強い種族だよ。
知能も高いし、何よりも文明をもって群れで暮らしている。
一度、敵対すると延々と仲間が集まって襲ってくるそうよ」
「なるほど」
おそらく高レベルの一匹を見つけて攻撃をしてきたのだろう。
その結果、仲間が大量にやってきたというのだろう。
おそらく低レベルのプレイヤーのうちは逃げるのを基本としている初心者殺しのキャラクターといったところだろう。そんなことを思いながら俺たちは動く。
すでにハヤテが助けようとしているのだ。俺たちが見捨てるというわけにもいかないだろう。俺たちも乱入してなんとか数を減らしていき、
「後は逃げるぞ」
「賛成」
俺の言葉にスプリングがそういうと一時的に混乱状態などにする魔法を集団に使う。その瞬間に彼らと共に逃げ出した。
「大丈夫か?」
俺はそういって彼らを見る。
彼らは男ばかりのパーティーだ。
こちらが女が三人もいるというので俺たちをちょっとだけにらんだが、助けられた身の上だということを理解したのだろう。すぐに気を取り直したようにお礼を言う。
「俺は技術者のアキラ」
「僕は悪魔使いのシズク」
「……傭兵、マック」
三人ともかなりマイナー系な職業だ。
この世界での主な職業は最初に選べるのだがどれも彼らのは変わり種と呼ばれそうな職業だ。人気もかなりなかっただろう。
そう思っていると、
「あんたらひょっとしてこのゲームの作成会社にやとわれたんとちゃう」
カエデがそういいだした。
「へ?」
「ゲームのテストプレイヤーとしての依頼を受けていたんとちゃうんか? そういっているんや。このゲームの職業は自由に選べるけれど、当然ながら最初の印象で職業を選ぶけれど片よりがうまれてまう。
少ないならまだしもゼロ人ちゅーのは困るやろ」
「なるほど」
その言葉に納得する。
テストプレイヤーの体験談などは言ってしまえば宣伝だ。
このゲームはゲーム業界を大きく変えるといわれている。
だがそれは成功すればだ。
失敗すればこのゲームは大赤字になるだろう。
……すでに失敗をしているような気もするがそこは今はどうでもよいだろう。つまり何名かバイトとして雇ったテストプレイヤー。彼らは職業まで指名されていたのかもしれない。職業を指名してプレイヤーたちのプレイ状況などを実際に見ていく。
そうしていった可能性があるというわけだ。
カエデの言葉に彼らは少しだけ迷った様子だったが、
「ああ。そうだよ。俺たちはちょっとした大学のゲーム部の部員。
テストプレイヤーのバイトを受けてこのゲームをプレイしたんだ。
マイナー系職業を遊ぶという役目を持ってな」
そういってリーダー格らしいアキラは肩をすくめたのだった。




